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Flag14:町へ向かいましょう

「ここから先は案内できない。気を付けて行くんだぞ」

「はい。わざわざありがとうございました。ガイストさんもお気をつけて」


 ローレライの住むキオック海の陸地へ近い水域のぎりぎりまで案内してくれたガイストさんに感謝を述べ別れます。

 漁船に案内されてから2日後である今日、私は予定通り大陸にあるという町を目指して出発しました。てっきりその場で見送りになると思っていたのですが、ガイストさんがギリギリのところまで案内すると申し出てくださったのでありがたく受けることにしました。その海を知っている案内人がいるかいないかで航海のリスクは大幅に変わりますからね。

 見送りにはアル君やリリアンナさんの他に、私が料理を教えるようになった3人の女性も見送りに来てくれました。少しずつこういう風に友好関係が深まっていくことが実感できるというのは幸せなことですね。


 ガイストさんと別れてからは基本的にコンパスを見ながら東を目指します。GPSもたまに確認して進路に問題が無いか確かめます。これを怠るととんでもない方向に進む可能性もありますからね。

 船でまっすぐ進むというのは簡単そうに見えて意外と難しいのです。車のようにハンドルをまっすぐにしておけば直進するというわけではありません。風や潮流の影響を大いに受けるのでいつの間にか別の方向へ進んでいたということが起こりえますからね。

 何か目標物があればまだましなのですが、今のような何もない状況ではコンパスを頼りに進むのが正解です。それが無ければ太陽や星の位置からどちらへ進むか決めるしかないですね。


 そんな感じで2時間ほど走っていると前方に陸地が見えてきました。約2か月ぶりの陸地です。もう二度と地を踏むことは無いと出港の時に覚悟していたのですが……少し感慨深いですね。

 しかし私が探しているのは陸地ではなく船が泊められるような港がある町です。と言うわけで他の船を探します。陸地へと近づいて行っている船の進路の先に港があるはずですから。

 私と同じような漁船、いやギフトシップがあれば良いのですがさすがにそれを期待するのは無理と言うもの。しばらく走りながら見つけたのは1隻のスクーナーでした。

 全長40メートルほどの船体に2本のマストを持ち、帆が長方形である横帆とは違い、台形型をした2枚の帆が風を受けています。

 この船の特徴としては操縦が容易で少ない人数での操船が可能であることと、逆風時に帆走性能が良く、高い角度で風に向かって走ることが出来ることですかね。まあ結局は船員の腕次第ではありますが。


 現在の風向きは陸から海へと向かう方向、つまり東向きに風速2メートルほどの風が吹いている訳ですが、あのスクーナーは北北西方向へと進んでいます。

 風に逆らう形で進むというのは労力を使いますし、陸地付近は海底が浅い箇所も多く、思わぬ岩礁などで船を損傷するリスクもあるので理由が無ければ陸に向かって走ることはありません。

 つまりあの船が向かう先に港があり、町がある可能性が高いということを示しているのです。


「まあそれ以外に現状手掛かりはありませんし、とりあえず行ってみましょうか」


 スクーナーにあまり近づかないように注意しながら同方向を目指して走り始めます。いくら帆走性能が良いと言っても今のような弱い風では船足が出るはずもありませんのですぐに引き離しましたが。

 しばらく進んでいくと同方向に進む船がちらほらと見えるようになり、また私の漁船と同じくらいの大きさの小型船舶も増えてきました。もちろん木造船ですが。

 しかしあの大きさの船が港から離れた遠洋まで出てくるとは思えませんのでそろそろでしょうか?


 そのまま走っていると陸地に町らしきものが見えてきました。高いビルのような建物は見当たりません。先のとがった白い塔が何本か突き出たものが一番高い建物のようですね。高さとしては20メートルほどでしょうか。他の建物の2倍以上の突出したその姿は非常に目立ちます。

 とは言ってもあまり町の様子ばかり見ている訳にもいきません。密集とまでは言いませんが周りには他の船が浮かんでおり、私の漁船を不思議そうに見つめています。こちらが運転をおろそかにすれば衝突する可能性がありますね。


 速度を落としゆっくりと近づいていけば港の手前は木造の小型船舶が多く停泊しており、奥の方に先ほどのスクーナーのような船が停まっていることがわかりました。ひときわ大きいのは3本のマストを持った横帆船のバークですね。80メートルほどあるでしょうか?

 それにしても船の大きさで分けているのか、地元の漁港とそれ以外の商港で分けているのか判断に迷いますね。とりあえず中間地点を目指して船を走らせます。


 水先案内人でも来てくれないかなと思っていたその時、バサッバサッと言う大型の鳥が羽ばたくような音と風圧を感じ背後へと視線を向けました。

 そこには白い翼を背中に生やした男性が立っていました。それだけであれば天使と勘違いしそうではあるのですが、灰色の短髪に筋肉質な肉体、そして薄緑色の半袖半ズボンと言うラフな格好がそれを台無しにしています。


「初めて見る船だ。ギフトシップか、珍しいな。ようこそルムッテロの町へ。私は案内人のフューザーと言う」

「これはご丁寧に。私はワタルと申します。船を止めますので少々お待ちください」


 言葉が通じることに内心ホッとしながら、付近に船がいないことを確認し船を止めます。まあ完全にいないわけではないのですが、よほど長時間気を抜かなければぶつかるようなことは無い距離が取れていますので問題は無いでしょう。


「お待たせしました」

「いや、大丈夫だ。ギフトシップを案内する機会などあまりないのでな、興味深く見させてもらった」


 フューザーさんが腕組みをしながら満足そうにうんうんとうなずきます。やはりギフトシップはそこまで多くないようですね。しかしこの程度の反応と言うことを考えればそこまで珍しいという訳でもなさそうです。


「そういえば案内人と言うことでしたがどうしたらよろしいですか?」

「おお、そうだった。身分証明の確認と積み荷の簡易検査だ。見せてもらえるか?」

「はい、どうぞ」


 こういった審査があることは事前に予想していたため慌てずに自分の財布から保険証を取り出します。任意継続していましたので会社に勤務していた時と同じ薄黄色の保険証のままです。少し懐かしいですね。


「何だ、これは?」

「私の故郷の身分証明ですね。これではまずいですか?」

「ああ。文字が読めんから何が書いてあるかもわからん。何か他にないのか? 商人ギルドのギルドカードとか?」

「いえ、故郷を出て初めてこの港に寄りましたのでそういったものは全く。私の故郷はここから西に位置する小さな島国ですので外との交流もありませんし」


 事前に考えていた設定をすらすらと答えます。保険証が通用しないことなど百も承知です。むしろ通用したら驚いてしまったでしょう。

 ここで必要なのは他国の人間であること、身分証明を提示したがそれが判断できないことをわからせることです。この提示したが判断できないというのが肝で、こちらとしては証明しようとしたという意思を示すことで敵対する意思はないと暗に知らせているのです。

 私の答えにフューザーさんは腕を組みながら難しい顔をしています。身分証明が出来ないために入港を断られる可能性はもちろんあります。その時は残念ながら別の港を探すしかないでしょう。無理やり入るなんて出来るはずがありませんしね。


「やはり寄港は無理でしょうか?」

「いや、身分証明のない他国の者というのはたまにいるのでな。手続きを取れば問題は無い」

「それを聞いて安心しました。ちなみに手続きとはどういったものでしょう」

「ああ、簡易な検査の後、仮身分証を発行するのでその有効期限内にこの町で身分証を発行すれば大丈夫だ。詳しくはその時の担当者に聞いてくれ」

「わかりました」


 少なくともすぐに追い出されるようなことはなさそうです。身分証は先ほど言われた商人ギルドと言う組織のギルドカードが望ましいでしょうね。一番最初に名前が挙がったということは、船乗りが持っている身分証明としてそれが一般的と言うことでしょうから。

 しかし商人ギルドですか。昔の日本で言うところの座のようなものでしょうかね。会員でない人が商売を禁止する感じの。それとも税務署のような税の徴収のための機関なのでしょうか。まあこの辺りは後で聞いてみましょう。


「じゃあ次は簡易検査だな。船内を見せてもらうがいいか?」

「はい。わからないものがあれば聞いてください」


 フューザーさんが操舵室の中や生け簀、物入れなどを見ていきます。これについては本当に簡易と言った感じで見て回るだけでした。まあ私もその辺りを考えて、武器に使えてしまいそうな物品やこの世界にそぐわないだろう機械は省きましたから当然と言えば当然なのですが、全く質問されなかったことが逆に不安でもあります。まあ簡易検査と言うくらいですから別の検査が後であるのかもしれません。


「特に問題は無いようだな。それでは奥の港へ向かってくれ。係の者が係留場所で待っているはずだ。私は先に戻っている」

「はい。わかりました」


 フューザーさんが羽をはばたかせてゆっくりと浮かび上がり、船の縁を蹴って港の方へと飛んでいくのを見送ります。あの体格であの羽の大きさでは飛べないと思うのですが、世界が違うので物理法則も違うのかもしれません。今まではそんな風に感じることは無かったのですが少し注意が必要ですね。

 それにしても……


「聞かれませんでしたね」


 そう呟きながら船を奥の港に向けてゆっくりと走らせます。フューザーさんがただ単に気づかなかったのか、それともあえて言わなかったのかどちらでしょうか?

 少しの不安を残しつつ、私は前方の桟橋の上で手を振っている人を目指して舵を切るのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【縦帆船】


縦帆船と言ってもイメージのわかない方がいそうですが、たまにテレビなどで流れるヨットレースなどの三角形の帆が付いている船と考えれば良いかと思います。

逆風時にその風に向かって走ることのできる角度が高く帆走性能にすぐれます。無理をしすぎれば帆が裏をうって失速するのは変わりませんが。


***


ブクマありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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