Flag67:融和を進めましょう
「フハハハハ、やるではないかローレライの若造が!」
「井の中の蛙大海を知らずという意味を今日こそ教えてやろう!」
ユリウスさんの剣とガイストさんの槍が鈍い音をたて、不規則なリズムを刻んでいます。毎日毎日同じようなことをして飽きないのかと思いますが2人とも楽しそうにしていますので別に良いでしょう。ユリウスさんについては意外と不器用であることがわかりましたので今日のところはガイストさんとじゃれていてくれる方がましでしょうしね。
「ワタルさん。そろそろ資材が尽きそうです」
「わかりました。マインさん、トッドさんにもらってきますので適度に休憩をはさみつつ作業していてください」
「わかった。ハイ、ホア。もう少ししたら休憩だぞ」
「わかった、父様」
「がんばる」
マインさんの言葉に元気よく返事をする2人に癒されつつ浜辺近くまで乗り付けていた漁船へと向かい一路トッドさんの元へと向かいます。
しばらく船を走らせ昔この漁船が泊まっていた小さな島へと着きました。そこには大量の木材が積み上げられており、今もなおローレライの方々が次々に木材を運び入れています。
トッドさんはもう1人の方と一緒にそれを受け取りながら在庫を確認し、次に持ってきてもらう木材を運んできたローレライの方に指示しています。
1か月ほど前にローレライの方に囲まれて腰を抜かしていた姿が嘘の様ですね。
島ギリギリまで漁船を近づけ、こちらに気づいたトッドさんへと声をかけます。
「トッドさん。木材を受け取りに来ました」
「わかりました。ローレライの方に運んでいただくので少し待ってください」
トッドさんの指示に従いローレライの方々が次々と漁船へ木材を運んできます。受け取って積み込むのは私1人しかいませんのでなかなかに重労働です。毎回マインさんにお手伝いをお願いすべきだったかと後悔するのですがマインさんとハイ君、ホアちゃんは家づくりの主力として頑張ってくれていますしこうするしかないのですけれどね。ユリウスさんは……まあやめておきましょう。
この大量にある木材の出どころは座礁したウェストス海運商会の4隻の船です。さすがに船として再利用することは操船する人数の面でも修理と言う観点から考えても無理でしたので放置していましたが、そのまま死なせてしまうのももったいないとずっと気にかかってはいました。今回のことはちょうど良い機会ですので船としての命を終え生まれ変わってもらうことにしたのです。
私たちは現在ローレライの方々が料理するために使う建物を建てています。もちろん専門の大工がいるわけではありませんから簡易なものを想定していたのですが意外と言っては失礼かもしれませんがマインさんが家を建てた経験があり、ハイ君とホアちゃんも手伝ったことがあるということで想定よりも本格的な家が出来てしまいました。
元々が船の素材として使われていた木材なので水や腐食に強く、またある程度加工が済んだ状態で切り出していけるため建築は私の想像以上に早く、ローレライの島へとお連れして1か月少々だというのに既にユリウスさんたち全員が寝泊まりするのに支障のない家が建ってしまいました。もちろん細かい内装などはありませんので少々殺風景ではありますがね。
続いて取り掛かってもらったのが現在建設中のローレライの方々が料理するための小屋です。これについては私がマインさんにお願いして舟屋の様なつくりにしてもらっています。ローレライの方々が出入りすることを考えればその方が良いでしょうからね。
一応魔道具は電気を使用していないため雨などに濡れてもあまり問題がないらしいのですがそう言った荒い使い方をすれば使用期間が短くなるのは必然です。それに料理をする時に雨に降られてしまっても困りますしね。今後は食材を冷やす冷蔵庫のような魔道具も購入する予定ですのでそれを保管する場所も必要ですし。
木材の受け取りを終え、ローレライの島へと戻り木材を皆で降ろして家の建築を続けます。作業を続けているといつの間にか太陽が一番高い位置へと昇っていました。流れる汗をタオルで拭きつつ腰を伸ばします。海風が頬を撫で、滴る汗を熱と共に運んでいきました。
「ワタル様、食事の用意が出来ました」
「ありがとうございます」
ミウさんに呼ばれ、2人で海岸線を歩いていきます。雑談を交わしつつ向かえば食事を配る調理場の付近にはローレライの方々だけでなくユリウスさんとその部下の方々もおり、既に食事を始めていました。
机と椅子は元々ウェストス海運商会の船から持ち出した物があったのですが、大きすぎて私だけでは持ち出せなかった物なども運び出すことができ、そこに並んでいますので砂浜とはあまりマッチしていません。床に板を敷いたり、屋根をつけたりすれば海の家っぽくなるかもしれませんね。ふむ、それも良いかもしれません。この作業が一段落したら提案してみましょうか。
「ワタルさん。お疲れ様です」
「エリザさんもお疲れ様です。少しは慣れましたか?」
「はい。少しずつですがミウに教えてもらっています」
「殿下は器用で覚えが良いので大変助かっています。どこかの誰かとは大違いです」
エリザさんに盛ってもらった昼食を受け取ります。綺麗に盛られていますし、器からこぼれているようなこともありません。本当にだいぶ慣れてきているようですね。
少し棘のある言い方をしたミウさんを見ると、その視線はがつがつと食事を食べているユリウスさんに向けられています。確かにユリウスさんに何かを頼むと逆に作業が増えることの方が多いのですよね。嘆息するミウさんの姿にエリザさんと2人で苦笑いします。
「ユリウスさんには島の探索をしていただいていますし、適材適所ですよ」
「ふぅ、そうですね。あの方は戦場で人を率いる以外は役に立ちませんから」
ものすごく辛口な言葉ですがここ1か月のユリウスさんの行動を考えるとフォローしにくいと言うところがなんとも言えないところです。本人はやる気に溢れているから逆に大変なのですよね。
「ユリウスは元々貴族ですから仕方がないですよ」
エリザさんがフォローのつもりで言ったらしいその言葉にミウさんと顔を見合わせて苦笑します。皇族のエリザさんが言うとそれはフォローになっていませんからね。
「おーい、おっちゃん。こっちこっちー」
2人と別れて食事を食べる席を探してうろうろとしていると少し離れた場所からアル君が呼ぶ声が聞こえてきました。手をぶんぶんと振って私を呼ぶアル君と同じ席にはガイストさんとリリアンナさんが座っています。4人机ですのでアル君の隣の席が空いていますね。歩く方向を変えそちらへと向かい席に座ります。
「おっちゃん、お疲れ」
「アル君もお疲れ様です。特にトラブルは起きていませんか?」
「おう。ユリウスと親父がいつも通り殴りあっていただけだ」
アル君の言葉にガイストさんが少し気まずそうに視線をそらします。
アル君にお願いしているのはユリウスさんたちとローレライの方々の間で諍いが起こらないように監視してもらうということです。
常識が違いますので不和が起きるのは想定していましたし、実際起きました。そんな時ローレライの族長の息子であり、私と一緒に過ごした時間が長く人間の事もわかるアル君がその役に最適だったのです。大きな諍いになりそうであれば私を呼ぶように言いましたが今まで呼ばれたことはありませんのでうまくやっているのでしょう。
「あなたもそろそろやめたらどう?」
「いやっ、あれはあちらから突っかかってくるのだから仕方がないだろう。キオック氏族の族長として逃げるわけにもいかん」
「その割には親父も楽しそうだよな」
「うっ!」
まあ両者とも木を加工した剣や槍で戦っていますし、鍛えていますからよほどのことが無い限りは打ち身程度で済みますからね。真剣に戦ってはいますが相手の致命的な所へと当たりそうになった時は寸止めしていますし。
「まあまあアル君。2人が表だって戦ってくれていますから適度に不満が発散されて他の方が争わないと言う面もあるのですよ」
「そうだぞ」
「そうかー?」
私の尻馬に乗ったガイストさんをアル君が疑わしげに見つめています。ガイストさんの額から汗がゆっくりと流れ落ちていく様子をリリアンナさんが微笑ましそうに眺めています。
一時はどうなることかと思いましたがなんとかこの騒動も穏やかに終結させることが出来そうです。野菜も作りはじめていますし収穫が楽しみでもありますね。
しかしのんびりしていられる時間もあまり長くないかもしれません。どうにもランドル皇国がきなくさいですし。私はこれからどうしていくべきでしょう。
「親父、何も考えてなかっただろ」
「いや、そんなことは無いぞ!」
「ふふふふ」
穏やかに笑いあう3人の姿に思考の海に沈みかけていた意識が戻ってきました。
そうですね。今しばらくこの穏やかな日々を楽しむことにしましょう。海と同じで事態は荒れるときは突然荒れます。それを乗り切るのも船乗りの力量なのですから。
これにて第二章が完結です。
読んでいただきありがとうございました。
ストックが尽きギリギリで投稿していましたが三章からは2日に1度の更新にするかもしれません。
推敲が出来なくて説明不足だったり誤字などがありましたので。
定期連載は続けますので今後ともお付き合いいただければ幸いです。




