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Flag37:新機能を試しましょう

 嵐の直接の影響範囲からは逃れられたのですが、波のうねりの影響までは避けることができず若干アル君の元気がありませんが仕方がありません。まあ少し顔色が悪くて元気がないだけで吐くようなことはなさそうなので多少は慣れてきたと言えるでしょう。

 この海域に来るまでに1日、そしてこの海域で1日経ちましたので嵐はもう過ぎ去っているはずです。心配はないとは思いますが、やはり気にかかりますのでガイストさんたちの元へと戻ることにしました。

 とは言えアル君には操舵を練習するような余裕はなさそうです。私が操船して戻っても良いのですがせっかくなので新機能の「自動操縦」を試してみますか。


 フォーレッドオーシャン号に元々ついていた自動操縦の方法は、ナビに口頭で行きたい場所の座標を伝えればその海図などの情報から適切なルートを選択し操船してくれるという便利なものでした。レーダーの情報も統合されるため、他船舶が近づいてきた場合についても警告音を発しながら衝突を避ける操船をするようになっていました。

 ここまで便利な機能が回復したのであれば良いのですが自動操縦にも色々とあります。ヘディング(船首が向いている方向)を固定するだけというものもありますし、ダイヤル調整で進む方向を決めるというものもあります。さてどんな機能なのやら不安半分楽しみ半分です。


 自動操縦のディスプレイを触ろうとしたのですが何となくしっくりと来なかったため、もしや、と考え操舵輪の前へと立ちます。


「ナビ、自動操縦モード起動」

「アイアイサー」

「っ!!」


 久しぶりの声に思わず目を見開きます。もしかしてという思いはありました。しかし本当にナビから返事があるとは思わなかったのです。


「ナビ、機能が回復したのですか?」

「……」

「ナビ、使用できる機能一覧をディスプレイに表示してください」

「……」


 だめ、のようですね。ナビの機能が回復したというよりは、ナビの中の自動操縦のモードについて限定的に解放されたという方が正しいのでしょう。少々肩を落としつつ目的の座標を告げれば、再び「アイアイサー」と言う返事とともに航路が自動操縦システムのディスプレイに導き出され、それに従ってゆっくりと船が動き出し始めます。

 私はその動きとディスプレイの表示を確認しながら、自動で進んでいく船をゆったりと楽しむのでした。


 目標の海域に着いたのは午後5時を回り、もうしばらくすれば海へと沈んでいく見事な夕日が見えるだろうと言う時間でした。嵐の直後のキオック海はいつもよりやや荒れており、ここに着いた途端にアル君はガイストさんを呼びに行くと言って海に飛び込んでいってしまいました。ふむ、アル君が船酔いにならないためにはもうしばらく時間がかかりそうです。


 自動操縦に関しては今のところ以前の機能が回復したと考えて良いと思います。しかし肝心の他の船舶などが接近した場合の動作が確認できませんでしたのでこれは試す必要がありそうです。アル君に漁船の操船方法を教えて実験してみるのもいいかもしれません。

 そんな事を考えていると私を呼ぶアル君の声が聞こえてきました。何でしょうか?すこし焦っているようにも感じます。まさか……


「あっ、おっちゃん。親父がすぐ来て欲しいって呼んでるぞ」

「もしや嵐でローレライの方に被害がありましたか?」

「いや、俺たちにはねえんだけど……。とりあえず島に来てくれよ」


 そう言って再び海へと飛び込んでしまったアル君の様子を不思議に思いながら、それでもガイストさんの呼びかけに応えないという選択肢はありませんので島へと向かいます。もともとそこまで距離も離れていませんでしたので10分ほどで目的の島が見えてきました。


「何をしているんでしょうね?」


 島の海岸でローレライの方々が1か所に集まっています。何があるのかはわかりませんが十中八九私が呼ばれた理由はそれでしょう。私の船に気づいたローレライの方がこちらに向かって手を大きく振っています。十中八九どころではなく確実になってしまいましたね。私で対応のできることであれば良いのですが。


 船を島付近に停泊させ、ハーフパンツタイプの水着にTシャツと言うラフな格好で海へと飛び込み島へ向かいます。嵐の影響が残っているため若干いつもよりも泳ぎにくいですが問題なく島へとたどり着きローレライの方々の集まっている場所へと向かいます。私の進行方向にいたローレライの方が道を譲ってくれ、その先にはガイストさんが眉根を寄せた難しい顔をして待っていました。


「お呼びと聞いて来たのですが?」

「帰ってきて早々に悪いな、ワタル殿」

「いえ、何か問題でも……」


 そこまで言ってガイストさんの後ろに倒れている存在に気づきます。

 1人はメイド服を着た女性です。年の頃は20代後半から30代前半といったところでしょうか。顔がこちらを向いていませんのでよくわかりませんが、ボブ程度に切られた黒髪が首筋に張り付いています。

 あとの2人は子供です。動きやすそうな簡素な服を着ています。どうやら男の子と女の子のようですね。本来であればふさふさとしていたであろう耳と尻尾が生えていることに少し驚きますが、まあローレライの方々が居る時点で私の常識が通じないのはわかっていましたから仰天するほどでもありません。犬、いや狐でしょうか?

 しかしそれよりも首輪をつけていることの方に驚いてしまいます。ペット扱いなのでしょうか?


「ええっと、これは?」

「うむ、海を漂流していたので連れてきたのだ。今までならそのまま放置していたのだが一応ワタル殿の判断を仰ごうと思ってな」

「そうでしたか。うーん、迷いますね」


 薄情なことを言ってしまえばそのまま放置したほうが私にとっては都合が良いでしょう。海で人を助けるということはその人を陸に送り届けるということと同義なのですから。しかしそうすればフォーレッドオーシャン号のことが大勢に知られてしまう危険性が高まります。そのデメリットに見合うだけのメリットが無いのですよね。

 と、冷静な部分では考えられるのですが、やはり人情としてこのまま放置するなんてことが出来るはずもありません。仕方がありませんね。


「申し訳ありませんが3人を私の船に運んでいただけますか? さすがに濡れたまま屋外に寝かせるのは体に良くありませんので」

「わかった。面倒を押し付けてしまって悪いな」

「いえ、これも海の導きでしょう。私がガイストさんと出会ったように、彼女たちも出会うべくして出会ったと考えておきます」


 ガイストさんに別れを告げ船へと戻ります。タオルで頭を拭いているとローレライの方々が3人を後部デッキに運んできてくださいました。その方々にお礼を言いしばし考えます。

 部屋はたくさん空いていますので一番近いシングルベッドが2つある客室に3人とも運んで寝かせようとは思うのですがさすがに濡れたままというのはだめですよね。しかし脱がすにしても気絶した人から服を脱がすというのは大変ですし、メイドの方に関して言えば妙齢の女性です。さすがに男の私が着替えさせるには問題がありすぎます。


「仕方がありませんね。ベッドについては最悪補給で補充しましょう」


 そう気持ちに整理をつけて新しいタオルに少女を包んで1階の客室へと運んでいきます。ベッドに厚めにバスタオルを敷き、その上に少女を寝かせます。ピクピクっと耳が動くのが少し面白いのですがそれはまた今度にしましょう。続いて少年を同じように運んで少女と同じベッドへと寝かせ、続いてメイドの女性を毛布で包んで抱き上げます。彼女の顔が近くなり、苦しそうな表情をしたままのその顔を見ながら起こさないようにゆっくりと運んでいきます。その黒髪のせいか懐かしさを感じつつ階段を下り、そしてもう1つのベッドへと彼女を寝かせます。


「ううっ」

「……」


 小さく呻き声をあげたので起こしてしまったかと思ったのですがその瞳は閉じたままでした。そのことにホッとしながら一旦部屋を後にします。私自身も着替えなければいけませんしね。

 足音を立てないように静かに歩き、ゆっくりとドアを閉めます。


「ひ……ま……」


 メイドの女性の声が聞こえたような気がしましたがドアの向こうで起き上がるような物音はしませんでしたのでその場を離れます。

 とりあえず服を着替えてこの部屋の前で待機でしょうかね。もし夜中に目覚めてしまったら混乱するでしょうし。

 今後のことを考えながら着替えるため自室へと急ぐのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【ホバークラフトは船なのか?】


ホバークラフトは商標であるため、本来はエアクッション艇または空気浮揚艇と言います。水陸両用である事などが売りなのですが、日本においては海上で使用されることがほとんどであるため法律上船舶に分類されています。

維持コストや運用コストが高く、騒音などの問題も多いため日本では既に定期航路はなくなっており、世界的に見てもイギリスのみとなってしまっています。イギリスへ旅行へ行かれる際は是非とも乗ってみてください。


***


ブクマいただきました。ありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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