Flag18:町を散策しましょう
ルムッテロの町は白レンガが建築の基本的な資材のようで、統一感の取れた街並みが美しい場所です。地球であれば観光名所になっているでしょうね。
馬車の轍の跡で多少でこぼこした道を歩いていますが、住人の排せつ物が落ちていたり匂ったりすることもないため衛生面の心配はなさそうです。
温かい地域であるため住人は薄い布の通気性の良さそうな簡素な服を着ています。つまりスーツで歩く私はかなり目立っています。しかし替えとして持ってきた服もスーツよりは目立たないかもしれませんが50歩100歩と言ったところです。生地もデザインも全く違いますからね。まあこのままで良いでしょう。
人々の顔は明るく活気に満ちています。港のある町ですから流通の拠点として賑わっているのかもしれません。酒場には船乗りらしき男たちが昼間だというのに酒を飲んで騒いでいますね。航海中は酒など飲めるはずもありませんから陸に上がった時くらいはと羽目を外しているのでしょう。まあ私がこの格好で向かっても絡まれる未来しか想像できませんので近づきませんが。
たまに兵士が巡回しているのはそんな酔っ払いが暴れることがあるからかもしれません。とは言え南米の一部の国のように道端に立って警戒している訳ではありませんので治安もそこまで悪くはなさそうです。門番の兵士があれだったのでどうかと思ったのですが。
散策をしながら店を覗いていきます。特に欲しいものがあるわけではなく市場調査とお金の価値の把握が主な目的です。
その店の品ぞろえ、値段、お客が何を買っているかなどを何気なく観察していきます。他にお客がいない店では、必要そうなものがあれば購入し、店員と軽く雑談をして情報を仕入れていきます。何か買った方が口は軽くなりますからね。話す内容はそうたいしたものでもありませんが、直接質問するよりも雑談からわかることの方が市場調査には重要だったりします。
とりあえずいろいろな店を巡ってわかったのですがこの町については1スオンはだいたい10円と考えて良いでしょう。もちろん品によってはその基準より高かったり、安かったりしますが平均的に考えるとその辺りですね。別に円換算する必要もないのですが海外へ行ったときの癖のようなものです。一つの目安になりますからね。
比較的高めな値段設定なのが日持ちのする野菜や果物、金属製の道具、服などの布製品などですね。一方で安いのは魚介類、木製のコップなどの日用品でしょうか。
品質としてはとても良いとは言えません。まあ見て回ったのが一般の人が入れそうなお店ばかりでしたので高級店は違うのかもしれませんが、野菜に傷がついていたり、布の織り目が荒かったりするのは普通のようです。服は基本的に売っていても古着のようですが値段は日本の倍以上なのですから買う気が起きません。その代わりと言ってはなんですが生地での売買が中心のようですね。服は基本的に手作りなのでしょう。
野菜については高かろうと料理のレパートリーを増やすためにも買って帰りますけれどね。多少の傷などそのことの前では問題などではありません。
固めなパンとアジの塩焼きにサラダと言う私にとっては微妙なチョイスの昼食を60スオン払って食堂で食べ、散策を続けます。味は正直に言ってあまり美味しくありませんでした。アジの鱗が残っていましたし、新鮮な野菜でもないのに何の味付けもなく盛られたサラダでしたしね。パンも若干酸味を感じる独特なもので、ご飯が欲しいと何度も思ってしまいました。
夕方まで調査を続け、いくつかの宿で値段を聞いて回ります。宿はご飯無しのおんぼろな安宿の雑魚寝部屋で一泊100スオン、ちょっと良い感じの夕食、朝食付きの宿で一泊1000スオンでした。
1000スオンの宿は食堂も兼ねているということだったので夕食をいただきました。150スオンとそれなりの値段だったのですが、やはりどこか味がぼやけている感じがしてなりません。味付けが塩のみだからでしょうか。しっかりと下処理はされていたので昼間の食堂よりは美味しかったですが。
「泊まっていくかい?」とも誘われましたが、さすがに夜間に船を無人で放置と言うのはまずいでしょうからね。部屋の中など興味は尽きませんが。
まあ昼間なら放置しても大丈夫なのかといえばそうではないのでしょうが、現状私一人しかいないため仕方がありません。船には交易品が残っていますが、私からしてみればそう大したものでもありませんので盗まれたらその時です。そういうことのある町だとわかることの方が重要ですしね。最悪船さえ無事なら何とでもなります。
港へ着き船へと戻りましたが特に変わった様子はありません。荷物入れに入っている交易品も盗まれませんでした。一安心です。
操舵室奥の小部屋に入り今日わかったことなどをさらさらとメモ帳に記していきます。
地球に持って帰ることが出来れば必ず売れるだろう商品はいくつかありました。個人的に興味もありましたし邪魔になるほどの物でもありませんので話を聞きがてらいくつか買ってみました。まあ使う機会があるかはわかりませんが。
物価、流行、治安、そして人々の様子。思いついた端から何でも書いていきます。まあ頭を整理するついでと言ったところです。
「ふむ。しかし少し困りましたね」
今日一日歩き回った結果と私が持ってきた交易品を考えると当初の目的であるあまり目立たずに町の様子を探るということは難しいような気がしてきました。
服のせいで少々目立ってはいるのですが、それは問題ありません。なぜなら町を散策している途中で同じような格好をしている男性を見かけたからです。店の人に聞いてみるとこの町の領主の館に努めている使用人なのだそう。逆に私が領主の使用人でないことに驚かれてしまいました。
ギルドでミミさんに少し驚かれたり、買い物に行った店でやけに丁寧に対応されたりしたのは私のことを勘違いしていたからのようですね。まあある意味で好都合です。
また話が脱線してしまいました。問題は交易品のことです。
私が売ろうかと持ってきたものは、塩、砂糖、胡椒といった調味料、石けん、シャンプー、コンディショナーと言ったコスメ用品、そして趣味部屋に入っていた絹、綿、麻の生地でした。どれも船で長期持ち運びしてもあまり問題が無いものを選択したのですがね。
まず塩は当然却下なのですが、砂糖、胡椒についても微妙です。見た限り販売していないということは無いのですが値段が比較的高めでしかも不純物が混ざっていたりしてあまり品質も良くなさそうです。そんな中、まっ白な砂糖と、均一で不純物のない胡椒を持って行った日には目立たないわけがありません。
次の石けん等のコスメ用品もダメですね。見かけたのは石けんだけですが、どうやら動物性の油から作った石けんのようでハーブの香りでごまかしているのですが独特の獣臭さが残ってしまっていました。シャンプーやコンディショナーについてはそれらしきものもありませんでしたしね。
となると残されたのは生地なのですが、まず絹はダメかもしれません。まだ今日は高級店を回っていないので何とも言えないのですが絹と同じような手触りの生地はどこにもありませんでした。となると残りの綿と麻になるのですが……
「これはこれで目立ちそうではあるのですよね。」
取り出した生地の手触りを確かめながら考えを巡らせます。売るべきか売らざるべきか、その場合に何が起こると考えられるのか。まだこの世界に来て日の浅い私にとっては予想のつかないことばかりです。
しかし世界中の海を回ってみたいという夢を叶えるためには魔石の補給のために町へ寄り、商品を売って魔石を購入するということは必須になるはずです。早いか遅いかそれだけの違いしかないのです。
ならば……
「売ってみますか。さて、どうやって売り込みましょうかね」
久々の商談に向けて脳内シミュレーションを開始するのでした。
役に立つかわからない海の知識コーナー
【船の名前】
日本の船に関しては日本丸のように「丸」がついているイメージがあるかもしれませんが、最近はそんなこともなくなっているようです。昔は役所がそういった指導をしていたとかなんとか。
ちなみに海外では人名がつけられることも多いようです。女王様の名前のついた船もありますしね。
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これからも頑張って更新していきます。




