Flag141:懐かしい場所へ帰りましょう
その後結局同盟に関しては大きな進展もないままいったんユミリア国との協議を打ち切ることになりました。国内国外情勢を注視し同盟を視野に継続的に会談を続ける、という結論になったそうです。まあいわゆる先延ばしですね。予想通りです。
まあこのフォーレッドオーシャン号に関して手を出さないように通達は出していただけるそうですし、商売をすることに関してもしっかりと税などを納めるのであれば問題は無いという回答もいただけました。その点で見れば得るものはあったと言えるかもしれません。
セドナ国やドワーフ自治国のように契約まで持っていくことが出来ればベストだったのですがさすがにそこまでは難しかったようですね。粘ってくれたようですが。まあこの船の所有者がエリザさんではなく一般人の私と言うところがネックだったのかもしれません。
そしてついにこのバーランド大陸最後の国、フルー王国の主要港であるナウドロへと着いたわけですが会談の状況はユミリア国と似たり寄ったりでした。
一応このフルー王国は、ノルディ王国と隣り合っていてしかも同じ王国同士と言うこともあり比較的良好な関係を築いている国だそうですがやはりすぐに同盟を結ぶという事にはなりませんでした。
まあフルー王国には既にノルディ王国から外交官が来ており事前に協議を進めていたらしいのでエリザさんたちがしたのは伝えた情報が事実であるということの強調と顔繋ぎのようなことだけだったそうですが。
成果としてはこの船の所有に関する契約が出来たことですかね。まあこれも我々が到着する以前に話し合いが終わっていましたので私は内容の確認とサインをするだけで終わってしまいましたが。
1週間ほど歓待、休養、補給などで過ごしナウドロを後にして、南へと向けて出港します。そしておよそ2か月ぶりにルムッテロへと到着しました。私の故郷と言う訳ではないのですがやはり見慣れた白で統一された町の姿を見ると少しほっとします。
「エリザ様、またお会いしましょうね」
「はい」
「絶対ですよ。約束ですからね」
エリザさんに何度も念押ししながらアイリーン殿下が名残惜しそうに去って行かれました。帰って早々ですがすぐに王都に向けて出発するそうです。次にお会いするのは同盟の締結文書をセドナ国とドワーフ自治国へと渡しに行く時ですので少なくとも1か月以上は先になるでしょう。まあその時にアイリーン殿下が来るのかどうかはわかりませんが。
「いろいろあったが楽しい旅だった。またの機会があればよろしく頼む」
「はい。こちらこそ腕の良い船乗りの方と素晴らしい船と出会えて光栄でした。またの機会があれば是非」
マイアリーナ号の船長のエドモンドさんと握手を交わします。彼らの腕は今回の外遊でしっかりとわかりました。ベテランの船乗りであり、そして努力を惜しんでいない。さすが国に選ばれた船乗りと言えます。そんな人と知り合えたと言うことも今回の大きな成果の1つですね。
男臭い笑顔を残しマイアリーナ号もルムッテロから出港していきました。それを見送りそして我々も出港しキオック海へと向かいます。我々の姿を見たローレライの方々が飛び跳ねて歓迎してくれる姿を笑って眺めながらいつもの島付近へと到着しました。
「じゃあな、おっちゃん。とりあえず親父と母さんに報告してくる」
「ええ。お疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね」
「おう。まあ疲れてねえけどな」
ニカッと笑いアル君が後部デッキからそのまま海へと飛び込んでいきました。久しぶりの家族の団らんですし色々と話したいこともあるでしょう。嬉しそうに自分の見た景色や体験を話すアル君とそれを優しく見守りながら聞くガイストさんとリリアンナさんの姿が容易に想像できます。
この狭い海しか見たことが無かったアル君にとって今回の事は良い経験になったのでしょうね。人間についても色々と思うところがあったでしょうし。まあ思わぬトラブルもありましたけれど。
私も2人に今回の旅について報告しなければいけませんし、相談したいこともあるのですがまあそれは明日以降ですね。今日はゆっくりと家族だけの時間を過ごしていただきましょう。
そして再び船を動かし獣人の方々が住んでいる2つの島を巡ります。そして今後の計画のキーになる人物である元ランドル皇国の陸軍大将であるユリウスさんとその副官のトッドさんを船へとお招きしました。ユリウスさんは以前は坊主頭だったのですが今は伸びてきた赤い髪を後ろで乱雑に結んでいます。雄々しい日に焼けたその体躯の影響もあり海賊の様です。
そんなユリウスさんとトッドさんがエリザさんの前で膝をついて平伏します。
「殿下、良くご無事でお戻りに」
「ユリウス、トッド。楽にしてください。ただ今帰りました。貴方たちも留守の間お疲れ様でした。変わったことはありませんでしたか?」
「はい。何事も滞りなく」
「それは良かったです」
挨拶を交わした2人を連れて2階のリビングスペースへと案内し今回の外遊の顛末についてお茶と共にミウさんが説明していきます。セドナ国とドワーフ自治国との同盟はすぐにでも結べそうだと言うことに2人はかなり驚いていました。
「それにしてもドワーフ自治国ですか」
「そう言えばユリウスさんとトッドさんの所属していた第三方面軍はドワーフ自治国側でしたね」
「そうですね。殺し、殺された間柄ですので少し思うことがあります」
「ガハハハハ。あいつらは良い戦士だ。屈強で粘り強く、そして何より強い。酒も強いしな」
思うところのありそうなトッドさんに比べ、ユリウスさんは豪快に笑っています。兵士として敵対することと分けて相手を見ているのでしょう。確かにユリウスさんの性格から考えるとドワーフの方々の愚直さと言うか気風の良さは好まれるかもしれませんね。
説明を終えたミウさんが空になったカップにお茶を注いでいくのを待ちつつ私も話を始めます。
「先ほどのミウさんの説明でもありましたがおそらくランドル皇国との間の戦争は避けられません。と言うことで早急な対策が必要です。兵器もそうですしこの船に関してもそうですね。そこでお2人に頼みたいことがあるのですが」
「我々にか?」
「はい。今後の事を考えてドワーフ自治国、ユミリア国、フルー王国へ店舗を出したいと思います。トッドさんを含めて数人の方にそのお手伝いをお願いしたいと言うのが1つ」
指を一本立ててそう言い、トッドさんがうなずいたのを見て視線をユリウスさんへと移します。
「もう1つはこれは戦争のためではありませんが、店舗を出すに当たって獣人の方々の内希望する方をそれぞれの国へと送ろうと思います。その店舗を拠点として仕事の手伝いをしていただいたり、他に仕事を見つけても良いのですが。いつまでも島にいるわけにもいきませんしね」
「新たな生活の拠点を作ると言うことだな」
「はい。そして後からそこへやって来る者達のフォローが出来る体制を作っておきたいのです。ユリウスさんに鍛えていただいている獣人の方の数人は店舗で用心棒のようなことをやっていただきたいと思っています。新参者は嫌われる可能性が高いですしね」
「ふっ、いいだろう」
ユリウスさんが自信ありげに笑います。トッドさんのいる島にいる獣人の方々は比較的おとなしい方が多いのですが、ユリウスさんの島にいる方々は血の気が多いと言えばよいのか冒険者に雇われていたり、種族がら戦闘の経験が豊富な方が多くそんな方々をユリウスさんが鍛えているのです。訓練風景を見たことがありますがまさしく軍隊でしたね。
獣人の方々は普通の人間よりも身体能力に優れているはずなのですがそんな方々がへとへとになるような訓練を行っているのにも関わらず、それを一緒にこなしながらユリウスさんは平気な顔で激を飛ばしていましたからね。
そんな訓練のおかげもあってユリウスさんの島に住んでいる獣人の方々は非常に頑強です。身体能力で補っていた技量の不足も訓練の成果でしっかりとマスターしているようですし。これほど用心棒として心強い人はいません。
「あくまで希望する人だけですのでそこは注意してくださいね。それとこれが第一陣となりますので苦労はすると思います。そのことを忘れずに伝えたうえで募集してください」
「ああ、わかった」
「わかりました」
「よろしくお願いします」
2人に頭を下げ、とりあえず今日すべきことは終わりです。ではせっかくの機会ですし2人も誘って夕食といきましょうかね。さて何を作りましょうか。
役に立つかわからない海の知識コーナー
【ホレーショ・ネルソン】
イギリス海軍の英雄として名前が挙げられる中の筆頭とも言える伝説の人物です。
12歳の時に海に出て、18歳までに将校として任命され、そして20歳の時にはイギリス海軍最年少のキャプテンとなりました。
幾多の戦場で名を残し、それに伴い右目の視力や右腕を失いましたがそれでもキャプテンを続け1803年には地中海艦隊の指揮を任されるまでになりました。その2年後、トラファルガーの海戦においてマスケット銃を受け死亡しましたが国民的英雄として手厚く葬られたそうです。
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