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退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう  作者: ジルコ
第五章:新たな出会いと開発と
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Flag135:ドワーフ自治国と契約しましょう

 ドワーフ自治国との話し合いは順調に進みました。会談の場所が毎回フォーレッドオーシャン号だったのは映画の映像を見るのに都合が良かったという点もあるのですがテイラーさんの強い要望もあったようです。


 曰く、旨い酒が飲めるからとのことですが。


 まあドワーフの方にとってはビールなど本当に水のようなものらしく判断力が落ちたりすることもなく素面の状態と全く同じようでしたしね。むしろそこまで高くもないビールで話し合いがうまく進むのであればこちらにとっても好都合。最初は会談中にお酒を飲むということに戸惑っていた皆さんも次第に慣れていかれました。


 結果、到着から5日後、一週間足らずでセドナ国とほぼ同様の契約を結ぶことに成功しました。その中にはフォーレッドオーシャン号の所有権に関する契約も含まれています。

 まあこの所有権の契約に関しては「この国に人のギフトシップを盗む、というよりそもそも海に出ようとする奴などほとんどおらんと思うがな」というテイラーさんの言葉と共に最低1年以上の定期的な酒の販売を条件に許可していただけました。酒の販売に関しては適正価格でということでしたので私にとってはむしろ願ったり叶ったりでしたしね。


 しかしそのテイラーさんの言葉からわかるようにドワーフの方が海に出ることは本当に希なようです。その原因は簡単でドワーフの方が水に沈んでしまうからだそうです。確かに見かけるドワーフの方々は男性も女性も小柄で筋肉質な体をしていらっしゃいましたので水には浮かないかもしれません。

 彼らにとって海に浮かぶ船の上というのは死を感じさせる場所と言えるのかもしれません。海好きな私としては非常に残念ではありますがね。


 現在契約の最終確認が行われておりドワーフ自治国代表であるテイラーさんがサインを同盟の締結書面2通へと記入しました。後はこれをノルディ王国へと持ち帰り王様のサインを記入して1通をドワーフ自治国へと渡せば完了です。

 本当にあっという間でしたね。セドナ国で待機していた時間がなまじ長かったために余計にそう感じるのかもしれませんが。


 これでドワーフ自治国ですべきことは終わってしまいました。毎日会談をしていたせいもありほとんど町を見て回ることも出来ませんでしたね。非常に特色のある町のようでしたので是非見て回ってみたかったのですが。まあ今後1年間は定期的に酒の販売にくる必要があるのですから機会は巡ってくるでしょう。

 そう考えを切り替え用意しておいた赤ワインをグラスへと注いでいきます。これでここでの会談も終わりですからね。最後に皆さんで飲み交わしていただきましょう。ドワーフ自治国らしくて良いと思いますし。

 私の考えがわかったのか参加者の方々も笑いながらグラスを受け取ってくださいました。そして皆さんにグラスが行きわたり視線の集まったエリザさんが立ち上がろうとしたところで突然船が動き始めました。


「すみません。なにか起きたようです。状況を確認してきますので少々お待ちください」


 そう言い残して急ぎ足で操舵室へと向かいます。緊急事態であれば獣人の方が来るはずですので今回の動きはそこまで緊急性は高くないはずです。事前に決めておいたケースのうちのどれかに引っかかったというところでしょうかね。


「どうしましたか?」


 操舵室のドアを開け、舵を取っているアルくんへと問いかけます。一緒にいたはずの獣人護衛の方がいらっしゃらないところを見ると打ち合わせ通り係留ロープを切った後そのまま警戒へと向かっているのでしょう。


「おう。おっちゃんが指定した範囲に人が入り込んだから逃げたぞ。ほらっ、そこ」


 アル君が指し示す【環境把握】の立体映像を確認すると私たちが停泊していた岸壁の辺りに白い光点がぽつんと1つありました。その周囲にはマイアリーナ号に搭乗している人の光点以外は全くありません。マイアリーナ号の光点の数は変わっていませんので岸壁にある光点は不審者ということになりますね。


 今回話し合いをこのフォーレッドオーシャン号で行うにあたりいくつかの条件をドワーフ自治国側に要求したのですがその内の1つが会談中の船から150メートル以内への進入禁止でした。

 私たちの船が停泊している岸壁はギフトシップ専用らしく周囲に他の船がなかったためにそんな無茶な要求が通ったのですがまさか本当に不審者が近づいてくるとは……確率は低いとはいえ備えておいて良かったですね。警備もしているという話でしたし実際にそのような様子だったのですが。

 港からは十分に離れていますし魔法と物理に対する結界の魔道具も起動済みです。とりあえず問題はなさそうですね。船内マイクを持ちます。


「状況を確認しました。港に不審者が近づいたため緊急で船を動かしたそうです。現状安全は確保出来ていますのでご安心ください」


 そう伝えてマイクを置き、ふぅと溜息を吐きます。最後まであっさりと終わってくれれば良かったのですがね。


「とりあえずここで待機しておいてください。船に衝撃などがあれば私の指示を待たずに沖へと逃げること。何かあれば私か伝令役の獣人の方が来ますので」

「わかった。まあ何だ。頑張れよ、おっちゃん」

「ははっ、そうですね」


 アル君の同情するような目に苦笑いで応え操舵室を後にします。皆さんの待つ2階のリビングスペースへと戻る途中で窓の外からちらりと港の方へと視線を向けます。岸壁には確かに人が立っているようですが小さすぎて男性か女性かさえわかりません。とりあえず後で双眼鏡を使って確認してみましょう。


「ただ今戻りました」


 リビングスペースへと戻ると船内放送の効果もあってか皆さん落ち着かれているようでした。まあテイラーさんなどは苦虫を噛み潰したような顔をしていらっしゃいますが。


「状況はどうかね?」

「現状は船内放送の通りですね。今から確認に向かいますがテイラーさんかマルコさんも来ていただけますか? お知り合いの可能性もありますし」


 キュレーヌ伯の言葉に追加情報がないことを伝え、そしてドワーフのお二方へとそう提案します。何か緊急事態が起きて呼びに来たという可能性もありますしね。一応その場合の方法も事前に詰めておいたのですが忘れる程の事態だったのかもしれませんし。


「わかった。儂が行こう」


 手を挙げようとしたマルコさんを制しテイラーさんが立候補しました。手に持ったワインをぐいっと飲み干し椅子から立ち上がりました。まあまあ高級なワインだったのですが仕方がありませんか。


 テイラーさんと護衛の獣人の方2人を引き連れ4階のスカイデッキへと向かいそこに設置されている椅子の収納から双眼鏡を取り出します。肉眼で人がいるとわかる程度の距離ですしこれで顔もはっきりと分かるでしょう。

 まず私が双眼鏡を覗き岸壁に立つ人を確認します。予想通りしっかりとその顔まで確認することが出来ます。

 立っているのはドワーフの女性です。ドワーフの方に会った経験が少ないので自信はありませんがまだ若く20代中盤にも届いていないのではないかと思われます。じっとこの船を睨みつけるように見ているので視線があっているように勘違いしそうです。


「どうぞ。ドワーフの女性でしたよ」

「ああ」


 そう伝えてテイラーさんに双眼鏡を渡すと少し渡された双眼鏡を物珍しそうに眺めたあと思い出したように覗き込み視線を動かしていきます。そして岸壁に立つ女性ドワーフを見つけたと思われる瞬間、テイラーさんが全員に聞こえるほどの大きな溜息を吐き双眼鏡から目を離しました。


「あの、バカもんが」

「ええっと……」

「すまんが港へと戻してくれ。あいつは安全だ。少なくともこの船やこの船に乗る人に危害を加えるような奴じゃない。騒がしてすまなかった」


 私に双眼鏡を返しテイラーさんが頭を下げます。その謝罪を受けつつもその答えだけで港へと船を戻すという判断が出来かねた私は頭を上げたテイラーさんに聞きました。


「結局あの方はどなたでどんな目的で港まで来たのですか?」

「……」


 しばしの沈黙の後、再びテイラーさんが大きなため息をつきました。


「あれは儂の孫だ。ドワーフなのに船を研究しておる変わり者のな」

役に立つかわからない海の知識コーナー


【フォイト・シュナイダープロペラ】


回転する円形のディスクにいくつかの翼がつけられておりその翼が可変することで推力を出す特殊なプロペラです。ちなみに名前は製造会社と発明者の名前から付けられています。

推進力の方向を変えるのが容易で素早くできるため細かい動きが必要なタグボートなどに使用されることがあったのですが効率が非常に悪いため近年ではあまり使用されていないプロペラになります。


***


お読みいただきありがとうございます。


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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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