Flag22:情報を集めましょう
情報収集と言えば酒場というイメージが一般的にあるかもしれません。確かにそれはある意味で正しく、ある意味で間違っています。
酒場というのはいろいろな人が集まってきますのでそれに伴い多くの情報が集まるということは確かです。しかし酒場であるからこそ、その情報の真偽の見極めが必要ですし、マスターに聞けばすぐになんでも教えてくれるなんて言うことはありえません。いえ、あるのかもしれませんが、情報を仕入れられるということは逆に言えば私がその情報に興味を持っているという情報をマスターに伝えることになるのです。見ず知らずの私に情報を売ってくれるような人なら私の情報を誰かに売るのに躊躇などしないでしょうしね。
こういった時に頼りになるのは町の主婦たちですね。魔石の不足は生活に直結する事項です。不足すれば値上がりするというのが経済の仕組みなのですから家計を直撃する今回の魔石の買い占めはかなりの反感を買っているはずで、実際にそうでした。
八百屋や魚屋などの主婦の方が多く訪れる店を買い物しながら、「そういえば……」と魔石の不足の件を切り出してみれば、出てくること出てくること。やはり女性のネットワークというものは侮れないものがあります。いったいどこからそんな情報を手に入れたのだろうというものまでありますしね。
とりあえず概要が知れたので、魔道具を受け取りがてら商人ギルドへ裏付けを取りに行きます。
いつも通り商人ギルドへと入ると、今までにないほどバタバタと職員の方が動き回っており、そしてせわしなく商談をしている商人の姿も多く見えます。あぁ、これは悪い予想が的中しそうですね。
後方の男性職員へと指示をしていたミミさんと視線が合ったので彼女のもとへと向かいます。
「申し訳ありません。少々立て込んでおりまして」
「いえいえ、忙しいのは良いことですよ。魔石と大型船舶の件ですかね?」
「お耳が早いですね」
「いえいえ、商人なんてものはそういったものでしょう。機を逃さないためには何より耳が必要ですから。ええっと私の荷物は届いていますかね」
「はい、少々お待ちください」
ギルドカードを取り出し、それをミミさんに渡します。それを確認したミミさんが男性職員へ荷物を持ってくるように指示しました。顔見知りとはいえ、そういった確認を怠らない勤勉さはすばらしいことです。まあ人によっては嫌がるかもしれませんが。
「噂によると近々に出港されるとか」
「そうですね。そのために食料、魔石などを買い集めているので一時的にではありますが品が不足気味ですね。ワタルさんも食料品などがあれば高値で買い取りしてもらえる店を紹介できますが」
「いえ、今回は遠慮しておきます。オットーさんの店で十分に利益は出ましたので」
ミミさんが「そうですか」と少し残念そうに呟きます。思った以上に食料が不足しているのかもしれません。とはいえこれだけの商人とギルドが動いているのです。これを見越して動いていた商人もいるでしょうし、多少の値上がりはあったとしても致命的なことにまではならないでしょう。
「ふむ、しかし本気でローレライの捕獲に行くのでしょうかね。自殺行為としか思えませんが」
「なんでも秘策があるそうですよ。こちらのギルドにも捕獲後の売買についての交渉にみえましたし、かなり自信があるようです」
「ほう、そうでしたか。まあ私はそろそろ町を離れますので、結果がわからないのが残念なところですね。また来た時にはぜひ結果を教えてくださいね」
「はい、もちろんです。ワタルさんに海神の守護のあらんことを」
「ありがとうございます。それでは」
注文した料理用の火と水の魔道具と魔石1つがしっかりとあることを確認し、船へと歩いていきます。焦る必要はありません。どう考えても出港にはあと2日はかかるでしょうしね。船足を考えればおおよそ3日の猶予はあるでしょう。
頭ではそう理解しているのですが、少しだけいつもより早く船についてしまったのは私が未熟だからでしょう。
港の建物を訪れ、エドワードさんに出港することを伝えます。まあ別に彼でなくても良かったのですがたまたま会いましたので。
商人ギルドに登録したことを伝え、門番のことについてお礼を言ったら苦笑されてしまいました。何か大っぴらには言えない事情があるようですが、それでもなおさりげなく忠告してくれた良い人です。こういった人のつながりは大事にしなければいけません。
船へと戻り、買った商品などを操舵席奥の休憩室へ詰め込み、エンジンをかけて暖機を開始します。本当ならもう少し野菜などを入手しておきたかったのですが、まあ今はお土産の野菜よりも戻ることが先決ですしね。
もやいロープを桟橋から外し、船を操作してキオック海で待つローレライの方々のもとへと向かいます。
町で聞いた噂、ギルドでのミミさんの話、そして港に泊まっていた巨大なバークとそれに従うように泊まっていた3隻のスクーナーから考えて本気でローレライの方々を捕まえに行くつもりのようです。
ガイストさんから聞いたところでは今までは問題なく対処してきたということですが、商人ギルドにまで事前の交渉に行ったというその自信が気になります。それになぜ魔石を大量に購入する必要があったのか、一筋縄ではいかないのではないかという予感がぷんぷんしますね。
「とりあえずガイストさんへ相談ですね」
もう少し町の様子やこのあたりの情勢について調べたいところですが、それは次回でも良いでしょう。種は蒔きましたので次回来るときには多少根を張っているでしょうからね。今回よりも情報収集はしやすいはずです。
考えをまとめながら一路、ガイストさんの元へと急ぐのでした。
半日ほどで懐かしいキオック海へと戻ってきました。まあ海ですから明確に境界がわかるわけありませんが、数人のローレライの方々が警戒するように近づく私の船を見ていましたのでこのあたりからがキオック海なのでしょう。
船を一度止め操舵室から出てこちらを見ていたローレライの方々へと手を振ります。すぐに私だとわかったのか皆さんが手を振り返してくださいましたので先へ進むと指をさして伝えそのまま通過していきます。
しばらく船を走らせていると、その前方で大きな水しぶきが上がりました。その原因を見ていた私はゆっくりとスピードを落とし、船を止めます。しばらくしてバシャンという水音とともに1人のローレライが船へと飛び込んできました。
「おっちゃん、お帰り。予定より早かったな」
水を全身から滴らせたアル君が私ににかっとした笑顔を向けます。
「ただいまもどりました。ちょっと気になる噂を聞きましたので予定を繰り上げたんですよ。ガイストさんと話すことは出来ますか?」
「親父か? うーん緊急なら呼んでくるぞ」
「そうですね、今すぐという訳ではありませんがなるべく早い方が望ましいですね」
「わかった。じゃあちょっと待っててくれ」
そう言うが早いかアル君は再び海へと飛び込んで行ってしまいました。数日ぶりですがその変わらぬ行動力に思わず笑みが浮かびます。
さあ、それではガイストさんと話す前に少し考えをまとめておきましょうかね。そういえば荷物の整理もまだでしたし、陸の魔物から獲った魔石を船に吸収できるかの実験もまだしていませんでしたね。
とりあえずTODOリストに追加しておきましょう。この問題が片付いたらやればいいのですからね。そんなことを考えながらこれからのことに頭を巡らせるのでした。
役に立つかわからない海の知識コーナー
【海図】
文字通り海の地図のことです。海岸線や水深、灯台や灯標、ブイなどの物標、さらに暗礁や定置網などの障害物か記されています。
海図なのですが海のことだけしか書いていない訳ではなく陸上の様子についてもかかれています。陸上の地形によって自船の位置を特定するためです。最近はGPSなどによりそういった情報は簡単にわかるようになってきていますがね。
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