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Flag59:艦隊を捕捉しましょう

「殿下、落ち着いてください。ワタル様に事前に何度も説明していただいたでしょう」

「わかっているわ、ミウ。でも心配なものは心配なのです」


 そわそわと落ち着きなく行ったり来たりを繰り返しているエリザさんをミウさんがたしなめています。いったんはそれで落ち着くのですがしばらくしたら元に戻ってしまうでしょうね。気持ちはわからないでもありませんから私からは何も言いませんが。

 ミウさんに促されてエリザさんが椅子へと座ります。ミウさんがお茶の用意をしていますから少し間を持たせましょうかね。


「エリザさん。準備は万端ですしこれ以上出来ることはありません」

「はい」

「焦りは小さなミスを生み、小さなミスは取り返しのつかない失敗へと繋がりかねません。そもそも今回はエリザさんにしていただくことは全くないのですから信じて待つということが仕事だと考えてください」

「はい……」


 タイミングよく差し出された紅茶をエリザさんが舐めるようにちびちびと飲んでいます。

 護衛艦の大きさが30メートル級でしたので同型艦が10隻来ると考えると少なく見積もっても500人以上の命がかかっているわけですしね。あくまで船を動かすための最低人員として50名程度必要ですので、今回はそれに加えて戦うための海兵も乗っていることを考えると最低でもその倍の1000人以上はいるでしょうね。そう考えるとルムッテロの町で特需が発生するのも当たり前なのでしょう。そしてエリザさんが落ち着かないのも。


 戦艦が来るまでの1か月間を利用して着実に準備は進めてきましたし、ガイストさんに話して協力も取り付けてあります。ローレライの方々からしてみればただの侵略者なのですから私たちの事情など考えなくてもよいのですが聞き入れてくださいました。まともに戦おうとすれば前回のように負傷者や場合によっては犠牲者が出る可能性が高いという事もあったのかもしれませんがね。

 今回についてはフォーレッドオーシャン号の出番はほとんどない予定です。そもそも戦いになってはいけないですし、乗組員については無事に帰す予定ですのでこの船を見られるわけにもいけないのです。


「おっちゃーん。なんか鳴ってるぞ!」


 操舵室で待ってもらっていたアル君の声が聞こえます。どうやら船を捕捉したようですね。


「では行ってきます。おとなしく待っていてくださいね」


 エリザさんがこくりとうなずき、その背後に立っていたミウさんとマインさんに頼みますと伝え操舵室へと向かいます。

 呼んでくれたアル君の頭を撫でてモニターの1つ、レーダーの画面を見つめます。四角いモニターの中には射撃の的のようないくつかの円が描かれており、画面の右側4分の1程度のスペースに自船の情報などの様々なデータが表示されています。


 このフォーレッドオーシャン号の4階、展望デッキの前部にある屋根の上にはこのレーダーのアンテナがついており、くるくると回りながら周囲にマイクロ波を飛ばしてそれが反射したところを受信することで周囲の情報がこのモニターに表示されるのです。

 警報が鳴ったのはこのレーダーの機能の1つであるガードゾーンと呼ばれる設定で、指定した範囲に船などが侵入もしくは離脱した場合に警報を鳴らすものです。自動的に捕捉もしてくれるので非常に有用な機能です。

 画面上ではじりじりと何隻もの船がそのガードゾーンへと入っていくのがわかります。距離としてはまだ30キロほど離れていますので肉眼での確認は不可能でしょうがね。


 レーダーはマイクロ波を使用していますのでかなりの広範囲を捕捉することが可能です。実際この船についているレーダーが最大限力を発揮できるのであれば優に100キロ以上の距離を捕捉することも可能でしょう。まあ現状では無理なのですがね。

 これはレーダーが劣化や故障しているとかそういった種類の理由ではなくレーダーの原理によるものです。


 レーダーに使われるマイクロ波が海面上を飛ぶ時、ごくわずかではありますがわん曲して伝わっていきます。そんなマイクロ波を使って対象との距離を測っていくわけですが地球と同様にこの星も球形をしているので距離が離れるほどその姿は捕らえられなくなってしまいます。彼我の間に山があるようなものですからね。


 こういった条件を考慮するとレーダーの捕捉できる範囲は計算することができ、その範囲はレーダーのアンテナのついている高さと測定する船などの高さそれぞれの正の平方根を足してそれに2.2を掛けた値になります。この単位は海マイルでありメーター換算するならば1852メートルを掛ければ大丈夫です。

 この計算式に当てはめて今回のケースで概算するとおおよそ16マイル。約30キロの地点で船の捕捉ができることになるのです。

 出来るのですが……


「うーん、数が少し多いですね」


 事前に私たちがルムッテロで仕入れていた情報ではここに来る予定の軍艦は10隻と言う話でした。しかし実際にレーダーに映し出されているのは12隻の船影です。

 軍艦は10隻で民間の船を補給船として徴発でもしたのでしょうか?しかし物資不足などで切羽詰まった状況でもないのにそんな愚策を犯すはずはありませんし、軍の行動に合わせてローレライを捕らえようとしている商船があると考えた方が良いでしょうか。もしかしてウェストス海運商会が再び……うーん、それも考えにくいですね。とりあえず進行方向にいては見つかる可能性が高くなるため船の移動を開始します。


「レーダーで艦隊を発見しました。移動を開始しますので注意してください」


 船内マイクで告げ、アル君にお願いして船を動かしてもらいます。艦隊はルムッテロから真っすぐ西へと進んでいますので北東の方向へと進路を取り距離を近づけながらもその進路からは外れていきます。本来であればレーダーで位置さえ補足しておけば良く、視認する必要などありません。しかし私の勘、というよりは小さな違和感の積み重ねが確認しておいた方が良いと私の背を押していました。


 艦隊の進行方向とは垂直に10キロほど北に離れた位置に位置取り船を平行に走らせます。この船で一番高い4階の展望デッキの水面からの高さはおよそ8メートル。私の身長を入れても9メートル後半。星の丸みを考えるとおよそ10キロ程度が視認限界になります。艦隊はマストの上に見張りを置いているでしょうから理論的にはもっと遠くまで見ることが出来るのでしょうがウェストス海運商会の船で見つけた望遠鏡の倍率は3倍程度でしたので進行方向以外でこれだけ離れていれば見つかる心配は万に一つといったところでしょう。

 アル君にしばらくそのまま進むようにお願いして操舵室を後にし、階段を昇って4階の展望デッキへと向かいます。到着した展望デッキにはマインさんとハイ君、ホアちゃんが同じ方向を見ていました。


「どうですか?」

「うん。見つけたよね、ホア」

「うん。ばっちりだよね、ハイ」

「それはありがとうございます」


 尻尾を振りながらこちらを見上げる2人の頭を優しく撫で、先ほどまで2人が覗いていた望遠鏡へと近寄ります。マインさんが手にしていた双眼鏡を眼前から外しこちらの方を見ました。


「見たことのない船が2隻いる」

「見たことのない船ですか。どれどれ……」


 ハイ君とホアちゃんが既に焦点を合わせた望遠鏡のレンズをのぞき込みます。海原を勇壮に行く艦隊の姿が目に入り、そしてガイストさんが見たことのないという2隻の船に目を奪われます。

 護衛艦と同型の船と比べて一回り大きい船体でありながらマストの数は2本しかなく、前方のフォアマストには横帆が、メインマストには縦帆が張られています。明らかに帆の数は少ないのにも関わらずその速度は護衛艦に引けを取っていません。そして何より特徴的なのはマストの間にある煙突のような突起とその船体の横に張り出すようについている帆船には不必要な巨大な円形の構造物。これは……


「外輪船……なのですか?」


 信じられない気持ちとは裏腹に煙突から噴き出す煙がその光景はまぎれもない事実だと証明していたのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【レーダーのデッドゾーン】


船の周囲の状況を把握するのに非常に役に立つレーダーですが、本編で書かれていた理由などから基本的に高所に設置されます。そしてレーダーからは放射状にパルス波が放たれますので自船のすぐそばは識別出来なくなってしまうのです。アンテナが高い位置に設置されているものほどその距離は長くなります。ちなみにこの距離を最小探知距離と言います。

レーダー画面だけを頼りにするのではなく近場は目視確認が非常に重要ということです。


***


評価、ブクマいただきました。ありがとうございます。

そして900ポイントです。目標の1000まで後100ですので頑張っていきます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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