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Flag56:マインさんと出かけましょう

 ルムッテロの町をマインさんと2人で歩いていきます。約1週間ぶりになるのですが、前回の寄港時には明るかった住民の方々の顔に影が差しているのが気にかかるところです。井戸端会議で大声で話していた奥様方も今はひそひそと話しているためその内容をうかがい知ることは出来ませんし。


「ワタル殿、本当に問題ないのか?」

「ええ、堂々としていればわからないものですよ」


 私と同じスーツに身を包み、ハンチング帽をかぶったマインさんに答えます。マインさんの特徴とも言える狐の耳と尻尾は隠れていますし、護衛として普段は鎧などを着ていたマインさんとは全く逆のスーツ姿で、無造作だった髪などもきっちりと整えているため全く別人のように見えます。エリザさんやミウさんどころかハイ君やホアちゃんも驚いていたくらいですので問題ないでしょう。

 しかしマインさんはやはり落ち着かないようです。とは言えそれがわかるのは近くにいる私ぐらいでしょう。外見上は堂々としているのですから。


 マインさんが心配しているのも当然で、ルムッテロに入港した時にエリザベート号の護衛艦2隻が停泊しているのを発見していたからです。その時のマインさんの表情とその圧は筆舌に尽くしがたいものでした。目線で船が沈められるとしたら沈んでいたでしょうね。

 なんとかマインさんに怒りを抑えていただき船を泊めたわけですが、私の中で嫌な予感が膨らんでいくのを感じます。エリザベート号が沈没した地点から考えるとランドル皇国の港の方が距離が近いのにも関わらずわざわざノルディ王国のルムッテロに来ているのです。理由がないはずがありません。


 護衛艦が泊まっているという事はその乗組員もこの町にいるということであり、エリザさんの護衛であったマインさんの顔を知っている人もいるという訳です。まあこの姿のマインさんを見て気付くとは思えませんし、似ているなと思ったとしても護衛艦がこの町についたのは昨日の夕方とのことですからエリザベート号で沈んだはずのマインさんがルムッテロの町をスーツ姿で歩いているとは考えないでしょう。普通であれば他人の空似と考えるはずです。まぁ、話しかけてくればそれはそれで都合が良いのですがね。


 港から商人ギルドまで歩いてきましたが、マインさんが知っている乗組員には会わなかったようです。少し残念ですね。マインさんの心中を考えればその方が良かったのかもしれませんが。

 商人ギルドへと入りミミさんを探しますが、窓口にはいないようです。他の受付嬢の方々も他の商人と話していますので受付の番号札を取ってホールに設置されている椅子にマインさんと座って待ちます。いつになく人が多いですね。やはり昨日寄港した護衛艦の影響が大きいのでしょう。普段とは違うという事はそこに商機があるという事ですからね。ただそれにしてはギルド職員にも商人にも余裕があるのが逆に気になりますが。


「18番でお待ちの方、どうぞ」

「呼ばれたようですね。行きましょうか」

「ああ」


 しばらくして呼ばれた窓口へと向かえば、運が良いのかミミさんの窓口でした。私の顔を見たミミさんが微笑み、そして私の背後に着いてくるマインさんへと視線を向けそちらに向かっても会釈します。マインさんが不器用ながらも笑顔を返す姿はある意味でレアかもしれません。


「商人ギルドへようこそ、ワタル様。そちらの方は同業者の方ですか?」

「はい。同郷の者でマインと言います。私の仕事を手伝ってもらうために呼びました」

「マインだ。よろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いいたします。それでは書面を用意しますね」


 元々のマインさんの身分証明はエリザさんの奴隷としての証明書で、それはエリザベート号と共に沈んでしまっています。まあ沈んでいなかったとしても今回使う訳にはいかなかったのですがね。

 そんな理由もありマインさんは私の同郷の者で私の商売を手伝うためにやって来たという設定で私と同じように港の事務所で仮の身分証を発行してもらいました。

 私の時は保険証を私の国の身分証明として提示したのですが、文字が読めないとはいえさすがに同じものを2回見せるのはリスクが高いと考えパソコンでそれっぽいものを作成しました。フォーレッドオーシャン号を出るまではマインさんに見せていませんので港で見たときにいきなり読めなくなっているなどと言うトラブルはありませんでした。

 私と言う前例があったおかげか案外すんなりと発行されて逆に拍子抜けしましたが。


 文字に着いてはマインさんは問題がありませんのでギルドの記入用紙にさらさらと記入してほどなく書類が完成しました。私も確認し、ミミさんも見ていましたが特に問題は無さそうです。


「ギルドカードの発行の間に通常でしたらギルドの説明をさせていただくのですがどうされますか?」

「大丈夫だ」

「はい、彼には私から伝えます。それより少々お話を伺いたいのですが?」

「なんでしょうか? とは言っても予想はついているんですけれどね。ランドル皇国のことですよね」

「はい、第3皇女殿下の乗った船が沈没したと港で聞きまして。危ないようでしたらしばらく逃げようかと」


 少し冗談めかして言えば、ミミさんがにこやかに笑いながらうんうんとうなずいていました。


「店舗を持っていない商人の特権ですね。とは言え今回はその必要はないかと思われます」

「そうなのですか? ノルディ王国を訪問する途中で皇女殿下がお亡くなりになったのですから適当に難癖をつけて戦争の理由することも考えられるのでは? よく戦争を仕掛けてきているとのことですし」

「それはそうなのですが今朝領主様から今回の不幸な出来事についてランドル皇国と戦争になることはないと宣言がありましたのでまず問題ないでしょう」

「領主様からですか?」


 ミミさんがうなずきましたが、にわかには信じられません。

 護衛艦が到着したのが昨日の夕方と言う話です。それにもかかわらずその翌日の朝に戦争がないことの発表があるなんて時間的に不可能です。

 戦争が起こる、起こらないということはもちろん一地方領主が判断できることではなく国家間の話し合いになるはずです。昨日の夕方にエリザさんが死んだという事を領主が知り、王都へと報告。そこからランドル皇国へと伝えてランドル皇国での協議の結果がノルディ王国へと伝えられ、そこで初めて2国間の協議が開始。そしてその協議の結果がこのルムッテロの領主へと今朝までに伝えられる。

 ありえません。ありえるとしたら事前にこのことについて話し合いがされていた、もしくは領主の独断……いえ、これはありえませんね。そんなことをしたと知られれば罷免は免れないでしょうし。


「ずいぶんと早いのですね。昨日の夕方に知ったのなら王都へと伝令が走っているくらいかと思っていました」

「そうですね。伝令の方はおそらく夜通しで走っていると思います。それでも4日程度かかりますし」

「んっ? どういうことですか?」

「あぁ、そういえばワタル様は遠い異国から来たんですよね。じゃあ知らないかもしれません。このバーランド大陸には遠くの場所へと一瞬で連絡する魔道具があるんです。とは言っても自由に話せるわけじゃなくて書いた内容を対になる相手側へ表示させることしか出来ないんですけれどね」

「ほう、そんな魔道具があるのですか。商人にとってはのどから手が出るほど欲しいものですね」

「そうなんですが、非常に希少な魔道具なので高いですし何より使えるようにするだけで大量の魔石を消費するので本当の非常時にしか使えませんけれどね。各商人ギルド間にも設置されていますけれど通常は手紙や人で連絡をしていますから」


 ふふっとミミさんが小さく笑います。情報の速さの重要性を十分すぎるほど知っているであろう商人ギルドがそういった運用をするというのであれば、非常にコストの高いものなのでしょう。

 しかしその機能はとても魅力です。話を聞いた限りメールを送信できるということでしょう。送信可能距離などが少々気になりますが今の話からして私が手に入れる機会はないでしょうしね。まあ手に入れたとしても対になる魔道具同士でしか通信が出来ないのですから運用が難しいところですし。

 しかしそんな魔道具があるならば報告は即座にできるでしょうが、それにしても時間が足らないと思うのですがね。


「しかしそれにしても昨日の今日で戦争が起こらないと協議の結果が出るというのは早すぎではありませんか? なにか取り決めのようなものがあるのでしょうか?」

「うーん。私もそこまで詳しいわけではないんですが、護衛艦から先にランドル皇国へ連絡が行っていたようですしこちらから報告する前に協議されていたのかもしれませんね」

「あぁ、そういうことでしたか。すみません、色々と聞いてしまって」

「いえ、お気持ちはわかりますから」


 うーん、航行する船上からでも報告を送ることが出来るということですか。てっきり昔の固定式の電話みたいなものを想像していたのですが。どのような形をしているのかイメージが湧きませんね。

 しかし護衛艦に搭載されているのでしたらエリザベート号に搭載されていないはずがありません。もう一度サルベージすべきですかね。とりあえず後でマインさんに聞いてみましょう。


「ありがとうございました。少し安心しました。しかし戦争が起こらないにしては他の商人の方々が動いていらっしゃるようですが何かありましたか?」

「噂は色々と流れていますが、まだ確定ではありませんのでギルドとしてはお話しできません。個人的にはワタル様には影響はないと思いますのでそこまで気にする必要もないかと思います」


 そう言ってミミさんがふふっと笑いました。私に影響がないということは少なくとも衣服関係ではないという意味でしょう。他の商人が話していた内容を拾った限りでは食料や魔石などの関係のようですがさすがに詳細までは聞き取れませんでした。

 まあいいでしょう。これだけの商人が既に動いているのならばその噂に関しては集めようとすればなんとかなるはずです。それにミミさんはまだ(・・)確定ではないと言っていましたからしばらくすれば何かしらわかるのでしょう。とりあえずここでの情報収集は終わりです。

 ちょうど折よくマインさんのギルドカードが届けられましたしこの辺りでお暇しましょうかね。


「色々とありがとうございました。それではオットー服飾店へまた寄っていきますね」

「感謝する」

「はい、良い商売を。あっ、少々お待ちください」


 別れの挨拶を済ませギルドを後にしようとしたところでミミさんが思い出したように小さく声を上げ、そして奥の方へと少し小走りで走っていきました。そして程なく何かをもってミミさんが戻ってきました。


「申し訳ありません。ワタル様の商人ギルドのランクが「E」から「D」へと上がりましたので新しいカードをお渡しします。古いカードを返却していただけますか?」

「おや、そうでしたか。少々お待ちください」


 財布から商人ギルドのカードを取り出しミミさんと交換します。ランクの表示が変わっただけでそう大して変わり映えはしませんが。私はオットーさんとしか取引しておらず、しかも前回を合わせても2回だけしかしていないのですがランクが上がるのですね。うーん、あまりこのランクも信用しすぎない方が良さそうです。まあ参考程度にしておきましょう。

 ミミさんに感謝を伝え今度こそ商人ギルドを後にします。さてそれでは噂とやらを追ってみましょうかね。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【船乗りのお休み事情】


長期航行するタンカーなどの場合、航行中は船から降りられるはずがありません。つまり寝ても覚めても上司や同僚と一緒な訳です。そんな訳で航行が終わった後にまとまった休みが与えられることが多いです。具体的には3か月働いて1か月休みなどです。

長期の休みですので旅行好きな方には良いかもしれませんね。

因みに海外ではこのお休みの期間が働いた期間と同じ日数だったりします。がんばれ日本!


***


ブクマいただきました。ありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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