Flag31:新機能を確認しましょう
「ふむ」
キラキラと期待した目で見ているアル君には少し申し訳ないながらも自分の中で少し整理が必要です。
「自動操縦」はそのままでしょう。ナビが応答しなくなったため使用できなくなっていた自動操縦ができるようになるのでしょう。いえ、使用できなくなったは語弊がありますか。自動操縦のための機器はあるのですがナビが他システムと連携して運用していたのでナビのいない現在、使用を控えていたと言うのが正解です。
現状私1人だけしかいないこの船にとってはありがたい機能です。私が眠っている間は船を動かすことが出来ないというのはかなりの制約ですからね。
もちろん自動操縦の機能がどの程度かも確認が必要です。自動で操縦できますが岩礁地帯に突っ込みました、他の船にぶつかりましたでは意味がありませんからね。
問題は「共通空間」の方です。はっきりと言ってしまえば予想がつきません。少なくともこの言葉に該当するような機能がこの船についていたとは思えません。という事はこの世界に来て成長したことによりついた新しい機能と考えるのが妥当なのですが、そもそも何を共通にするのか、そして空間というのはこのフォーレッドオーシャン号のことなのか、わからないことが多すぎます。
それぞれの項目を選択してみれば、「自動操縦」は100万ポイント、「共通空間」は200万ポイントで取得可能なようです。現状450万ポイント程度残っていますので両方取得することは可能なのですが……
「おい、おっちゃん! おいってば!!」
「あ、ああ。すみません。考えに集中してしまいました」
「いや、別にいいけどよ。で、結局なんなんだよ?」
「そうですね。1つは「自動操縦」と言って私が操縦しなくても勝手に船を動かす機能ですね。もう1つは「共通空間」と言うのですがこちらは私にも何が出来るようになるのかわかりません」
「ふーん。それで両方出来るようにするのか?」
アル君に聞かれ、改めて考えます。自動操縦は必要な機能ですから迷う必要はないのですが、共通空間ですか……
よし、決めました。
「とりあえず「自動操縦」を出来るようにして「共通空間」については保留です」
「なんでだ? 両方ともでもポイントは足りるんだろ」
「そうですね。しかし何が出来るのか不明な機能をつけるよりは今はポイントをある程度保持しておいたほうが良いと思いますので。また必要になったらつければ良いですしね」
「ふーん」と気のない返事をするアル君ににっこりと笑みを返し、「自動操縦」を選択します。100万ポイントが消費され、残りは約350万ポイントです。
本当はどちらでも良かったのかもしれません。魔石はまだまだあるそうですのでガイストさんにお願いすればもらえるかもしれません。しかしこれからローレライの方々が魔石を使用する機会も増えると思うのですよね。ならばあまり私だけのために消費するというのもまずいでしょう。
とりあえず成長することによって船の機能が増えるということがわかったのは大きな収穫です。うまくいけば船を守るような機能や敵を攻撃する機能が出てくる可能性もあります。そんな機能があればフォーレッドオーシャン号の安全も高まることでしょう。
交易してお金を稼ぎ、コツコツと魔石を買い集めてポイントを貯め、成長させて新しい機能の発現を待つ。フォーレッドオーシャン号自身の強化についてはそんな感じですかね。
さて、ここでするべきことは終わりました。そろそろ良い時間ですし準備をしなくては。
「さて確認したいことは終わりましたし、料理教室に行きましょうか」
「おう」
アル君を抱き上げて操舵室を後にします。さて今日の料理は何にしましょうかね。
料理教室を終え、リリアンナさんとアル君に加えて休憩と食事に来たガイストさんに声をかけます。
「お食事が終わってすぐに申し訳ありません。少し話をしてもよろしいですか?」
「大丈夫だ。何かあったか?」
「いえ、そろそろ1か月経ちますので少し街の様子を見てこようと思います。襲撃してきた船のことについてどんな噂になっているのか気になりますし、料理用の魔道具も仕入れた方が良いと思いますので。」
「うーん、確かにそろそろ人数が増えすぎていますよね。お手数かけて申し訳ありません。」
「いえいえ、私自身の用事もありますし気にしないでください。」
申し訳なさそうに眉根を寄せて頭を下げるリリアンナさんに手を軽く横に振って応えます。実際料理用の魔道具も目的の1つではありますが、どちらかと言えばついでといったところですしね。
「それではあの船を貸せば良いのだな。」
「はい、お願いできますか?」
「問題ないな。遊び場としてはこの島の方が子供たちは気に入っているようだしな。まあ見張る大人は大変だが、立候補者が増えたのでこちらも問題はない。」
ガイストさんが少し疲れたように深い溜息を吐きます。
以前は子供たちを見張る役目は2名でこなしていたようですが、この島に変わってからは6名の方が見張りをしているようですしね。範囲が広くなったから人員を増やしたという面もあるのでしょうが、実際は少し違うようです。
料理教室で作った料理なのですが、作ったローレライの方々だけでなく、そこにいる子供たち、そして見張り役のローレライの方にも配られるのです。つまり子供を見張るだけで料理を食べることができると言う訳で希望者が殺到し、ガイストさんはその振り分けにかなり頭を使ったようです。
ガイストさんがここに来ているのもただ単に休憩と食事のためだけではありません。見張っていないと本来の持ち場を離れた人が来る可能性があるからなのです。と言うよりは始めの頃に既にそう言った事例があったからこそ今の感じになっているのですがね。
「それでは2日後に出発させていただきます。期間は大体1週間以内ですね。ご迷惑をおかけしますがフォーレッドオーシャン号をよろしくお願いいたします」
「ああ、くれぐれも気をつけるんだぞ」
「そうですよ。何が起こるかわかりませんから」
「おっちゃん、お土産待ってるぜ。うまいものな!」
げんこつを落とされているアル君の姿をこっそりと笑いながら見つめ、そして2日後の出発に向けて準備を開始するのでした。
役に立つかわからない海の知識コーナー
【船乗りの恋愛】
船乗りは港の数だけ女房がいると昔から言われていますが最近の恋愛事情は少し変わっているようです。
長期間の勤務を余儀なくされる貨物船の船乗りであればある意味長距離恋愛と同じで、しかも昔は連絡も取りづらかったりしたので長続きしないことが多かったらしいのですが、現在ではスマホなどの普及により連絡手段が増えゴールインする方も増えたそうです。
ちなみに本当に港ごとに女房のいたツワモノも居たそうです。
聞いた話ですので絶対に本当というではありませんけれどね。
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ブクマ、評価いただきました。ありがとうございます。




