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Flag39:事情を聞きましょう

 3人がシャワーを浴びている間に手早く朝食を作り、また部屋へと戻ります。3人の様子を見る限り疲れてはいますが、やつれている様子はありませんでしたので漂流して間もなかったと考えられます。おかゆのような消化に良いものの方が良いかとも思ったのですが重いものでなければ大丈夫だろうと考え直し普通の朝食にすることにしました。

 メニューとしては卵抜きのパンケーキとサラダ、そしてオレンジジュースです。飲み物については紅茶も用意しました。おそらくパンの方がなじみがあるのでしょうが1から焼いている時間はありませんしね。今回ルムッテロで牛乳が手に入りましたので今度焼いてみましょう。


 貨物船など長期航海する船においてパンが出てくるということは料理人の方の手作りということがほとんどです。既に焼かれたパンでは消費期限もありますし、なにより小麦粉として持ち込むのとパンとして持ち込むのではその容量が違いますからね。この船もその例に漏れずパンを食べたければ焼くしかありません。売っていたパンを買う気は起きませんでしたし。ですのでお手軽パンケーキなのですがね。


 所要時間は15分程度。まだ3人がシャワーを浴び終えるには早いかと思ったのですが、階段を下りたところでちょうどドアから首だけ出してこちらの方を見ているハイ君とホアちゃんと目が合いました。まあ合った瞬間に小動物のようなスピードで中へと消えて行ってしまいましたが。まだまだ警戒されているようですね。

 その様子に苦笑しながらドアへと近づきノックをして呼びかけます。


「シャワーと着替えは終わりましたかね? 入ってもよろしいですか?」

「っ……。はい、どうぞ」

「では失礼します」


 許可が出たので部屋の中へと入ります。そこには3人が先ほどと同じようにミウさんを前に後ろに2人が隠れるようにして立っていました。違うのは3人がバスローブ姿という事でしょうか。子供用のバスローブがあるのは知っていましたがサイズもちょうど良いようですね。ミウさんもサイズは問題ないようです。シャワーのせいか少し赤らんだ顔が可愛らしいですね。

 シャワーは問題なく使えたようですし、体調も悪そうには見えません。これなら大丈夫でしょう。


「朝食を用意しましたので食べましょうか?」

「そんな、そこまで……」

「ご飯ー!!」

「食べていいの? 食べていいの?」


 ミウさんの言葉を遮りハイ君とホアちゃんが目を輝かせながら近寄ってきました。ぴくぴくと動く耳やフリフリと振られるしっぽの先が喜びを表しています。そんな2人と視線を合わせにこりと微笑みます。


「はい、ちゃんと3人分用意してありますから着いてきてくださいね」

「「はーい」」


 元気よく返事をした2人の頭を軽く撫で、部屋から階段へ向かって歩き始めます。子供たちが元気よく私の後に着いてくる背後でミウさんがちゃんと着いてきていることをちらりと確認します。

 あえてミウさんを無視しましたが着いてきてくれるようで良かったです。変に遠慮されて無駄なやり取りをする必要はありませんからね。その点子供たちは素直で助かります。


 2階へと昇り朝食のセットされたダイニングエリアの机へと案内します。3人が感嘆の声を上げながらきょろきょろと辺りを見回している姿は初めてアル君を案内した時のことを思い出させ少し笑ってしまいました。


「それではお好きなところに座って食べてくださいね。あっ、そうそう。ミウさんはオレンジジュースと紅茶はどちらがよろしかったですかね?」

「いえ、ワタル様。私はメイドですし、この子たちは奴隷です。こんな場所でしかもワタル様と一緒に食べるというのは……」


 気おくれしたようにミウさんがやんわりと拒否してきました。ハイ君とホアちゃんも同じなのかコクコクとうなずいています。しっぽはぶんぶんと振られているので食べたくないという訳ではないのでしょう。

 しかしメイドはわかりますが、奴隷ですか。確かに首輪をしていますからそうなのだと言われれば納得はするのですが私の認識している奴隷と2人の様子にはずれがありますね。普通こんなに子供らしく元気なものでしょうか?

 奴隷というよりも子供のしつけのようにミウさんも2人を扱っていましたし、2人からもそういった感じは見受けられませんでした。うーん、私の奴隷の定義とこちらの奴隷の定義は違うのかもしれません。それにしては食事は一緒に食べないと言っていますし。

 しかしそういった立場を持ち出されてしまうと面倒ですね。いえ、確かにTPOによっては必要だとはわかっているのですが今ここにいるのは私だけですし。よしっ。


「残念ですがこの船に乗られた段階でミウさんもハイ君もホアちゃんもお客様です。他にも人がいれば気にする必要がありますが幸い私しかいません。ですのでメイドだとか奴隷だとかは気にしないでください」

「いえ、しかし……」

「うーん、逆に考えるともてなす側の私が一緒に食べるのは少しまずいような気がしますね。どうしましょう。3人で先に食べていただいてその後で食事をした方がよろしいでしょうかね?」

「そんな、とんでもない。わかりました。ハイ、ホア、マナーを守るのですよ」

「ミウ、いいの?」

「わーい、ご飯だー!」


 問いかけるハイ君とホアちゃんにミウさんがうなずくと子供たちが喜び勇んで椅子へと座りました。ミウさんもその後へと続きます。少し卑怯かなとも思いましたが結果的には成功ですね。子供たちが期待した目で私を見ていますので私も早々に椅子へと座ります。


「神に、祖先に、主に、そしてワタル様に感謝をささげましょう」


 胸の前で手を組み、そして目を閉じてミウさんが食前の祈りの言葉を唱えます。子供たちも同じポーズで祈りをささげています。なんというかそのラインナップに並べられてしまうのが少々気恥ずかしくもあるのですが同じように祈りを捧げます。


「では食べましょうか。2人ともマナーはしっかりですよ」

「「はい」」


 子供たちがナイフとフォークを使い綺麗に朝食を食べていきます。ミウさんもその様子を見ながら自分の食事を開始しました。それでは私も食べてしまいましょう。

 アル君との食事とは違い静かです。表情を見る限りまずいという訳ではないのでしょうが食事中は話さないということが徹底されているようですね。食べながら事情でも聞こうかとも思ったのですがやめておきましょう。私が話せば答えてはくれるのでしょうが、無理に習慣を崩す必要はありません。


 3人とペースを合わせるように食事を終えます。全員が食べ終えたのを確認し、再びミウさんが祈りの言葉を唱え食事は終了です。皿には何も残されていません。

 片付けようとする3人をやんわりと断り食器を流しへと入れ、すぐに部屋へと戻ります。なんというか手持無沙汰になっているようですね。お手伝いしてもらった方が良かったでしょうか。

 そんなことを考えつつ先ほどまで座っていた椅子へと座りなおします。


「それでは少しは落ち着いたと思いますので事情の説明と今後についてお話ししたいのですがよろしいですか?」

「はい」

「まずは私から話させていただきますね。私はあなたたちを見つけた知人に請われてこの船へと運びました。この船へと運んだのは昨日の午後6時過ぎのことです。それから目覚めるまで通路で待っていてそして今の状況です。という事で私はほとんど事情を知りません。なぜ漂流していたのか教えていただけますか?」


 私の言葉にミウさんが少しほっとしたように胸を撫で下ろしました。そして子供たちを見つめ私へと向き直ります。


「私たちはお嬢様とともに船でルムッテロという港へと向かっていました。しかしその途中で嵐に遭遇してしまい船が沈んでしまったのです。たまたま浮かんでいた大きな木片に3人で掴まってなんとか嵐が過ぎるのを耐えていたところまでは覚えているのですが、どうにもその辺りで気を失ってしまったようです。」

「そして私の知人に見つけてもらったと」

「はい、おそらくは」


 子供たちも同じようでコクコクと首を上下に振っています。

 私は逃げてしまって影響はほとんどなかったのですが船が沈没するとはなかなかに大きな嵐だったようです。嵐の対処としては逃げるのが第一で、もし遭遇してしまったらシーアンカーを海へ投げ入れて横波を避けて漂流するというのがよくある対応なのですがそもそもシーアンカーはあるのでしょうかね。帆布で作った凧のようなものなのであっても不思議ではないのですが、少なくともウェストス海運商会の4隻の船にはあった覚えがありませんね。


 しかし沈没してしまったという事はその一緒に船に乗っていたというお嬢様については絶望的と言わざるを得ません。ミウさんたちのように漂流している可能性や既に助けられている可能性がないわけでもないのですが確率的には低いでしょうし、仮に漂流しているとしてもローレライの方が発見していない以上見つける可能性は低いでしょう。まあわざわざそのことを口に出す必要も無いですが。


「事情はわかりました。とりあえずルムッテロの町へ送り届けましょう。私の知り合いもいますし、お金がないようでしたらお貸しすることも……」

「あのっ!!」


 私の言葉を遮り、ミウさんが私を見つめます。その目、そして表情から読み取れるのは覚悟でしょうか。少し驚きながらもミウさんの言葉を待ちます。一息おいてミウさんの少し震えるその唇が開かれました。


「お嬢様を探していただけませんでしょうか?」


 それは私が想定していなかった言葉でした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【ヤマト1】


ヤマトで船と言うと戦艦大和を思い出す方が多いかと思いますがそれとは違います。

ヤマト1は1992年に日本で建造された電磁推進実験船の名前です。この船はフレミングの左手の法則を元に磁場をかけた海水に電気を通すことで動かそうとしました。実験としては成功しましたが効率は非常に悪かったようですね。


***


ブクマ、評価引き続き多くいただきました。原因はよくわかりませんがありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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