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Flag16:商人ギルドへ向かいましょう

 桟橋と町を区切るようにレンガで作られた壁の中央に木製の両開きの扉があり、その両脇に鎧を装備し槍を持った兵士が立っていました。近づいてくる私を見つけるとおしゃべりとやめ、一瞬にやっと笑った後、顔を見合わせ何事もなかったかのように姿勢を正してまじめな顔に戻ります。

 あぁ、大体予想がつきました。エドワードさんが言葉を濁すはずですね。しかしこれはこれで多少面倒なのですが。

 私が門の手前5メートルほどのところまで近づいたところで両脇にいた兵士が私の進路を塞ぐように目の前へとやってきました。


「止まれ、身分証と町へ持ち込むものを提示しろ」

「はい、どうぞ。今回は商人ギルドへの登録へ行くだけですので特に商品は持ってきておりません」


 仮身分証を取り出し提示します。商品を持ってきていないという言葉に機嫌悪そうに舌うちまでするそのわかりやすさに内心で苦笑します。表情はもちろん笑顔のままです。

 とは言えこのままでは難癖をつけられる可能性が高いのですよね。まあ丁度聞きたいこともありましたし良い機会だと思いましょう。


「あぁ、そういえば私はこの町に来るのは初めてでして、税のかかる交易品などがわからないので教えていただければと思うのですが」

「ふむ、教えないというわけではないのだが我々も暇ではないのでな……」

「そこを何とかお願いいたします」


 兵士の手を握り頼む振りをしてその手の中に布で包んだ銀貨2枚を渡します。兵士はその布をそそくさとしまうと鷹揚に頷きました。


「まあ初めて来たという話であるし、時間を割いてやろう。こちらへ来い」

「ありがとうございます」


 兵士の1人に連れられて門の横にある小さな詰所へと向かいます。出入口すぐは机と椅子がある狭い部屋で、奥に扉が見えますので兵士用の休憩所があるのでしょう。交番のような作りですね。

 奥の椅子へとドカッと腰を下ろした兵士が私の前に1枚の紙を差し出してきます。


「これが税のかかる物、そしてこれが持ち込み禁止の物だな。商品の売買については商人ギルドに確認しろ」

「ありがとうございます。ちなみに商品の品質を確認してもらうために少量を持ち込むことは問題ありませんか?」

「時と場合によるな」

「わかりました」


 その時の懐具合で変わるのですねという言葉は飲み込みます。それが真実なのでしょうがわざわざ言ってかんに触れる必要はありませんから。

 こう言った入国などを管理する者が賄賂を要求するというのは決して珍しいことではありません。地球でも昔は露骨に要求されることもありましたし、今でも申請した書類に不備があったから見逃してやる代わりに……と言った感じで脅されることがあります。まあ最近は一部を除いてほとんどなくなったと思いますが。


 ここで難しいのがどう対応するかです。賄賂なんて間違ったことだから払わないと言うのは簡単ですが、寄港できなければ補給が出来ません。目的地であれば荷物が降ろせず貨物船などにとっては致命的なことになります。

 現在の貨物船は要衝であるパナマ運河を航行できる最大、通称パナマックスという基準をもとに作られていることが多いのですが、2016年に拡張され全長366メートル、全幅49メートルと言う超巨大な船になっています。そんな船が1日無駄にすればどれだけのコストがかさむか……考えただけで目が回りそうです。

 別の港へ向かうと判断するならそれでも良いのですが、賄賂を渡すと決めた時に困るのがいくら渡すのかと言う問題です。少なすぎれば機嫌を損ね、多すぎればカモだと思われてたかられる。その地域の物価、経済状況、賄賂を要求した人の身なりなどから最適な金額を判断するという能力が求められるのです。


 まあそれは良いとして税のかかる物品に関してです。エドワードさんの話の通り塩に関しては1kgあたり銀貨1枚の関税がかかっています。その他の品目に対してかなり大きな金額です。その他で多いのは魚などの海産物関係ですね。これは地元の漁師の保護のためでしょう。

 一方で持ち込み禁止の物品は当たり前であろうというラインナップです。麻薬などの危険な薬物や毒と言ったものが列記されており、最終行にはその他門番が危険だと判断したものと記載されていました。

 見ていて意外だったのが武器の持ち込みが特に禁止されていなかったことです。武器が自由に持ち込めるのであれば危険な勢力に力を与えかねないと思わないでもないのですがまあその辺りについては商人ギルドで確認しましょう。


「ありがとうございました。よくわかりました」


 差し出された紙を兵士へと返し、軽く礼をしてからその場を後にします。紙に書かれていた内容はそう大したものではありませんでしたのでメモを取る必要もありません。

 まあ一番の収穫はこういう場所だと認識できたことですかね。金をゆする手口も大体予想がつきましたしね。


 門まで戻り、兵士に門を開けてもらい町へと入ります。石畳の比較的広い道の両側に、白レンガ2階建ての四角い建物が並んでいます。全く同じような作りをしていますし、家にしては大きすぎるのでおそらく倉庫なのでしょう。この町と別の町を定期的に走っている交易船がありそうですね。

 しばらく人気のあまりない道を歩いていくと、建物の形やレンガの色が様々に変わっていき、だんだんと住人ともすれ違うようになってきました。みな涼しそうな服装をしており、私を奇異の目で見てきます。さすがに上下黒のスーツは目立ちますか。

 一応言い訳をさせてもらえれば、この服装で来たのはこの町で一般的に着られている服がわからず、アル君などのローレライの方々は私の服装を見ても特に驚きはしなかったので下手な服を着るよりはましかと判断したのですが、少々見込みが甘かったようですね。

 とはいえこのスーツ、汗などで蒸れることもなく、しわにもなりにくく動きやすいので便利なのです。見た目よりも暑くありませんし、なにより非常にしっくりときますしね。

 まあ今更着替えるわけにもいきませんので堂々としておきましょう。おどおどすると逆に不審に思われてしまいますしね。


 井戸端会議をしていたご婦人方に商人ギルドの位置を確認すると、この通りをまっすぐ行ったところに噴水がある交差点があり、その一角が商人ギルドだと教えていただきました。

 丁寧に礼を言って再び商人ギルドを目指します。

 そして15分ほど歩いたところで中央に円形の池のある交差点がありました。混雑しないようにラウンドアバウト方式を採用しているようですね。今まで歩いてきて馬車ともすれ違いましたのでそれをスムーズに運行させるためでしょう。


 大通り2本が交差した4つの角地にはそれぞれ大きな建物が建っています。一番目立つのは先ほど海からも見ることが出来た高い塔を持つ建物、見た感じ教会のようですね。その門戸は開かれており、そこを修道服を着たシスターが出たり入ったりしています。


 そして私が来た通りの右手にある飾り気のない武骨な建物には冒険者ギルドと言う看板があり、鍛えられた肉体を持つ男たちが出入りしています。女性の姿も見かけますが数は多くなさそうです。

 冒険者ギルドと言うからには冒険者をまとめているのだろうと思うのですが、具体的に何をする人なのだろうと少し考え、そしてこの世界には魔物がいるということに思い至りました。海にいるのだから陸にもいるのでしょう。魔物から町を守ると言っても兵士も数には限りがありますから、この冒険者ギルドが傭兵のようなことをしているのかもしれません。


 そして左手にある一見冒険者ギルドと同じように武骨に見えて、細かい点を見ると美しい細工がしてある建物には職人ギルドと書いてありました。

 まあこれは言うまでも無く、いろいろな職人のギルドなのでしょうね。もっと細かく細分化されているのかと思ったのですが職人で一緒くたになっているようです。

 まあ職人の方々は自分の納得のいく作品を作る方が優先で交渉事には向かない方も多々いらっしゃいますのでその辺りをサポートする組織なのでしょう。


 と言うことで私から見て斜め左前の方向、白レンガの上にわざわざ木材を張り付けて木造風にしている建物が商人ギルドのようです。なぜそれがわかるかと言えば、現在風化した木材の張り替えの真っただ中だからなのですが。

 建物の端の方を張り替えているので、問題なく人々が出入りしています。営業はしているようですね。助かりました。


 それでは私も行きましょうか。


 一呼吸置き、身なりを確認します。靴は磨かれていますし、スーツにはほぼしわもありません。顔は、まあ変わりようがありませんがしっかりと髭はそっているので清潔感はあるはずです。問題は無いでしょう。

 何となく営業に初めて行った時を思い出しますね。

 そんなことを思った自分自身に苦笑しながら、背筋を伸ばして商人ギルドの扉をくぐるのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【パナマックス】


太平洋と大西洋を結ぶ運河として世界の海運を語る上で外すことの出来ないパナマ運河を通ることのできる船の最大の大きさのことです。

大型の輸送船を建造するときの重要な基準になっています。2016年に拡張され全長366m、幅49mまで通ることが出来ます。さらに拡張する計画もあるようです。


***


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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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