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Flag42:捜索に向かいましょう

 アル君が10人のローレライの方を連れて船へと戻ってきたのは約2時間後のことでした。私の頼みごとについてもしっかりとガイストさんに聞いてきてくれました。

 操舵室にアル君と30分ほど籠り、アル君に操船を任せて私自身はミウさんたちの元へと向かいます。寝ているかとも思ったのですがノックをするとすぐにドアが開けられました。


「ローレライの方々が来ましたので出発しました」

「はい、揺れが変わりましたし景色も流れていますのでそうではないかと思いました。しかし誰が船を動かしているのですか?」

「先ほど会ったアル君ですね」

「ローレライが船を動かすのですか!?」

「ええ。まあ私が教えたので操船出来るのはローレライの中でもアル君だけですけれどね。しばらくは安全な海域ですので問題ないでしょう」


 私がそう言ってもやはり不安なのかミウさんの視線が窓の外の流れる景色をちらっと見ます。昨日よりもはるかに波も落ち着いていますし、他船の心配もないキオック海ならば大丈夫でしょう。揺れも航行中の船として気になるほどではありませんしね。


「眠れませんか?」

「ええ。」


 必要のない心配をさせることもありませんから話題を変えます。

 奥のベッドではハイ君とホアちゃんがくっつくようにして眠っています。しかしミウさんのベッドは綺麗にベッドメイキングされた状態でミウさんの顔色からも眠っていない、いえ、休めていないのは明らかでした。


「お嬢様が大事なようですね。それほどの方ですか?」

「はい。誠心誠意お仕えするに値する方だと信じております」

「そうですか。そこまでミウさんが言い切るのであれば素晴らしい方なのでしょう。お会いできるのを楽しみにしていますね。では目的地に近くなりましたらまた来ます」


 そう言い残し部屋から出ます。私がいては余計に休むことなど出来ないでしょうからね。去り際にミウさんの瞳から涙が流れそうになっていたことには気づかなかったことにしましょう。

 しかしメイドであるミウさんにそこまで言わせるお嬢様ですか。当たってほしくない予想が当たる確率がぐんぐんと増しているような気がしますね。まあ乗りかかった船ですから途中で下船するつもりはありませんがね。

 後部デッキ上の屋外のスペースにいる10人のローレライの方々に改めて協力の感謝を伝え、そして操舵室へと戻ります。


「おっちゃん、こっちで良いんだよな」

「ちょっと待ってくださいね。……はい、問題ないです。流石アル君ですね。」

「まあな」


 得意げなアル君の頭を撫で、その場を離れます。安全なキオック海を航行しているうちに用事を済ませてしまいましょう。


 現在私たちが目指しているのはランドル皇国とノルディ王国の国境沿いから西南西に30キロあたりの海域です。もちろん適当に向かっているわけではありません。確信しているとまでは言えませんけれどね。この位置を割り出すためにアル君に用事をお願いしたわけですから。


 アル君に聞いてきてもらったのはミウさんたちを発見した位置、そして船に載っていたと思われる荷物などが流れてきていないか。もし流れて来ているのならその位置はどの辺りでどのくらいの時間に見つけたかというものです。それらの情報とミウさんたちから聞き取りした沈没した時間や寄港した港の名前と位置、その日付などを整理しながら海図とにらめっこしたわけです。


 海図には地形や障害物などのほかに海流の速さや向きについても記載されています。もちろん天候や時期によって変わってしまいますので統計的な数値なのですが。今回は嵐の最中と直後でありこの情報がどこまで有用かはわかりません。しかしそれでも何の指標もなく探すよりは確実に見つかる確率は上がるはずです。


 キオック海を抜けたのでアル君と操船を交代し目的の海域へと船を進めます。周囲に船影がないか注意して進んでいますが幸いなことに今のところ見かけません。岸からなるべく離れつつ近づくルートをとっていますのでそのせいかもしれませんが。

 基本的に帆船と言うのは陸地からあまり離れない航路をとることが多いのです。風任せで自由に動けるわけではないため航海の日数の見積もりが非常に難しく、補給がすぐに出来ない遠洋に出て食料が不足してしまえばそれこそ命取りになるからです。

 とはいえ沿岸は地形が複雑なことも多く岩礁地帯があることも多々あるためそこは避け、陸地の確認できる沿海を航行するはずなのです。ちなみに沿岸は5海里、沿海は20海里です。1海里が1852メートルですので東南東30キロと言うのは沿海内ではあるのですがいささか疑念が残ります。その付近には邪魔になるような岩礁などがない海域です。それならばもっと陸に近い海域を航行するはずなのです。メイドのいるお嬢様が乗る船の船長がそんなことも知らないとは思えないのですがね。


 目的の海域に着いたのは午後2時を回ったくらいでした。お昼についてはアル君が運転している間に作っておいたものを先にお出ししておいたのでローレライの方々もミウさんたちも各自で食べているはずです。私は操船しながら非常用の携帯食料をかじって済ませてしまいました。この船の非常用の携帯食料ですから味はそれなりなのですが毎日食べたいかと言われたらそうではありませんね。しかし定期的に消費しなければもったいないのでこういった機会に食べなければいけません。記載された消費期限はすでにあてになりませんからね。

 アル君にも少し分けましたが食べ進めるごとに微妙な顔になっていました。そして私の顔を見て苦笑いしていましたので私も同じような顔だったのでしょう。やはり普通の食事が一番ですね。


 船を一旦止め、ローレライの方々にこの周囲の海域を、特に東方向を重点的に探してほしいとお願いしました。快く海へ飛び込んでいく大人たちと一緒にアル君も飛び込んでいってしまったのは予想外でしたが。慌てて呼び止めてこの船から見える場所の探索をするということで何とか納得してもらえました。少し頬を膨らませて不満顔でしたがこればっかりは譲れませんからね。


 探索については見つかっても見つからなくても3時間程度を切りにして戻ってもらうことにしました。この付近と決まったわけではありませんし探索したおおよその海域や何かを発見しなかったかなどの情報交換も必要ですしね。まあローレライの方々の一番の目的は私の作る夕食のようですが。


 この船を走らせて探すという手ももちろん考えたわけですが、実際に水中を見ることができ、しかも自由に動き回っても目立つことのない彼らに任せることにしました。もし彼らが見つけたとしても私が動いてしまっていては手間になってしまいますし、何よりあまり陸に近づいて見つかる危険を冒したくないと考えたからです。

 一応視認される危険性の少ない夜にはこの船の水中ソナーを使用して探索を行うつもりですがね。それまでに見つかってくれるのが一番なのですが。


 見送りを終えて振り返り、未だ頭を下げたままの姿勢を保っているミウさんへと声をかけます。


「皆さんもう出発されましたよ」

「はい、わかっています。でも感謝をお伝えする方法が私にはこのくらいしかありませんから……」


 顔を上げ申し訳なさそうにするミウさんの姿に少し不安を覚えます。確かに主人のことを心配することはメイドとして当たり前なのかもしれません。しかしそのことがミウさんの心をがんじがらめにして動けなくしているという印象です。もし見つからなければ最悪の結果になる可能性もありそうなほどに。

 これは何か別のことをさせてあげた方が良いですね。このままでは深く深くしずみこんでいってしまいそうです。


「それでは捜索していただいているローレライの方々のために夕食の準備をしますので手伝っていただけますか? あっ、メイドは分業制と言う話を聞いたことがありますが大丈夫でしょうか?」

「はい、お嬢様の専属メイドになるという時に一通りの教育は受けましたし、メイドになる前に親に仕込まれましたので」

「それは良かった。では感謝を伝えるためにも美味しい料理を用意しましょう」

「はい!」


 感謝を伝える手段が出来たおかげが多少良くなったミウさんの顔色に少し安堵しつつギャレーへと案内します。そこまで広くはありませんが2人なら十分に使えます。さあお礼の料理を作り始めましょうか。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【海図】


本編では海図としか書いていませんが本当は色々と種類があります。大きくは航海に用いられる航海用海図 (Nautical Charts) および、航海の参考に用いられる水路特殊図 (Miscellaneous Charts) 、そして海の基本図 (Basic Maps of the Sea) があります。そしてその中にも縮尺などにより種類分けがあったりと中々にややこしくなっています。

本作では航海用海図と水路特殊図を合わせて海図として取り扱う予定です。


***


累計ポイントが600を超えました。多分今までで最速です。皆様ありがとうございます。

次は1000目指して頑張ります。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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