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退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう  作者: ジルコ
第五章:新たな出会いと開発と
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Flag149:初戦の戦果を確認しましょう

「沈没した船は18隻ですか。予想より少なかったですね」


【空間把握】の立体地図を見ながら沈んでいく船を見ながらそんなことをつぶやきます。海にはたくさんの白い光点がありますので生きている人は多いようですが救援が来るのかはわかりません。周囲に島や岩礁はありませんので自力で生き残ることが出来るのかは不明です。

 ふぅ、あまり人の生き死にを考えるのはやめておきましょう。覚悟を持って兵器を開発したとはいえやはり人が死ぬことを喜ぶことなどできませんから。


「すぐに撤退の指示が出たようですからね。もしかすると大将が変わったのかもしれません」

「そうなんですか?」


 私と同じく操舵室で戦況を確認していたトッドさんの言葉に同じく部屋にいたミウさんが反応します。私も同様にトッドさんを見つめました。


「戦争ですから大将が率いているはずなんですが、私がいたころの海軍大将はロウルズという者でした。腕は確かで性格は堅実、と言えば聞こえは良いかもしれませんが状況をじっくりと把握することが多くそれゆえに被害が増えることもあったと聞いています」

「今回の状況とは一致しませんね」

「そうですね。こちらが攻撃を始めてから5分もしないうちに撤退の合図がありましたし」


 トッドさんの言葉に2人で同意します。もしかしてあらかじめ撤退の準備をしていたのではないかと思うくらい早かったですからね。灯りも無い夜の海ですしあんな短時間で状況を把握できたとは思えませんから。

 もしかして機雷の詳細がランドル皇国に漏れているのかもという考えが一瞬浮かびましたが即座にそれを否定します。機雷の詳細が漏れていれば見つけにくい夜の海を航行するなんて作戦を立てるはずがありませんしね。


「率いている人物に心当たりはありませんか?」

「そうですね……」


 トッドさんが視線を下げ考え始めます。ミウさんも大将や中将と言った幹部クラスの顔や名前は知っているそうですがその性格や戦術までは把握していないので現状はトッドさんだけが頼りです。

 相手の性格を抑えると言うのは非常に重要です。こんな時だけではなく商談の時も同じですけれどね。


「ルーカス殿下の派閥の海将で最も可能性が高いのはガウェイン中将でしょうか」

「それはどんな方なのですか?」


 私の問いかけにトッドさんがしばらく考え、そして首を横に振ります。


「ガウェイン中将についてはあまりよくわかりません。会ったこともありますが言葉少なでその副官の方がほとんど対応していらっしゃったので」

「『沈まずのガウェイン』ですか?」

「何でしょうか、その名前は?」

「ガウェイン中将の呼び名ですよ。海軍に入ってから自らが乗船した船は一度として沈没することなく、指揮する船団についても沈むことがほとんどないことからそう呼ばれ始めたそうです」

「『沈まず』ですか……」


 働きが著しい者につくあだ名のようなものでしょう。一見無駄な情報に思えますがあだ名というのはある意味でその人物を表すために最適化された言葉とも言えます。

『沈まず』という言葉からイメージすると決断が早い、臆病、慎重などが考えられますが軍の上位まで上り詰めたのですからただ単に臆病という事はないはずです。まあある種の臆病さは必要なのでしょうが。


 うーん、危機察知能力が高いという事かもしれませんね。

 私も商談の時にたまに直観に従って事前に用意してきた方針をガラリと変えたりすることがあります。いわゆる勘というものですがこれがあながち間違っていないことが多いのですよね。おそらく無意識に相手の小さな変化を察知してそれを今までの経験に基づき判断しているのだろうと思うのですが。それと同じようなことをガウェインという人物も行っているのかもしれません。


「なかなかに厄介そうな方ですね。とは言えこれで夜のうちに再び来ることは無いでしょうしお2人とも部屋で休まれてはどうですか。連日この部屋で寝泊まりするのは大変でしょう」

「では私はそうさせてもらいます」

「私は残ります。何かあったときにワタルさん1人では大変かもしれませんので」

「わかりました。お疲れ様でした、トッドさん。ミウさんも無理はしないようにしてくださいね。最近体調が少し悪いようですし」


 トッドさんが操舵室から出ていき、ミウさんも操舵席後部のソファーへと横になりました。【環境把握】の立体地図へと視線を向けほとんど変わりがないことを確認すると操舵室から見える夜の海へと視線を向けます。遠くにうっすらと見える灯りに、炎を上げそして沈みゆく船を想像します。


「大丈夫ですか?」


 振り返るとソファーに横になったと思っていたミウさんが再び起き上がり座っていました。薄く笑みを浮かべゆっくりとそちらへと向かい、促されるままにその隣へと座ります。そしてミウさんがぽんぽんと自分の太ももを叩き私に向けて笑うと私も思わず笑みがこぼれ、そしてその好意に甘えるように頭をミウさんの太ももへとのせました。

 それからしばらく2人とも何も話しませんでした。ただ私の髪をミウさんが撫でる、そんな静かな時間が続きます。柔らかく温かなその体温が私の心までも温めていくようでした。

 そして私はゆっくりと口を開きました。


「ありがとうございます。少し気が楽になりました」

「どういたしまして」


 交わした言葉はそれだけでした。でもそれだけでお互いに十分に伝わっていました。

 戦争に備えると言う意思を持って機雷を開発しました。その結果多くの人の命を奪うだろうという事も覚悟していました。しかし実際に海の底へと沈んでいき消えていく光点を見たとき自分の心がきしみを上げていることがはっきりとわかりました。


 私は矛盾しています。身内を守るために、大切な人を守るために仕方がないことだと、戦争なのだから人が死ぬのは当たり前なのだと理解しながら、誰であれ人が死ぬことが嫌、いえこれは違いますね。人を殺すのが嫌だと考えてしまうのです。

 なんて自分勝手なのでしょうかね。


 表情には出していないつもりでした。しかしミウさんには私のそんな思いなどお見通しだったのでしょう。だからこそこの部屋に残ると言ったのかもしれません。

 本当に私はミウさんに支えられてばかりですね。


 ミウさんの膝枕から頭を離して起き上がります。非常に名残惜しいのですがこのままでは私が眠ってしまいかねませんしね。さすがにそこまで甘えるわけにはいきません。


「おやすみなさい、ミウさん」

「おやすみなさい」


 そう言葉と口づけを交わし、私は操舵席へと向かいミウさんはソファーで横になりました。しばらく心配そうな視線がこちらへと向いている気配がしましたが振り返らずにそのまま外を眺めていると穏やかな寝息が聞こえてきました。

 ゆっくりと振り返りその愛しい寝顔を眺めます。


「例え悪魔と呼ばれ、この身が憎しみにまみれ滅んだとしてもあなただけは必ず守りますから」


 決意と共にそんな言葉を呟きそして再び監視へと戻るのでした。


役に立つかわからない海の知識コーナー


【救命胴衣の原型】


19世紀の中ほどになると海は危険な場所と言うだけでなく危険な場所でいかに安全に仕事をするかと言う点がクローズアップされました。

イギリスではRENI(国立救助艇国民協会)という団体が沿岸部に救助艇を配備したり、ボランティアの救助員を養成したりしたわけですが、このRENIの検査官のキャプテン・ウォードがその救助艇の乗組員の為にコルクの救命胴衣を開発しました。長方形のコルクを繋ぎ合わせて体に巻きつけたようなものですが海に落ちても浮くと言う点で画期的な発明でした。


***


お読みいただきありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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