Flag128:今後の計画を練りましょう
日が明けて翌日、ぐっすりと眠ったことで頭痛もしなくなりました。「環境把握」がかなり有用な機能であることもわかりましたし、アル君についてはある程度の気持ちの整理がついていそうなこともわかりましたので少し気持ちが楽ですね。
と言うことで目下の懸案はハイ君とホアちゃんへの対応となるわけですが2人に関してはなかなか難しいものがあります。もちろん同じ船に乗る大切な仲間ですしそれなりに仲良くはさせてもらっていますが、私自身2人に関しては一線を引いているのですよね。
もちろん2人が嫌いと言う訳ではありません。私が一線を引く理由、それは2人の実の父親であるマインさんの存在があるからです。
私自身家族と言うものに縁の薄い人生を歩んできたせいか3人の仲睦まじい姿を見ていると私がそこに入り込んでしまってよいものかどうか迷ってしまうのです。父親を差し置いて仲良くしてしまっていいのかと思ったり……こんなことは口が裂けても本人たちには言えませんけれどね。
しかしアル君も仲の良い家族ではあるのですがそういった感情は起こらないのですよね。個性と言えばよいのか家族の違いと言うべきなのか……うーん、経験が足りませんね。
しかし逆にいえばハイ君とホアちゃんに関しては保護者であるマインさんがそばにいるのです。精神的なケアは私よりもマインさんがする方が良いでしょうから私はマインさんに相談しつつ補助的に動くべきでしょう。
慎重に経過は観察し続けるとしても、そう考えると今はそこまで深刻に考えなくても良いような気もしてきますがさすがに何もしないというのは申し訳ないですね。危機にさらし、さらには心配をかけてしまったことは事実なのですからお詫びはしないといけませんね。
しかし子供たちの好きなもの、と考えると食事一択になってしまいます。特別な料理でおもてなしというのが落としどころかもしれませんね。時間はありますし何を作りましょうか。普段は作れない手間のかかる料理なんかが良いでしょうかね?
そんな風に用意する食事のメニューを頭の片隅で考えつつも次回の会談に向けての資料を作成していきます。プレゼンの手ごたえからして私の想定通りに進むとは思いますがそれはあくまでプレゼンに出席した参加者だけであればと言う話です。セドナ国には参加していない上層部の方が多くいるでしょうし、一応ノルディ王国側はアイリーン殿下もいらっしゃいますしね。まあエリザさんが賛成しているのにアイリーン殿下が逆らうとは思えませんが。
ビデオを編集したりしながらおよそ1日かけて次回の会談用の資料を用意し終えました。返答次第では日の目を見ることのない資料ではありますが仕事と言うのは得てしてそういういうものですしね。
むしろ十分な準備を行って臨んだことの方があっさりと終わってしまって、逆に大丈夫だろうと高をくくったことの方が面倒な状況になってしまうことが多い気もします。思うように事は進まないと言った所でしょうか。
印刷した資料をまとめ、パソコンの電源を落とします。
昼食や夕食と言った休憩を挟みつつではありますがほとんど1日中パソコンの前に座りっぱなしと言うのは疲れますね。昔はそれが当たり前だったのですがこちらに来てからはとんと使っていませんでしたから。
私が資料を作るのに話を聞いたりするために付き合ってくれていたノシュフォードさんも既に自分の部屋として使っている乗務員用の狭い部屋へと戻って行ってしまいました。獣人の方々が交代で使っている部屋ですが大した荷物もありませんので問題はないでしょう。
「んんー」
凝り固まった体をほぐすようにして背筋を伸ばします。
とりあえずすぐにやっておくべきことを終わらすことが出来ました。これで明日からはこの船の新機能に関する調査や今後のこの船の展望について計画を練ることが出来そうです。
【環境把握】については昨日ある程度判明していますがそれでも調べるべきことは多いですしね。3色の光点が何を示しているのか? 生き物を光点が表しているとしてどの程度の大きさを光点として扱うのか? 実際に表示されている最大の距離は何キロなのか? その他にも細々とした検証を挙げればきりがなくなってしまいそうです。
しかしもう一つの【快適空間】については少々難航しそうなのですよね。
と言うのも基本的にこのフォーレッドオーシャン号はそもそも快適な空間なのです。今日1日過ごしてみましたが特に気になるようなことはありませんでしたし、ノシュフォードさんについてはそもそもこの船に乗ったばかりですから参考になりません。こちらはむしろしばらくこの船を離れていたエリザさんやミウさんに聞いた方が良いかもしれませんね。
当面は【環境把握】を調査しつつ何か船について違和感がないか確かめていくと言う方針で良いでしょう。
と言う訳で現状索敵と言う面ではかなり有能な機能を手に入れたフォーレッドオーシャン号ですが決定的な弱点が残っています。本来ならこの船には似つかわしくないものですが今後の展開次第では最重要になってくるもの。それはこの船を防衛するための装備です。
現状このフォーレッドオーシャン号を守ると言う意味で装備されているのは昔ローレライの方々を捕まえに来て私が座礁させたウェストス海運商会の船から確保した魔法を防ぐ障壁を張る魔道具と音を防ぐ障壁を張る魔道具の2つだけです。攻撃に関する物は全く載っていないのです。
もちろん座礁した船には大砲が積載されていましたからそれをフォーレッドオーシャン号に運び込めば撃つことも可能ですが、固定もされていないというよりそもそも大砲を撃つことを想定してフォーレッドオーシャン号は作られていません。それなりに反動のある大砲を運び込むのは困難です。使い勝手も悪いですし火薬や玉の保管なども面倒この上ないですからね。危険も大きいですし。
そんな理由もあり私が狙っていたのは魔道具による武器や防御用の装備だったわけですがこれは早々に困難だとわかりました。基本的に町の魔道具屋に置いてあったのは生活に関する魔道具ばかりでした。武器に応用できそうなものはありましたが実際に戦闘用として使うことを前提として作られたようなものはありませんでした。
ルムッテロの町のアイシャさんに世間話のついでにそれとなく聞いてみましたが禁止されている訳ではなく需要がないため作っていないそうでした。魔法を使える人も少なくないそうですからね。道具と魔石が必要なので場所を取るし使い勝手が悪いのだろうとその時は納得したのですがセドナ国と魔道具屋の関係を知った今となっては裏を読んでしまいます。
武器ではなく防衛用の結界を張るような魔道具に関しては注文すれば作ってくれると言うことだったのですが制作に時間がかかると言うことと何よりそう言った大型の魔道具を購入する場合は搭載する船の登録が必要だったので諦めていたのです。さすがに漁船サイズでは小さすぎますしね。
今回セドナ国との交渉がまとまれば魔道具作りの国と言っても過言ではないこの国でそういった装備を購入することが可能かもしれません。さらにフォーレッドオーシャン号にある映像を見せるのですから従来のものよりはるかに良い性能のものが出来る可能性もあります。
次回の交渉時にその辺りについて申し入れてみましょう。
そこまで考えて部屋から外へ出て操舵室へと航海日誌を書くために向かいます。まあ今日1日は全く船を動かしてはいませんけれどね。そんなことを考えつつ足元から照らすライトの光の中を進んでいきます。
「んっ?」
少々違和感を覚え辺りを見回しましたがアル君が来ていることも無さそうです。そのまま操舵室へと入り出入口の照明のスイッチを探そうと手を動かした瞬間に操舵室の照明が一斉に点灯しました。まるで私の動きを察知したかのように。
「あぁ、そういうことですか。なるほど、なるほど」
先ほどの違和感の正体は点けた覚えのない足元のライトが点いていたからでした。そして今の操舵室に入った時の自動的に照明がつくと言う動き。これはナビが消えて機能が停止していた人感センサーを利用したサポート機能が復活したと言うことでしょう。
【快適空間】の機能がこれだけとは限りませんがその一部であることは確かです。と言うことはもしかして……
「ナビ、聞こえていますか?」
「……」
「こちらはまだ復活していませんか」
もしやとも思ったのですがね。確かに慣れてきてしまってはいましたが便利な機能が復活したのは確かです。燃料の節約にもなりますしね。
そんなことを考えながら私は歩を進め棚の航海日誌へと手を伸ばすのでした。
役に立つかわからない海の知識コーナー
【日の出スポット】
お正月の投稿ですので少し変わったところで。
初日の出を見るために山へ登ったり海へ行くという方もいらっしゃるかと思います。そんなあなたにおすすめの隠れスポットとして知っていただきたいのは漁港です。
正月、漁港に停泊した船には大漁旗が掲げられており、昇る朝日を背景に、その大漁旗たちが色鮮やかにはためいてる光景は一見の価値ありです。
但し、関係者以外侵入禁止だったり旗が掲げられるのが旧正月だったりしますし、もちろん関係者の方に迷惑のかからないようにする必要がありますのでご注意ください。
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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。




