表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう  作者: ジルコ
第五章:新たな出会いと開発と
150/161

Flag146:船の成長を完了しましょう

 初めての外遊からおよそ2年が経過しました。今のところまだ戦争が起こるような兆候は見えません。まあロイドナールさんがだんだんと情報を手に入れることが難しくなってきたと言っていましたので油断はできませんが。


 同盟についてはフルー王国が最初の交渉から8か月後に参加を表明しましたがユミリア国は未だに検討中だそうです。

 あまり待ってもいられないと言うことでフルー王国が参加を決めた段階で4か国による同盟がされたことが大々的に発表され一時はランドル皇国との緊張も高まりましたが即座に戦争とはなりませんでした。今ではその緊張感も幾分か和らぎ商人も普通に交易を行っていますしね。


 機雷の開発についてもつい一月ほど前に目途がつき、今はドワーフの方々にその量産を行っていただいています。

 マリサさんは約束通り金属の船の開発を始めました。私が提案した通り普通の船の船底を金属で覆うことから始めるそうです。ノルディ王国で紹介してもらった船大工の方と引退した船長、そしてノシュフォードさんと一緒に楽しそうに研究を行っています。


 私の商会も順調に売り上げを伸ばしました。まあ品が品ですからよほどのことが無ければ売れないと言うことは無かったとは思いますがね。

 その中でも最も売り上げを伸ばしているのはユミリア国です。数値だけで言えば他の国の店舗のすべての売り上げを足してもユミリア国の売り上げの方が数倍大きい状態です。トッドさんの読みがばっちりと当たったのが大きかったと言うこともありますが他の国は国力が落ちないように調整していると言う事情もありますからね。


 まあそんなこんなはありますが私の商会、クレバヤシ商会は順調に各国へと根を伸ばしていっています。まさかヒロも自分の会社が異世界にまで進出しているとは夢にも思っていないでしょう。まあ許可は取っていませんけれどきっと笑って許してくれるでしょう。


 売り上げが伸び、それで魔石を購入しどんどんと船のポイントへと変えていきます。それでもなかなか船を成長させることは出来ませんでした。なんせ1回の成長に億以上のポイントが必要なのですから。

 しかし2年間皆さんが協力してくださったおかげでようやく目標の数値へと達成することが出来たのです。既に4回の成長は終わっています。


 夜の操舵室に1人残り、ディスプレイを見つめ、目の前に表示された「成長」のボタンをタップします。いつも通りの「成長しますか」と言う表示の後ろに続く必要ポイントは8,388,608,000。およそ84億ポイントです。桁が多すぎて笑ってしまいそうです。個人では早々見ることの無い現実味のない数値でしょう。しかし今の私にはそれが可能です。

 続けて出てきた「はい」「いいえ」のボタンを前に一呼吸置きます。そして指で「はい」を押しました。所持していたポイントが一気に減ったことが成長したことを示しています。


 元の画面へと戻り「成長」をもう一度押してみましたが反応はしませんでした。成長できるのはこれが最後と言うことでしょう。まあこの後5回成長しようとすれば途方もないポイントが必要になるのですから別の意味で少し安心しましたが。

 そして一番の目的であった「その他」を選択します。これで機能が追加されていなかったら骨折り損どころではないのですがもちろんそんなことはありませんでした。画面が切り替わりそこに新しい機能が表示されます。その文字を見つめ私は動きを止めました。


「「解放」ですか……」


 そこに書かれていたのは「解放」と言う単純な2文字だけでした。どんな機能なのか、何が解放されるのか予測が非常に難しいですね。

 候補として筆頭に上がるのは現状元に戻っていないナビ機能が戻ることなのですがそうなのであれば「解放」と言うよりも「復帰」やその他の文言の方が適当に思えます。


 うーん、わかりませんね。今までの事を考えれば船に有用な機能であるとは思うのですが……何と言って良いのかわかりませんが、この機能を選択してはいけないような気がして指が動いてくれません。

 嫌な予感と言う訳ではありません。ただ選ばない方が良いと言う漠然とした直感とでも言えば良いのでしょうか。


「どうしましょうかね?」


 ディスプレイの前でしばし黙考します。

 船を成長させておけば、新しい機能があればという経験をした身としては新しい機能はなるべく取っておくべきでしょう。何かが起きてしまってから後悔しても遅い可能性もあるのですから。それにこれから戦争が起ころうとしているのです。少しでも戦力は多い方が良いのは当たり前です。

 しかし……


「失礼します。遅いので様子を見に来ました」

「ああ、すみませんでした。こんなに遅くなる予定ではなかったのですが」


 操舵室へと入ってきたミウさんを微笑んで迎えます。その心配そうな表情が変わることはありません。見抜かれてしまっていますね。微笑みを苦笑へと変えます。


「何かありましたか?」

「ええ、少々。こちらを見てください」


 ミウさんを招き、そしてディスプレイに表示された「解放」と言う文字を見せます。この船の機能についてはミウさんには説明していますし、これから新しい機能を取得しますと言って部屋を出てきましたから事情は察してくれているでしょう。


「「解放」ですか……。聞いていた機能とはずいぶん違うように感じますね」

「確かにそうですね。ミウさんはどう感じますか?」

「どう、と言うことは迷っていると言うことですね」


 その言葉にコクリと首を縦に振ります。私の反応を見たミウさんがディスプレイを見つめじっと考え始めました。数分間そうしていたでしょうか。ミウさんが息を大きく吐いて私へと向き直りました。


「何となくですが……やめた方が良い気がします」

「ミウさんもですか」

「はい。根拠を説明しろと言われても困ってしまうのですが」


 2人で顔を見合わせ、そして同時にディスプレイへと向けます。そこにあるのは変わらない「解放」と言う文字です。本当に嫌な予感と言う訳ではないとは思うのですがね。


「機雷と言う新しい兵器も完成しましたし現状のままでなんとかなる可能性も高いんですよね」

「そうですね。海に関しては大丈夫だと思います。ランドル皇国が何を開発してくるかにもよりますが」

「なら一時保留で良いんじゃないでしょうか」


 その言葉に心が軽くなったことを感じます。明確な理由さえないのに新しい機能を取得しないと言うことに対するプレッシャーがやはりあったのでしょう。

 人に判断を任せてしまうなんて情けないことではありますがミウさんに言われてはっきりと自分の心がわかりました。私は今はこの機能を取得したくありません。


 もしかするとこの選択を後悔する日が来るのかもしれません。下手をすれば後悔することも出来ずに終わってしまう可能性だってあります。

 それでも今はこの選択が正しいのだとなぜか思えるのです。


「ありがとうございます」

「いえ。夫を支えるのが妻の役目ですから」

「あまり支えると怠け癖がついてしまいそうですね」


 肩の力を抜き2人で笑いあいます。2人で笑いあえるこんな穏やかな日々がずっと続けば良いのですがね。操舵室から見える満天の夜空を眺めながらそんなことを考えるのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【19世紀の戦艦】


蒸気機関や鋼鉄の船、射程の長い砲や機雷などの水中兵器が現れて各国の海軍の姿は大きく変わったわけですが変わらない物もありました。

機雷や魚雷の危険が増えたにも関わらず大型の艦が好まれ、「高いコストをかけて造った強力な船」と言う発想は残っていましたし、艦船の武装は大砲が中心でそれが舷側にあるため海軍は戦列の演習をしていたそうです。

さらには弱くなった点もあり、蒸気船なので石炭の補給が必要なので湾岸部への依存が高まり航続距離が短くなってしまっていました。


***


お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ