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Flag129:お詫びの料理を作りましょう

 私の予想よりもはるかに早くプレゼンの3日後に再度の会談が行われました。出席者の方々は前と同じメンバーでしたがその表情には明らかな疲れが見えていましたのでかなり無理をしたのでしょう。最低でも1週間程度はかかるだろうと予想していたのですがね。


 結論としては私の提案がほぼ採用され同盟を結びこのフォーレッドオーシャン号の映像を参考に対策を練っていくこと、そしてランドル皇国への調査を厚くすることなどが確認されました。

 このことを受けて私は協力する見返りとしてノルディ王国と同様のこの船に対する不可侵の契約をセドナ国とも結ぶとともに船の防衛用の魔道具を購入する権利を手に入れることが出来ました。成果としては上々ですね。


 しかし全てが思い通りに進んだと言う訳ではありません。私の予想外のこともしっかりとありました。それはノシュフォードさんの今後についてです。

 私の主張が認められずに死刑になったと言う訳ではありませんが……


「私の奴隷ですか……」

「そうじゃ。奴隷契約としては先にお主が言った50年を想定しておる」

「はぁ」


 生返事を返しながら考えをめぐらせます。おそらく国外追放と私への賠償を含めた処断だと思われますがはっきり言ってしまえば面倒事を押し付けられた印象しかありません。とは言えここで断ることは難しいですね。ノシュフォードさんの減刑を言い出したのは私ですし、セドナ国からしても私のせいで厄介ごとが増えたとも言えるのですから。


 考え方を変えましょう。ノシュフォードさんは魔道具屋をしていた実績があるはずです。ということは魔道具の作成を行うことが出来るはず。それは非常に有用な技能です。島にいる獣人たちに教えても良いですし、教えるのが難しかったとしても島の魔道具のメンテナンスや新たな魔道具の作成を自力で行うことが出来るようになるのですからね。その他にも色々と有用な技能ですしね。


 問題としては島まで向かう間この船に乗ることになれば必然的に子供たちと接する機会が出来てしまうと言うことですが、子供たちの様子を見て何か拒否反応やトラウマが刺激されるような様子があればこの外遊が終わった後で迎えに来るということにすれば良いでしょう。少なくともしばらくはセドナ国へ留まる必要がありますからその間に確かめるしかないですね。


 細かいことはまだまだありましたが大方そのような形で2回目の会談は終わり、明日に私が望んだ契約書を持ってきた段階で港へと戻ることが決定しました。結局用意した資料は日の目を見ることはありませんでしたが映像に関してはどの場面にどのような物が映っていたか把握できましたし全くの無駄と言う訳ではありません。この資料を基にセドナ国からくる方々に映画を見せれば良いのですからね。


 というわけでとりあえず今回のごたごた関係の後始末は終わりです。……いえ、最大の問題が残っていましたね。明日に戻ると言うことは子供たちに振る舞う料理を仕込み始める必要があると言うことです。最大の謝意を伝えるための特別な料理を。

 とは言え私は料理の専門家と言う訳ではありませんし自分が作ることのできるレパートリーも限られています。と言う訳で積まれていた料理の本を参考に料理を決めました。


 私が作ろうと決めた料理。それはビーフシチューです。

 この船にはカレー粉はあるので簡単にカレーは作ることが出来るのですがビーフシチュー用のデミグラスソースや固形の素のようなものはありません。ですのでビーフシチューはまだ作ったことが無いのですよね。同じような料理はありませんでしたし、カレーは子供たちの大好物ですからビーフシチューが外れることは無いでしょう。


 本を参考に材料を用意し、いよいよ調理の開始です。

 まずは味の決め手とも言えるデミグラスソースから。ケチャップ、ウスターソース、赤ワインをそれぞれ大さじ18杯をボールに入れ軽くかき混ぜておきます。そして大きめのフライパンに中火にかけ、バター120グラムを入れて溶かしていきます。うーん、やはりこのバターが溶けていく匂いと言うのは何とも食欲をそそる匂いですね。

 そこに薄力粉大さじ12杯を入れてダマが出来ないように混ぜた後、時折熱が均等に通るように混ぜながらバターの色が変わっていくのを待ちます。白に近かったバターがゆっくりとその色を橙へと変えていきます。


「ふむ、茶色くなり過ぎないのがポイントですか。この辺りでしょうかね」


 一応作り方の写真に載っているのとほぼ同じ色になったところで火を止め、そこに水900ccとコンソメを小さじ6杯入れて混ぜ、そこに最初に用意したケチャップなどの調味料類を加えます。そして再びフライパンを強火にかけ焦げ付かないように木べらで良くかき混ぜていきます。

 フライパンの中のソースがゆっくりと色を赤黒く変化させながら、とろみをつけていきます。そして木べらを動かした後がわかるようになったぐらいの所で砕いておいたチョコレートを少々投入します。隠し味と言うやつですね。


「さてお味は……」


 スプーンでお手製のデミグラスソースをすくい口へと運びます。ケチャップやウスターソース、そして赤ワインの野菜や果物類の味が程よくブレンドされ、それがバターによってコクがつき、コンソメと最後に投入したチョコレートによるものか後引く旨みを口の中へと残していきます。

 デミグラスソースは牛の筋肉や骨、数種類の野菜にトマトを煮込むと言う話を聞いたことがありましたのでこの作り方で良いのか少々不安でしたがこれなら文句はありません。作り方も比較的お手軽でしたしハンバーグなどにかけても美味しいでしょうね。また作ってみましょう。


 デミグラスソースの作成が終わったので次はいよいよビーフシチュー作りに取り掛かります。

 使う肉の部位はもちろん牛のすね肉です。シチューと言えばすね肉とは言い過ぎかもしれませんがまあ定番の肉ではありますね。1.5センチ角程度に切ったすね肉をバターを引いたフライパンに乗せゆっくりと弱火で加熱していきます。

 ここでのポイントは最初から強火で加熱しないことですね。強火で加熱すれば簡単に焼き目はつきますが細胞が収縮して肉が硬くなってしまいますから。ゆっくりと焦らず徐々に火を強くして温度を上げていき焼き目がついたら一旦フライパンから降ろしてアルミホイルでおおって肉を休ませます。


 たっぷりの水を入れて火を入れておいた深鍋に小玉のじゃがいも、玉ねぎを4分の1の大きさにカットしたもの、そしてブロッコリーをそこに投入します。ビーフシチューと言えばマッシュルームという気もするのですが子供たちに受けるかわかりませんので今回はやめておきましょう。好き嫌いが分かれますからね、あれは。


 ゆっくりと弱火で1時間ほど煮込みながら丁寧にアクを取ります。そして休ませておいた牛すね肉を投入し再び1時間ほど煮込みながらアクを取り続けます。火を強めることはしません。せっかくの肉が硬くなってしまいますしね。

 しかしアク取りをしていると何というか集中してしまいますね。少しのアクも見逃さないようについつい鍋をじっと見続けてしまいます。


 アクも出てこなくなりすっきりとしたスープが残ったところで作っておいたデミグラスソースを鍋に投入します。その瞬間デミグラスソースの何とも言えない良い匂いが広がり、それに加えて見た目もビーフシチューらしくなりました。まあここから2時間ほどこのまま煮込むのですがね。


 ときおりゆっくりと鍋をかき回しながら弱火で煮込むこと2時間。じゃがいもはスプーンで割れるほど柔らかくなり、肉も口の中でほろほろと解けるほどになりました。旨みもしっかり残っていますしこれは成功ですね。

 あとはこの状態で一晩寝かせておけば味もしみこんで美味しくなるでしょう。


「ではあともう1回ですか。成功しましたから同じ方法で良いでしょう。さて頑張りましょうかね……んっ?」


 調理器具の大きさの関係上、全員分を一気に作ることは不可能でしたので2回に分ける予定でした。1回目に失敗しても修正可能ですしね。私の予想以上に会談が早かったため練習が出来ずにぶっつけ本番になってしまいましたから。

 2回目に取り掛かろうかとした私の視線の先に深刻な顔をしたノシュフォードさんが立っていました。時計を見ると午後7時を回っています。集中しすぎたようですね。


「すみません。晩御飯を忘れていました。ビーフシチューを作りましたので食べますか? 完成品ではありませんがなかなかの味ですよ」

「いや、そうではない。明日の……謝罪についてだ」

「そうでしたか。では聞きましょう」


 料理の手を止めギャレーの外のリビングスペースへと促し、ノシュフォードさんの話を聞きます。真剣な表情で話す彼の姿はどのようにすべきが悩み続けたこの数日間が凝縮されているようでした。

 その話の中でエルフの方に関する興味深いことや習慣もわかりました。この方法ならば謝意も伝わるでしょう。まあ子供たちが会ってくれればと言う前提があってのものですが。


「良い考えだと思います。しかしいきなりと言うのは驚いてしまうかもしれませんので少し提案があるのですが。私の国の伝統でもある方法なのですがね……」


 私が伝えたそのことにノシュフォードさんは驚いていましたがそれで気がすむならと了承していただけました。

 さていよいよ本番は明日です。うまくいくと良いのですがね。その前に食事と再びビーフシチューを作らなくてはいけませんが……そうですね。ノシュフォードさんに手伝っていただきましょう。

 そんな風に私は明日へと思いをはせるのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【デリック・クレーン】


大型船とは切っても切り離せないものと言えばクレーンですが19世紀に蒸気機関が実用化されウインチが動力化され荷役のスピードが飛躍的にアップしました。

このころ使用されていた荷役装置をデリック・クレーンと言います。構造が非常に単純で設置コストが安い反面、準備に人手がかかるために現在ではほとんど使用されていません。

ちなみにクレーンは形がクレインに似ていることから名づけられましたがデリックは何かと言うと……ええっとまあ吊るという言葉から連想される行為に関係しています。興味がある方はお調べください。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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