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Flag131:ミウさんと話しましょう

 昼食後エリザさんたちに改めて謝罪をし、別れていた間の状況の共有と今後の予定について話し合いました。セドナ国の上層部への説得はロイドナールさんが主導で行ったので私たちはそれを補助しただけとは言われましたがそれをそのまま鵜呑みにするほど若くはありません。改めて感謝は伝えさせていただきました。


 子供たちについて私が抱いていた懸念も伝えさせていただきましたが3人ともそこまで心配はしていないようでした。

 まあ「船を案内してやるよ」と言って子供たちが自主的にノシュフォードさんを連れて船内の見学ツアーに向かったところを見ればそうかもしれないと私も思うのですが……。一応は注意しておくという事で決着がつきました。トラウマになっていないのであればそれが一番ですしね。


 話し合う事は中々多く、結局夕食のころまで話し続けました。そのおかげもあり今後の方針についてもある程度は固まってきました。皆が戻ってきたことによって【快適空間】の機能についてもいくつかわかったこともありましたしね。そしてひょんなことから思わぬ落とし穴にも気づきましたがまあ対策のしようがないわけではありませんのでどうにかなるでしょう。


 やはり皆どこかしら疲れているようで夕食後はいつもより早く自室へと皆が戻っていきました。夜間警備の担当の獣人の方は昼の間に仮眠していたそうで気合を入れながら船の警備に向かって行かれました。そんな彼らに感謝を伝え、私も操舵室で航海日誌を書き自室へと戻ります。

 シャワーを浴びて寝てしまおうかという考えが浮かばなかった訳ではありませんが、予感に従い椅子に座って本を読みながらただ時間が経過するのを待ちます。集中できていないので本の内容はほとんど頭には入っていません。

 そうして過ごすこと1時間ほどでしょうか。部屋のドアがコンコンコンと3回ノックされました。


「ミウです。今お時間よろしいでしょうか?」

「ええ、少々お待ちください」


 読みかけの本を机へと置き、ミウさんを迎えに行きます。ドアを開けると少し顔を赤らめたミウさんがおり、その姿に一瞬思考が止まりかけます。ミウさんの服はいつものメイド服ではなくゆったりとしたベージュのワンピースタイプのネグリジェだったからです。

 オットーさんに作っていただいたくつろぎ用もしくは寝巻用のものですので用途としては間違ってはいないのですがミウさんが着ているところは初めて見ました。いつものパリッとした印象が薄れ、頬を赤く染めているその姿はどこか隙があって月並みな言葉しか浮かんできませんがとても可愛らしく見えます。

 このまま見続けていたいと言う欲望を抑え、なんとか笑顔で迎えます。


「お待ちしていました。ネグリジェ、よくお似合いですよ」

「ええっと、ありがとうございます」


 さらに顔を赤くするミウさんに目を奪われそうになりながらもソファーへと案内します。ミウさんが持ってきたティーセットから2人分のお茶を用意し、隣り合わせでそこへと座ります。

 しばらく言葉は無く、ミウさんの入れた紅茶をたまに口に含みながらゆったりとした時間を過ごします。お互いに言いたいこと、言うべきことがあるということはわかっていました。しかしただ横に座りこうして過ごしているだけで伝わって来るものがありました。そして自分自身の気持ちを改めて認識します。無言ですが苦痛ではなく心地よい。それが答えなのでしょう。


「「あの」」


 声と視線が重なりました。お互いにじっと相手を見つめ、そして笑います。それだけで相手の言いたいことはお互いにわかったのでしょうが言葉にすべきことです。視線でやりとりし、順番を譲られましたので口を開きます。


「今回のことがあって改めて思い知りました。私はミウさんが好きです。直接の被害にあった子供たちや獣人の方々のことを考えるようにはしていたのですがそれでもいつも頭の中にはミウさんのことが気にかかっていました。命の危機とも言える状況を経験したせいかもしれませんが、私は純粋にあなたが欲しい。あなたと離れたくないとそう思ったのです」


 ミウさんが来ることは予想していました。だからこそ事前に伝えるべきことを考えていたはずなのですがそんなことはどこかへと消えて行ってしまっていました。私の口から出たのは飾り気など全くない、ただの私の気持ちです。状況、立場など諸々のことを考えれば叶うはずのないただの願望です。十分にそんなことは知っていると言うのに。

 そんな私の言葉をミウさんはただ黙ってうなずいて聞いてくれました。そしてミウさんの綺麗な唇が開きます。


「私も……私もワタルさんが人質に取られていると聞いて何も考えられなくなってしまったんです。一応どんな状況にあっても冷静な判断が下せるように教えを受けたんですけれどね。ワタルさんが死んでしまうかもしれない、そんな考えでいっぱいになってしまって泣くことしか出来ませんでした」


 ミウさんの目から涙が溢れ出てきてその顔を下へと向けました。自分の膝に置かれたその手は震えており、思わずその手をぎゅっと握ります。そして手の上に一滴の涙が零れ落ちてきました。

 下を向いたミウさんがゆっくりと顔を上げます。涙を流しながら懸命に笑おうとしているその姿に胸が熱くなりその華奢な体を抱きしめます。早鐘のようにうつ心臓の鼓動を感じましたがそれが私の物なのかミウさんのものなのかさえ判断が出来ません。

 耳元で聞こえていたミウさんの息遣いが落ち着き始め、そして囁くような声で言葉が発せられます。


「エリザベート殿下にメイドをやめるようにと言われました」

「それはもしかして……」

「はい。私が自由に自分の思いを貫けるようにという殿下のお気持ちでしょう。メイドという立場が枷になっているとお考えになられて……」


 ゆったりとした仕草でミウさんが体を離していきます。そして私へとハンカチを差し出してきました。いつの間にか私の目からも涙が溢れていたようです。受け取ったハンカチ涙を拭い、自分のハンカチをミウさんへと差し出しミウさんが同様に涙を拭うのを待ちます。

 そして見つめあいそしてゆっくりと顔を近づけていき口づけを交わします。


「あなたが欲しい。あなたを独占したい。私はその程度の狭量な男かもしれません。それでもあなたのことをこの世で一番愛して見せます。だからミウさん、結婚してください」

「はい、ワタルさん。私も愛しています。あなたのことを私に刻み付けてください。もう2度と離れないように」


 再び口づけを交わし最愛の人を連れゆっくりとベッドへと向かいます。ゆったりと風に揺れる船の揺れの中、私たちは結ばれたのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【EDDI】


環境問題が取りざたされるようになりその影響は船にもありました。そのうちの1つがこのEDDIです。

貨物1トンを1マイル動かすのに必要な二酸化炭素排出量を示す指標であり、カタログ燃費に相当する物で船は基本的に一品生産になるので船ごとに異なる数値になります。水槽試験や海上試運転の結果を元に船級協会などが認定しています。

現在は国際航海する商船のみに適用されていますがいずれはすべての船に導入されることになると思われますので船を購入する際には気をつけてみてはどうでしょうか?


***


お読みいただきありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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