表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/161

Flag47:マインさんに伝えましょう

 ダイビングをするときの注意点として呼吸を止めるということは基本的に厳禁です。特に浮上するときは水圧によって肺の中で圧縮されていた空気が膨張してしまいますので下手をすると肺が破れてしまいます。だからゆっくりと深く呼吸をする必要があるのです。

 その他にも浮上時の注意点は色々とあるのですが、その中でも最も注意すべきなのは減圧症です。


 減圧症はタンク内に含まれる窒素が潜水中に体に取り込まれ、浮上時に水圧の減少により膨張して気泡化してしまい関節痛や呼吸器の障害などを起こし、下手をすると後々まで障害が残ってしまうという恐ろしい病です。

 窒素は圧がかかると体に吸収されやすくなってしまいますからね。

 そうならないためにはゆっくりと浮上する必要があります。具体的にいうなら毎分9メートル、1秒で15センチ程度です。もっと早くても大丈夫と言う人もいますけれど私はこの速度を順守しています。それに加えて海面下5メートルほどのところで3分程度停止し万全を期すのが私のスタイルです。


 しかし今回のように海底40メートルの空間で過ごすという経験は私自身ありませんのでどの程度の安全策をとれば良いのか判断がつかないのですよね。フォーレッドオーシャン号に搭載されていたタンクの空気は従来のタンクよりも窒素の配合率が低いものを使用しており減圧症になりにくくしているとはいえ心配なものは心配です。だからこそ私に出来るのは最善と思われる方法をとるしかないのですがね。


 現在ローレライの方々はアル君を含めてフォーレッドオーシャン号で食事をとっているはずです。当初の予定時間よりは少々遅くなってしまいましたので申し訳ないのですが。

 初めてパンを食べるアル君の顔を見て見たかったのですがこればっかりは仕方がありませんね。ローレライの方の食事が終わって戻ってきたら私ももう1人分の機材を補給しに船に戻りますのでその時にでも感想を聞いてみましょう。


「なぜここまでする?」

「えっ?」


 出入り口を見ていた私に突然背後から掛けられた声に振り返ります。そこにはマインさんがじっと私を見つめて立っていました。その真剣な表情に私も姿勢を正して向き直ります。


「ミウさんにも同じようなことを聞かれましたね。確かその時はお嬢様を助け出したらお嬢様に報酬をもらうという利益が私にあるからと答えました。この理由で納得いただけますか?」


 マインさんが首を横に振ります。うーん、一応嘘は言っていないのですがね。それ以外となると少々青臭い理由になってしまうのですが……。まあ仕方がありませんか。今は私たち2人しかいませんし、男同士ですからね。


「マインさん、海は好きですか?」

「どういう意味だ?」

「いえ、そのままの意味なのですけれどね。私は海が好きです。雄大で時に優しく、そして時に厳しい。美しい光景にあふれ、かと思えば荒々しい姿を見せる。そこには私たちの糧になる魚もいます。月並みな言葉ですが母のような存在だと思っています」


 マインさんは黙って私の話を聞いています。自分の気持ちをどう伝えようかと少し考え、結局素直にそのまま話すことに決めました。マインさんが聞きたいのは素晴らしい表現ではなく私の想いでしょうから。


「だから私はなるべく海で死んでほしくないのです。うーん、これでは語弊がありますね。助けられそうな人が海にいたら出来るだけ助けたいと思っています。素晴らしい場所である海を恐怖や憎悪の対象として見てほしくないのです。他に理由を加えるとしたらそれだけでしょうか」


 あくまで今語ったのは私の理想です。実際に私に害をなそうとした人を助けるかと言えば程度にもよりますが私は助けないという選択をするでしょう。実際にウェストス海運商会の4隻の船の乗組員は見殺しにしましたしね。

 優先すべきは自分やアル君などの知人の安全です。その優先順位を間違えることは出来ません。逆にいえばその事さえ守られるのであれば出来うる限りの手は打ちたいと思っています。

 私には映画の無敵のヒーローのように全員を救うことなど出来ません。私のように小さな人間に出来るのはその小さな手から守りたい人が零れ落ちないように努力する、その程度です。

 しかし思いを伝えるというのは難しいですね。それに思い入れがあればあるほどうまく伝えられません。こんなことで大丈夫だったのだろうかと自問自答してしまいます。


「俺は海は好きじゃない」

「そうですか」


 マインさんの視線が一瞬お嬢様へと向かい、そして私の背後の扉の向こうに見える海を睨みつけるように見つめます。確かにこんなことがあれば嫌いになっても仕方がないのかもしれません。それを否定する権利は私にはありませんし、あったとしてもするつもりはありません。人に強制された好きに意味などないのですから。

 苦笑いする私に再びマインさんの視線が戻ります。


「だからここから無事に脱出出来たら海のすばらしさについて教えてくれ」

「……はい。喜んで」


 マインさんの口の端が上がります。それは初めて見る彼の不器用な笑みでした。その笑みにつられるように私も微笑みます。心が通じ合ったそんな気分です。


 ピシリ。


 背後から聞こえたそんな音に慌てて振り返ります。そこで目に入ったのは入り口の外で海水を防いでいた見えない壁に細かいひびが走っていく光景でした。


「ワタル殿」

「何でしょうか?」

「やはり俺は海が嫌いだ」


 その言葉に呼応するように透明な壁に穴が開き、大量の海水が私たちのいる部屋へと流れ込んでくるのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【ダイビングスーツ】


ウエットスーツが有名ですがドライスーツと言うものもあります。ウエットスーツはその名の通り水で保温するため体が濡れますが、ドライスーツは空気で保温しますので濡れません。使い分けとしては水温の低い寒い時期はドライスーツといった感じです。

濡れないならドライスーツの方が良いのではと思われるかもしれませんがフィットしていないと水が入りますし、脱ぎにくかったりと欠点もあります。

そもそも冬にダイビングに行く人は圧倒的に少ないですからウエットスーツだけしか持っていない人も多いんです。水が冷たいですし。


***


ブクマいただきました。ありがとうございます。

私ごとですが来週1週間出張のため18時半投稿がおそらくできなくなります。なので朝の7時半ごろに投稿します。ご新規さん確保目的もありますが。ご了承ください。

m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ