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Flag30:成長させてみましょう

 ローレライの子供たちの遊び場認定を受けていたフォーレッドオーシャン号ですが、大恩人の船を汚してしまうのは申し訳ないということで子供たちの遊び場からは外されてしまいました。少々寂しい気はしますが、たまに後部デッキに顔を見せに来てくれるのでそれで満足しておきましょう。

 代わりに遊び場となっているのはガイストさんたちが運ばれたあのUの字型の海岸を持った島です。陸上に危険な生物もいないようで遊び場として最適なのです。4隻の船から運ばれた机や椅子なども置かれており、場所としても広いので最近はローレライの方々への料理教室もそこで行っていますしね。


 ローレライの方々の料理教室ですが、やはり襲撃された後に私がふるまった料理が衝撃だったらしく今では20人以上の方々に教えることになってしまいました。調理器具に関してはフォーレッドオーシャン号から持ってくればいいですし、4隻の船からもある程度の道具は確保できましたので問題はないのですがどうしても火口が足りません。現状では私が買ってきた4つの魔道具しかないので当たり前なのですが。


 4隻の船の厨房にあったものを持ってこられれば良かったのですが、しっかりと備え付けられていたので周辺を破壊しない限り動かすのは無理です。仕方がありませんので現状は火を使わない料理か、火を使うときはリリアンナさんなどの先に教えていたローレライの方々に代表して作ってもらいその他の方は調理方法を見て学んでいただくことにしていますが、やはり自分で調理しなければ経験は積めませんからね。

 一応10セットは注文してありますがこのブームの兆しから考えてまだまだ必要になりそうです。今度ルムッテロに行くときにも予約しておいた方が良いでしょう。当面は100程度あれば壊れた場合も含めて対応可能でしょうからね。とりあえずはどの程度生産が可能なのか確認して発注数を決定しますかね。


 そんなことをつらつらと考えつつ自分の部屋へと航海日誌を置きに行き、そして操舵室へと向かいます。


「おっ、おっちゃん来たな」

「アル君。あまりだらけているとガイストさんに怒られますよ」


 操舵室の後方にあるソファーで寝ころんでいたアル君に少し釘を刺します。子供たちはあまり来ないようになりましたがアル君は相変わらずここへと来ています。一応本人曰く、俺はおっちゃんとローレライとの連絡役だから、とのことですが大抵はどこかしらで寝転がっていることが多いのですよね。まあそれを嬉しく思ってしまう気持ちがないわけではないのですが、教育上少しよろしくないのではとも思いますし。

 ふむ、本格的にアル君の仕事を考えてみるのも良いかもしれませんね。唇を尖らせているアル君を見ながらそんなことを考え、そして苦笑いします。とりあえずガイストさんに相談してみましょうかね。


「そんなことより今日何か起こるかもしれないんだろ。早くやろうぜ」


 起き上がったアル君が私の足元までずりずりとやって来て両手を上げます。抱っこしろという合図ですね。あれだけ最初は嫌がっていたのですが慣れというものは恐ろしいものです。まあそれだけ私に心を許してくれているということでもありますから嬉しくないと言えば嘘になってしまいますが。

 アル君を抱き上げ、モニターの見える椅子へと腰掛けさせます。


「何度も言いましたが起きるとは限りませんよ。1つの区切りではありますが、全く関係ないかもしれませんから」

「わかってるって。じゃあさっそくやろうぜ!」


 完全に何かが起こることを期待しているアル君の頭を微笑みながら軽く撫で、ポイント表示画面になっているディスプレイの「成長」のボタンをタッチします。ポップアップした「成長しますか? 必要ポイント 256,000」というコメントと「はい」「いいえ」の選択肢を確認します。前回成長した時に確認したものと変わりはありません。

 そしてその「はい」という選択肢へと少々震えの見える人差し指を近づけていきます。


 先日のような襲撃を受けた場合、武装のないフォーレッドオーシャン号では対抗することが出来ません。もちろん逃げることは出来るのですが、いつでもそれが可能と考えるのは楽観しすぎでしょう。だからこそそうなってしまった時に備えて様々な手を打っておく必要があるのです。魔法を防ぐ魔道具をこの船に持ってきたのもその中の1つですね。

 そしてこの正体不明の「成長」に関してもそうです。成長と言う言葉からして船に害のある可能性は低いでしょう。逆にこの船にとって有益な可能性の方が高い。そんな不確かなものに頼るというのはどうかとも思うのですが、何しろここは魔法のある世界です。成長するはずのない船を成長させることが出来る、そんなことがあるのかもしれません。まあ一種の神頼みに近いものでしょうか。


 最初の1回成長させて以降様子を見てみましたが船の大きさが変わったということはありませんでした。そして襲撃されてからすでに8度、日にちをそれぞれおきながらですが成長をさせています。成長にかかるポイントは前の成長に使用したポイントの2倍。そのうちに成長させることが難しくなることは予想に難くありません。

 今までに成長を感じさせるようなことはありませんでした。だからこそ区切りとなる10回目の成長で何かが起こってほしいと考えてしまいます。都合の良い考えだとはわかっているのですけれどね。

 ボタンを押し、祈るような気持ちで画面を見つめます。相変わらずのピリッとした静電気のようなものは感じましたが画面に変化は表れていません。


「んっ、おっちゃん。終わったのか?」

「ええ。すみません。予想が外れてしまったようです」

「ふーん。まあそういう時はあるし仕方ねえだろ。じゃあ俺が触ってもいいか?」

「ええ、どうぞ」


 アル君が身を乗り出してディスプレイ上の「補給」や「保全」のボタンにタッチしていく様子を見守ります。私にはよくわかりませんがアル君にとって画面を触ってそれが変化するというのは面白いらしく最近では「補給」や「保全」をするときにはお任せしているのです。確かに銀行のATMを操作したがる子供もいますし、何かしら子供心をくすぐるものがあるのでしょう。


 そんな姿をいつもは微笑ましく見守るのですが、どうやら私は自分が考えていたよりも今回の成長に期待していたようです。思いのほか気分が落ち込んでしまっていますね。

 いえ……すぐには変化しないのかもしれませんし見えないところが変わっているのかもしれません。そう考えましょう。アル君が今行っている「補給」や「保全」は不可思議な現象が現に起こっているのです。「成長」だけ何もないということはないはずです。

 そう考えると少し気分が軽くなりました。どうしても悪い方を先に考えてしまうのは年寄りの悪い癖ですね。せっかく若返ったのですから前向きに考えましょう。


「よしっ、終わったぞ」

「ありがとうございました」


 振り向いてキラキラとした目でこちらを見るアル君に笑いかけ、感謝の言葉を伝えます。得意げなアル君の顔を見ていると心が温かくなります。私にも子供がいればこんな気持ちになったのでしょうか?そうかもしれないしそうでないのかもしれません。

 そんなことを考える自分が少しおかしくて、それをごまかすようにアル君の頭を優しく撫でます。気持ちよさげに目を細めるアル君の姿はまるで猫の様です。それが可愛くてしばらくその様子を眺めていたくなってしまいますがあまりやりすぎると怒らせてしまいますからね。ほどほどでやめます。

 細めていた目を私の方へと向け、軽く頭を振るとアル君は再びディスプレイの方へと向き直りました。その画面は一番最初の4つのボタンが表示されています。


「そういえばおっちゃん、一番下の奴ってやらないのか?」

「ああ、「その他」ですね。私にも良くわからないのですよ。そこを選択しても何も出てきませんしね」

「へー」


 私の言葉を聞いたアル君が「その他」のボタンを触れると、動かないはずのその画面が切り替わりました。


「おっ、なんだ。あるじゃん。おっちゃん、これもやっていいか?」

「ちょ、ちょっと待ってください、アル君」


 画面にそのまま触れてしまいそうなアルくんの指を慌てて掴みます。ようやく見つけた待望の変化です。よくわからないまま選択してしまい、その表示が消えてしまって何があったのかわからなくなってしまう可能性もあります。


「おっちゃん、ちょっと痛い」

「あっ、申し訳ありません。少々焦ってしまいました」


 顔をしかめているアル君の手をゆっくりと離します。思わず力が入ってしまっていたようです。アル君は軽く手をぷらぷらと振ると表情を一変させ私を期待するような目で見ます。


「で、なんなんだ?」

「ええっと、ちょっと待ってくださいね」


 画面に表示されている項目を確認します。そこに表示されている文字は2つ。「自動操縦」と「共通空間」でした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【キール(竜骨)】


船の底部にあり船首から船尾にかけて通すように配置された部品です。帆船にとっても非常に重要でこれがないと帆が強い風を受けるとそのまま横倒しになって転覆してしまいます。

造船する時の最初の工程である「キールを敷く」ことは進水式に次ぐ重要なイベントです。

このキールが損傷することを「背骨が折れる」とも言い、船全体に影響があるだけでなく、修理して船として再利用するのが絶望的なのでそうなつまたらそれが船の寿命です。某海賊さんの羊船もキールを損傷して役目を終えましたしね。


***


ブクマありがとうございます。

何とか毎日更新頑張っていきます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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