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Flag3:ご飯を作りましょう

 キッチンにクーラーボックスを置き少し考えます。

 釣った魚はサンマによく似た魚ですから調理方法もサンマと同じで良いでしょう。問題は何を作るかなのですが、まずは定番の塩焼きですね。これは外せません。後は普段アル君がそのまま食べていることを考えれば刺身でしょうか。アニサキスが心配ではありますが釣ってからまだ時間もほどんど経っていませんし、しめたのも先ほどですからそこまで心配しなくてもいいでしょう。先に内臓だけは取り出しておきましょうかね。

 後は……そうですね。私としてはお米を炊きたいところですがあまり待たせるのもどうかと思いますし、さすがに日本人ではない方に受け入れられるかわかりませんよね。それ以前に人間かどうかも微妙なのですが。

 それにしてもローレライですか。人魚といえばデンマークですしパスタの方が良いでしょうか? 何となくですが。

 サンマのアンチョビパスタにでもしますかね。


 スーツの上着を脱ぎ、シャツを軽く腕まくりしてキッチンにかけられたままだった黒色のエプロンをかけます。白いシャツに血がついてしまうと面倒ですしね。


 まずはサンマの処理からしてしまいましょう。サンマにも鱗があるので包丁の裏でこそいで鱗を落としてから、えらの手前から包丁を斜めに両側から入れ頭を落とします。サンマを縦にし、腹の部分に包丁を入れて腹わたを取り除き、水で腹の中をよく洗います。中骨のあたりにある血の塊をきれいにするのがポイントですね。

 3匹ともここまでおろすと、刺身用の一匹はキッチンペーパーで水分をとってから冷蔵庫に保管しておきます。あまり外に出しておくのも心配ですしね。


 塩焼き用に一匹のサンマの両面に塩を振って、そしてオーブンを250度にセットして予熱を開始する一方でお湯を沸かしつつアンチョビパスタの準備を始めましょう。


 頭を落としたサンマの背中から包丁を入れ、中骨の上を滑らすようにして尻尾の方へ向かっておろしていきます。2枚におろし終えたら、ひっくり返して同じように包丁を走らせれば3枚おろしの完成です。後は腹骨が残っていますのでそこに包丁を差し込んで切り落としてしまいます。次に1.5センチ幅くらいに斜めにぶつ切りして塩を振り、酒、しょうがを加えて少しもみこんで下味をつけます。


 おっとオーブンの予熱が終わったようです。

 塩を振っておいたサンマから出ていた水気をキッチンペーパーでさっとふき取り、再度軽く塩を振ります。この水気は臭みを含んでいますのでもう少し待つ方がいいのですが、新鮮ですし、あまりアル君を待たせるのもどうかと思いますので今回はこれで良いでしょう。

 焼き上がりがきれいになるように切れ目を軽く3か所程度に入れクッキングシートを敷いたオーブンに投入です。時間はとりあえず15分で後は時々様子を見ましょう。


 さてパスタの続きです。

 たっぷり目のお湯にパスタを投入し軽くかき混ぜながら茹でていきます。このパスタのゆで時間は10分ですので実際にゆでる時間は8分程度ですね。鍋の中をパスタがくるくる踊る様子は見ていて楽しいものですが、今のうちに刺身の用意をしておきましょう。


 冷蔵庫から取り出したサンマを先ほどと同じように3枚おろしにし、次に頭の方の部分から身と皮の部分を引きはがしていきます。うっすらと残る銀色が美しいですね。

 次におろした身の真ん中にある小骨をおとすために包丁を縦に二度入れ、あとは適当な大きさに切っていけばサンマの刺身の完成です。他の料理の完成までにもう少々時間がかかりますので再び冷蔵庫行きなんですがね。


 おっともうパスタをゆで始めて6分ですか。そろそろ次の準備を始めなくては。

 IHコンロの電源を入れ、オリーブオイルを入れたフライパンを熱し、そこにみじん切りにしたにんにくを投入し弱火で炒めていきます。ニンニクの強い香りが私のお腹を刺激して思わず鳴ってしまいました。アル君へと言った冗談が本当になってしまいましたね。

 続いてアンチョビを加え2分ほど炒め、そこに先ほどぶつ切りにしたサンマを入れて両面をじっくりと焼いていきます。


 あっ、しまった。パスタをゆですぎました。

 とはいえまだゆで時間は9分程度。許容範囲でしょう。急いでざるにパスタをあげてしまいます。一本口に含んでみればまだ軽く芯は残っているようですので問題ありません。

 サンマが焼けて来たらフライパンにミックスベジタブルを投入し、火を中火にしてパスタを加えます。軽く混ぜながらしばらく置き、しょうゆを投入して味付けです。全体に味がまんべんなく広がるように軽く混ぜれば、しょうゆの焼ける香ばしいにおいが広がります。

 よし、パスタはこれで完成です。


 皿へとそれぞれの分を盛り付けし、お盆に置きます。スプーンとフォークで大丈夫でしょうか?さすがに箸は難しいでしょうし。

 ついでに刺身も冷蔵庫から取り出し、小さな器に刺身醤油を入れ、刺身の皿に軽くわさびを載せておきます。

 そんな風に運ぶ準備をしていると、サンマの焼けるいい匂いが漂ってきました。そろそろでしょうかね。


 オーブンを見ると、まだ1分前ですが焼き目も綺麗についています。サンマの自身の脂がてらてらと自分自身を照らしているその姿に思わず唾液が出てきてしまいそうです。もう大丈夫でしょう。

 オーブンからサンマの塩焼きを取り出し長皿に置けば、サンマ尽くしの昼食の完成です。我ながら良い出来ではないでしょうか。後は水をコップ入れて添えてっと。


 エプロンに特に汚れはついていないようですので先にゆすぐ必要はないでしょう。いくら黒とはいえあまり汚れを放置すると大変ですから良かったです。

 エプロンを脱ぎ、スーツを再び着てお盆を持ってアル君の元へと向かいます。ちょっとウエイター気分です。なかなか楽しいものですね。


「お待たせしました」

「おう。ハラ減っちまったぜ」

「……」


 おや、お腹は減ってないという話ではなかったですかという出かけた言葉をぐっと飲みこみます。ここで蒸し返すのは少し大人げないですしね。

 アル君は器用に白いソファーの上に寝転んでくつろいでいました。まあ防水ですからいいのですが。本当に陸上でも特に支障は無いようです。

 Uの字を描いているソファーに取り囲まれている机のアル君の前に料理を一品ずつ並べていき、その斜め隣に私の分も用意していきます。くんくんと鼻を動かしながら起き上がり、料理をキラキラした目で見ているところを見ると匂いがダメということはなさそうですね。


「おっちゃん。食べていいか?」

「はい、どうぞ」


 その待ちきれない様子に我慢していた笑みが浮かんでしまいましたが今のアル君には関係ないようで食事に手を……


「ちょっと待ちなさい」

「なんだよ、おっちゃん。俺の分なんだろ」

「そうですが、料理は素手で食べるものではありませんよ」


 確かにインド等の素手で食べる風習になっている地域もありますが、少なくとも私の作った料理は素手で食べる類のものではありません。

 アル君はふくれっ面でこちらを睨んでいるのですが、ちらちらと料理を見ているのでよっぽど食べてみたいのでしょう。そういえば料理自体初めてとのことですから当然フォークやスプーンなんかも使ったことが無いはずです。まずはそこからでしたね。


「じゃあどうやって食べればいいんだよ?」

「そうですね。とりあえず私の真似をしてみてください」


 一回限りの交流というのであれば特に気にする必要は無いのかもしれませんが、このローレライの少年とは今後も交流してみたいと思っているのです。ならば最初から料理はこうやって食べるものと教えた方が良いでしょう。

 私は静かに両手を合わせます。それを見てしぶしぶアル君が同じようにまねました。


「いただきます」

「いた、だ、きます」


 いただきますという言葉自体が無いのでしょうか。拙いその言葉はとてもかわいらしかったです。もちろんアル君にはそんなことは言えませんが。

 アル君にわかりやすいようにゆっくりとフォークを使ってパスタを食べていきます。アル君もおっかなびっくりといった感じですが同じようにパスタをくるくると巻くとえいっと口の中へと放り込みました。

 その瞬間、アル君の目が見開かれ、料理と私の間を行ったり来たり忙しく動きます。


「ほいいい!!」

「良かったです。焦らなくても大丈夫ですからゆっくり食べましょうね」


 がっつきそうになったアル君に注意すれば、それで少し落ち着いたのでしょうか、顔をほころばせながら味わうようにゆっくりとパスタを食べていきます。

 良かった。ニンニクなどが入っていたので少しどうかと思ったのですが気に入ってもらえたようです。

 私も安心してパスタをつつきます。やはりアンチョビとしょうゆの組み合わせは間違いがないですね。それがオリーブオイルと合わさってパスタへと絡みつき、口に入れるとニンニクの匂いが鼻に抜けます。そしてかみしめるとサンマから出た旨味が口の中へと広がっていくのです。贅沢を言うならばミックスベジタブルではなく新鮮な水菜などがあればもっと良かったのでしょうが。


 そしてそろそろ塩焼きでも食べましょうかと、手を付けようとしたところで強烈な視線を感じそちらを見ると、アル君が私の仕草をじっと見つめていました。そういえばこちらはまだ食べ方を教えていなかったですね。


「これは塩焼きですね。魚に塩をつけて焼いたシンプルな料理です。きれいなとりわけ方などもあるのですが、さすがにアル君にそこまでさせるつもりはありませんので今回は私がアル君の分をお渡ししますね」

「ありがとう、おっちゃん」

「……いえ、どういたしまして」


 思わぬお礼の言葉に、一瞬言葉が詰まってしまいましたがアル君は特に気にした様子もなく、私の取り分ける様子に夢中のようです。


「はい、どうぞ」

「これは普通にこれで食べればいいんだよな」

「そうですね。食べやすい長さにして食べるといいでしょう」


 半身をアル君へと分ければ、何となくフォークの使い方を覚えたアル君が私に確認しながらではあるのですが自分でサンマの身を切り、フォークの先に刺して口へと運んでいきます。そしてもしゃもしゃと顎を上下させ、満足そうに何度もうんうんとうなずきながらまた塩焼きをフォークで刺していきます。

 これも気に入ってもらえたようです。

 それにしてもアル君はすばらしいですね。まさかパスタを私が食べる様子を見るだけでフォークの使い方を理解してしまうとは、なかなか器用な子です。

 塩焼きは定番ですね。今回は頭を落としてしまいましたが、頭も内蔵もそのままで焼いて食べるのも乙なものです。今回は流れですべて頭を落としてしまいましたしね。

 今回釣れたサンマは、というかサンマもどきなのですがまあどうでもいいでしょう、旬なのか脂がのって身も厚く塩焼きには最適の状態でした。むしろ塩すら不要だったかもしれませんね。しかしここでもやはり欲を言えば大根おろしが欲しいところです。さすがに冷凍の大根などはありませんでしたので無いものねだりとは重々承知しているのですが。


「おっちゃん、これはこれにつけて食べるんだよな」


 塩焼きを味わっていると、刺身に興味が引かれたのか私の食べるのを待つまでもなくアル君がフォークを刺身に刺してしょうゆ皿へと入れようとしています。


「そうですね。軽くつける程度でいいかと思いますよ」

「わかった。おっ、いつもの感じだけど違う食べ物みたいだな。うん?これも食べられるのか?」

「あっ、その緑のものは……」


 刺身も気に入った様子のアル君でしたが、私が止める間も無く皿に添えられたわさびをフォークで取るとそのまま口へと運んでしまいました。


「んっ、んー!!」

「水を飲んでください。本わさびですからすっと消えるはずです!」


 鼻を押さえ顔を赤くしながらじたばたしだしたアル君に慌ててコップを差し出すと、奪い取るような勢いで持って水を飲んでいきました。コクコクという喉の音と共にアル君の表情が少しずつ落ち着いていきます。そしてコップが思いっきりテーブルに叩き付けられました。


「何なんだよ、これ!毒だろ、毒!!」

「違います。むしろ薬のようなものです。まあ単体で大量に食べるものではありませんが」


 非難の目で私を見るアル君に証明するように私もサンマに軽くわさびを載せ、ちょんちょん程度にしょうゆをつけると口の中へと放り込みます。やはり脂がのっていておいしいサンマですね。そのねっとりとした脂をわさびのツンとしたさわやかな刺激が上書きし、すっきりとした後味に思わずもう一口となってしまいます。

 わさびには抗菌効果もありますから薬と言っても問題ないでしょう。残念ながらアニサキスには効果がありませんが。薬味とも言いますしね。

 私が食べる様子を疑わし気に見ていたアル君ですが、好奇心が勝ったのかほんの少しだけわさびを刺身にのせ、しょうゆをつけて口の中に放り込みます。チャレンジャーですね。ちょっぴり体を震わせていましたが、まずいという顔はしていません。


「俺はこれつけない方が好きだ」

「まあ好みは人それぞれですからね。好きな食べ方をするといいですよ」


 うーん、残念ながらわさびは受けなかったようです。まあ子供のころは私も苦手でしたから仕方がないのかもしれませんね。


 アル君にたまに料理について質問をされながら続いた楽しい食事の時間も終わりを迎えようとしています。用意された皿はきれいにさらわれており、かけら一つ残っていません。というよりもサンマの骨までバリバリとアル君が食べていました。少し驚いてしまいましたが普段はそのまま食べているんでしたね。

 アル君もお腹がいっぱいになったのかポッコリとしたお腹をさらしながらソファーに寝そべっています。大変満足いただけたようで嬉しいですね。

 私も一緒にゆったりとしたい気分ではあるのですが、さすがに洗い物を残しておくのは性分に合いませんのでアル君に一言伝えて食器を洗いに戻ります。お腹がいっぱいになって少し眠たそうにしながらもアル君が手を振って見送ってくれました。


 洗い物をしながらこれからのことを考えます。

 この夢がいつ終わるのかは自分自身にもわかりません。しかし自分の夢であったとしても人魚と知り合い一緒に食事をするなどという愉快な状況を楽しまない理由はありません。

 どうせ目が覚めれば動けない日常が戻ってくるのです。目一杯楽しんでも罰はあたらないでしょう。

 ではまずアル君と友達になれないか聞いてみましょうか。ちょっと出会いはあれでしたが、今のところ感触は悪くないと思いますし。

 ちょうど洗い物が終わったのでキュッと蛇口を止め、タオルで手を拭きます。そしてアル君のところへと戻ろうかと思ったその時、私の耳に誰かの歌声が聞こえてきたのです。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【サンマと大根おろしについて】


鉄板とも言える組み合わせの両者ですが、実はサンマのような脂の多い魚を食べると胃が疲れてしまうのですが大根おろしと一緒に食べることでそれが緩和されます。また不飽和脂肪酸の酸化を大根のビタミンCで防ぐことが出来たりと何かと良い組み合わせのようです。

まあ、美味しいは正義っていうのが一番ですけれどね。


***


お読みいただきありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

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