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Flag6:ご両親をもてなしましょう

 しかし問題は何を作るかということなのですよね。鮮度を考えれば刺身一択ではあるのですが、普段生食をしているローレライの方々にはあまり新鮮味はないでしょうし。昨日のアル君の反応もイマイチでしたしね。

 大人数だからこその料理で今回のお土産のラインナップから考えれば……やはり天ぷらですかね。海鮮バーベキューなんかも心惹かれるものがありますが、それはまた後日でも良いでしょう。ただ焼くのなら一人の時でも作れますし。


 アル君希望のサンリマのアンチョビパスタの準備をしつつ、天ぷらも用意していきます。

 天ぷら鍋に油を入れ、190度にセットしておきます。今回揚げるのはすべて魚介系ですからね、さつま芋などの野菜は低温でじっくりと揚げる方が美味しいのですが、魚介は高温で短く揚げるのがこつです。長時間揚げると身が硬くなって美味しくなくなってしまいますしね。


 まずは下処理です。

 タコの頭、まあというか本当は胴体なのですが目のある付近に実は隙間が空いており、そこに手をググッと突っ込み手袋をひっくり返すような感じで返します。慣れない方にはちょっとグロテスクな感じがするかもしれませんがこうすると簡単に内臓を取り除けるのですよね。

 イカは胴と足のくっついている筋を指で外し、墨袋を破らないように引っ張ると簡単に内臓を取り除けます。後は軟骨を胴から抜いて、足は目のあたりから切り落として硬い口部分をとってしまえば大丈夫です。


 処理の終わったタコとイカをそれぞれボウルに入れ、塩揉みをします。ここで塩をケチると意味がありませんから気持ち多めといったくらいが丁度いいですね。

 十分に揉んで水で洗い流せば、ぬめりもなくなり下準備は完了です。シロギスなんかをさばく間に水分をなるべく吸収させるべくぶつ切りした後キッチンペーパーでぐるぐる巻きにしてしばらく放置です。


 シロギスは20センチサイズのなかなか立派な大きさのものが揃っています。食べごたえがありそうです。

 ウロコをしっかりととったら両側から包丁を入れ、頭を落とします。そして腹に包丁を入れ、内臓を取り出し、水ですすいでキッチンペーパーで水気を取ったら、骨の上を滑らすような形で身を開いていきます。キスは開きにして天ぷらにするので身を切り落としてしまわないようにしないといけませんから注意ですね。

 片方の身が骨から外れたら、反対側も同じように包丁を入れ、骨を尻尾の部分で折って取り除きます。実はこの中骨は天日干しして素揚げにすると酒のアテになるのでもちろん捨てるなんていうもったいないことはしません。

 後は細かい骨を処理すれば下ごしらえは完成です。こちらもキッチンペーパーで余分な水分は吸収させておきます。


 では次は衣作りですね。

 用意するのは小麦粉、冷やした水、そしてマヨネーズです。本来はマヨネーズではなく卵を使用するのですが、個人的にはマヨネーズの方がカラッと揚がるような気がしますので私はいつもマヨネーズを使用しています。

 衣作りのこつはかき混ぜすぎないことですかね。プロになると粉が残っているぐらいが丁度良いと言われる方もいらっしゃるようですし。まあ冷やした水を使うのもコツといえばコツでしょうか。両方とも小麦粉のグルテンが出来て粘りが出るのを防いでいるのです。粘りが出た衣はどうしてもべたっとしてしまいますから。


 衣を天ぷら油の中へとひと雫落とせば、すぐに表面へと浮いて来て狐色へと変化していきます。油の温度も十分なようです。


 さていよいよ揚げていきましょう。

 キスは身の部分に打粉をします。皮の方は不要です。タコとイカは全体的に満遍なくしていきます。

 そしてさっと衣にくぐらせて天ぷら油へと投入します。一応この電気コンロは温度を感知して維持するように火加減を調整してはくれるのですが、一度に大量の具材を入れてしまうとどうしても温度が下がってしまいます。そうなっては折角のここまでの努力が台無しです。

 しかしゆっくりしすぎては揚げたての良さが無くなってしまう。難しいところです。何しろ揚げ物はこの船では初めてですからちょっとずつ試していくしかないですね。


 勢いよく出ていた泡が次第に落ち着き、沈んでいた食材が浮かび上がり衣が狐色に色づいていきます。そしてパチパチとはぜる音と、香ばしい匂いが私の胃を刺激し、思わずごくりと唾液を飲み込んでしまいました。いけない、いけない。

 タイミング良く、さっと取り上げ、キッチンペーパーを網の下に敷いたバットへと立てて並べていきます。天ぷら同士が重なると蒸れてサクサク感が無くなってしまいますから。


 4人で食べるには十分な量の天ぷらを揚げる傍ら作っていたアル君ご希望のサンリマのアンチョビパスタも完成です。

 天ぷらの添え物は塩と天つゆで良いでしょう。


 取り皿、フォークなどを用意し、お盆に料理とともに載せて後部デッキへと向かいます。そこではアル君が首を左右に振りながら両親と楽しそうに話していました。ガイストさんもリリアンナさんも温かな眼差しでそんなアル君を見つめています。

 その親密な家族の雰囲気に少し入りづらさを感じつつも歩を進めます。


「おっ、おっちゃん。出来た?」


 私の接近にいちはやく気づいたアル君の言葉にガイストさんたちの視線も私へと注がれます。一気に注目の的になってしまったことに少し動揺しつつも、それを表に出すことはせずにこやかに笑い返します。


「はい、アル君希望のパスタに、後はタコ、イカ、シロギスの天ぷらにしてみました」


 後部デッキにはソファーや机などありませんのでお盆をじか置きです。行儀としては悪いのでしょうが、アル君たちの体を考えるとここが一番適しているから仕方がありません。


「やったぜ、おっちゃん。じゃあ食べようぜ」

「はい、それではどうぞ召し上がれ」

「「「いただきます」」」


 3人が手を合わせてそんな事を言うので私が思わず固まってしまったのを見て、アル君が得意げに鼻の下をこすります。


「すげえだろ。俺が教えたんだぜ」


 アル君から他の2人へと目をやれば、リリアンナさんは少しはにかみながら、逆にガイストさんは真面目な顔で私を見返しています。


「この子からそれが作法だとお聞きしましたので」

「郷にいっては郷に従えと言うからな」

「そうでしたか。少し驚きました。アル君はすごいですね」

「へへっ、まあな」


 褒められて満更でもなさそうな雰囲気のアル君にまずパスタを取り分け、続いてガイストさんとリリアンナさんにも取り分けていきます。

 フォークの使い方も習っていたのか、アル君の様子を見ながらではありますが、2人ともぎこちなくもしっかりとパスタを口へと運んで行きました。そして口に含んだ瞬間、ふたりの表情が一変します。


「何だ、これは!」

「美味しい。これがサンリマなの? 料理するだけでこんなに味が変わるなんて!」

「だから言っただろ。おっちゃんの料理はすっごくうまいんだって」


 得意げなアル君をよそにガイストさんたちのフォークは止まりません。一気に自分の取り皿分を食べ尽くし、空になってしまった皿を眺めながら切なげな表情をしています。

 作った私としてはある意味でとても嬉しいことなのですが、もう少し量を作るべきだったかと申し訳なさも感じます。

 仕方がありませんね。


「私の分もどうぞ、私は昨日同じ物を食べましたので」

「本当ですか?」

「ありがたい」


 残っていた私の分のパスタを2人に分け、それに2人が再び取り掛かったのを見ていると、別の方向から視線を感じました。もちろんアル君です。


「おっちゃん。そっちの天ぷらってやつ食べてもいいか?」


 アル君の目はらんらんと輝いており、新しい料理への興味でいっぱいです。


「もちろんです。これはそのまま食べてもいいですし、こちらの塩や天つゆをつけて食べても美味しいですよ」

「じゃあ食べるぞ。……うわっ、何だこれ。サクサクしてジュワってしてうめえ!!」


 シロギスの天ぷらを食べて感動に打ち震えているアル君に釣られて私もシロギスの天ぷらへと手を伸ばします。

 口に含んだ瞬間の衣のさくっとした歯ごたえ、そしてシロギスのクセのない淡白な身から溢れる滋味のある味が口の中へと広がっていきます。さすが海の女王と呼ばれるだけはありますね。

 続いてタコの天ぷらへと手を伸ばします。コリコリとしたタコ独特の食感が楽しく、噛むほどにタコのあつあつの旨みが染み出します。これは酒が欲しくなる味です。

 イカもプリプリとした身を噛み切れば、イカ特有のあのさらりとした甘さが口の中を蹂躙していきます。

 これはもうダメですね。


「ちょっと失礼」


 アル君が夢中で食べているのを見て、ガイウスさんたちも天ぷらに手をつけ始めたので食べ方の説明は不要でしょう。申し訳ないながら少し席を外します。

 そしてラウンジへと向かうとワイン保管庫から白ワインを一本持ち出します。ビールも捨てがたいですが今日のラインナップで言えば白ワインが順当でしょう。

 アル君はもちろん飲めませんのでグラスを3つ用意し、うきうきと戻ります。酒を飲むのも久しぶりです。


 戻った頃には少し多めに揚げたはずの天ぷらがすでに半分ほどにまで減っていました。ぎりぎりセーフといったところでしょうか。


「んっ、おっちゃん、何だそれ?」


 既にお腹がいっぱいになったのかキョロキョロと私を探していたらしきアル君が声をかけてきます。その瞳は私の持つ白ワインに釘付けです。


「白ワイン、つまりお酒ですね。アル君にはまだ飲ませられませんよ」

「なーんだ。まぁ、天ぷらがうまかったからいいや」


 そう言い残すとアル君はごろんと横になってしまいました。このまま寝るつもりでしょうね。まあ別に構いませんが。


「お2人はいかがですか? 今日の料理に合うと思いますが」

「いただこう」

「それじゃあ、少しだけ」


 二人用のグラスに白ワインを注ぎ、手酌で自分にも注いでいきます。乾杯など必要は無いでしょう。食事の途中ですしね。

 天ぷらを食べ、そして白ワインを口に含みます。柑橘系の香りと口の中を引き締めるような爽やかな酸味が天ぷらによく合います。何杯でもいけてしまいそうです。

 ガイストさんもリリアンナさんも白ワインが気に入ったようで私と同じように天ぷらを食べながら舌鼓を打っています。

 ある程度食事が進み、お二人の頬が赤く染まり始めたころ私は切り出します。


「いかがでしたか? ご満足いただけたでしょうか?」

「ええ、もちろん。とても美味しかったわ」

「ああ、タコやイカがこんなにもうまいとは思わなかった。酒もうまいし言うこと無しだ」

「そうですか、それは良かったです」


 アル君の両親を無事にもてなすことができた安堵に、私はにっこりと微笑むのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【魚介の天ぷらに合うお酒は?】


これははっきり言って個人の趣向によるとしか言えません。下手なことを書くと大論争になるでしょうし。

個人的にはやはり日本酒や熱燗かなと思いますが、本編で出ていたように柑橘系の香りがする白ワインなんかとは意外なほどに合います。気になった方は試してみてはいかがでしょうか。塩と合わせるのがおすすめです。


***


お読みいただきありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

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