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Flag123:鉄砲の危険性を認識させましょう

 98インチの巨大な壁かけの液晶画面に映るのは馬を駆る鎧武者たちの突撃。その一団に向けて火縄銃を構えた兵士たちが一斉にそれを放ちそれを受けた勇猛な鎧武者たちが崩れ落ちていくと言う映画のワンシーンです。いわゆる長篠の戦いですね。

 そして画面が切り替わり次に流れたのは有名な海賊の映画のワンシーン。手に持った小型の銃を放ちながら敵から逃げていく場面です。主人公の銃のアップになったところで一時停止させます。


「あっ」


 誰かから残念そうな声が上がりましたが今は映画の鑑賞会ではありませんからね。その声は聞こえなかったことにしておきます。


「ワタルさん、これは?」

「そういえばエリザベート殿下も見たことがありませんでしたね。簡単に言えば見たものを記録しそれを映すことが出来るものだと考えてください。この船の装備の1つです。まあそれは置いておいて注目していただきたいのはこちらの武器の方です」


 画面にアップで表示されたままの銃を指さします。

 黒髭ことエドワード・ティーチが使用したとも言われるフリントロック式の拳銃です。そのイメージが大きいからか海賊が使う銃と言うとこの銃をイメージすることが多いような気がします。まあ現代の海賊はロケットランチャーなどを装備していますがね。

 おっと思考がそれました。


「ロイドナールさんが知っている鉄砲はこういったものではありませんか?」

「確かにそうじゃな。わが国でも魔道具として同じような性能の物を試作したはずじゃから保管庫に残っているとは思うが……」


 ロイドナールさんが顎を撫でながら記憶を辿るように視線を斜め上に向けています。

 確かにこの国は魔道具の研究が盛んですからね。情報の収集方法もあるようですし、新型の武器が発明されればその対抗手段とそれと同様のことが魔道具で出来るのかを確かめるのは不思議ではありません。


「ちなみに対抗手段というのはどういったものなのでしょうか?」

「矢除けの守りとほぼ同じじゃな。不意打ちでの攻撃を自動で防いでくれる防壁を張る魔道具じゃ。まあ剣などで直接攻撃されると防ぎきれんがのぅ。その鉄砲は威力もそこまでではないし、そもそも遠距離から当たることがまれじゃ。気付いたのちは自分たちで障壁を張ればよいのじゃしな」


 ロイドナールさんが自分の右腕につけられた茶色の水晶のようなものがはまったブレスレットをこちらに差し出してきました。あれが矢除けの守りなのでしょう。

 そこまで威力のある攻撃は防げないとしても自動で不意打ちを防いでくれると言うのは非常に有用な魔道具ですね。この事態が落ち着いて交渉できるようであればいくつか購入できないか確認してみましょう。軍事利用できるようなものの購入は厳しいのかもしれませんが。


「説明ありがとうございます。ではノシュフォードさん。あなたが見た鉄砲はこんな形の物でしたか?」

「いや、違う」

「なんじゃと!」


 ガタッと音を立てながらロイドナールさんが立ち上がろうとして途中で止まり、そしてゆっくりと再び腰を下ろしました。やはりその反応からすると詳しい内容は聞いていなかったようですね。まあノシュフォードさんの説明の方法もまずかったと思いますが。

 私が聞いた時も最初は普通にこの鉄砲を想像してしまいましたしね。


「ではどんな鉄砲をノシュフォードさんが見たのか。それが次の映像になります」


 リモコンを操作し液晶画面の映像が切り替わりました。それは戦争映画の一幕です。迷彩柄のペイントをした屈強な男が腰に据えたガトリング砲でゲリラの拠点を一掃していきます。次々と放たれる弾がゲリラを拠点を崩壊させていきついには火薬庫が爆発しました。巨大な音と迫りくる炎という迫力のある映像に皆さんがビクッと震えます。

 そしてガトリング砲が音を立てながらゆっくりと回転を止めた場面でその映像を一時停止しました。


「ノシュフォードさんが見たのはこれですね」

「ああ、細部は違っているがおおむねこんな感じの武器だった」

「そんな話は聞いておらんぞ。どういう事じゃ、ノード!」


 今にも立ち上がって詰め寄らんばかりの気迫を見せているロイドナールさんを手で制します。他の方々は状況の推移を見守っているようですが、この映像から武器の威力、そして危険性については十分に理解されたことでしょう。

 第一段階はクリアといったところです。


「落ち着いてください。これはノシュフォードさんとセドナ国の上層部の認識の違いからくるすれ違いによるものです」

「認識の違いじゃと?」

「ええ。ノシュフォードさんにとって最も伝えたいことは遠距離から攻撃をしてくる新種の武器があることです。この武器を見て危機感を覚えていたノシュフォードさんは懸命にそのことを伝えようとしたはずです。火薬を使い大きな音を立てながら弾を飛ばして攻撃してくる武器のことを」

「……」


 そこまで言ったことでロイドナールさんを含めほとんどの方が事情を理解したようです。まあついでなので全部言ってしまいましょう。


「その報告を聞いてセドナ国の上層部は鉄砲のことを思い出したはずです。そして先ほどまでのロイドナールさんと同じように思ったに違いありません。若いエルフが既に開発されており対策も練られている武器である鉄砲を見て驚いただけだと」

「もうよいわ。確かにそうじゃな。情報を正しく判断できんかった儂らにも責任はある」

「まあノシュフォードさんの報告もまずかったとは思いますがね。私が話を聞いた時もかなり詳しく聞いて何とか話してくださった感じですし」


 大きくため息を吐くロイドナールさんにフォローを入れておきます。

 ノシュフォードさんが危機感を強く持ちこちらに伝えようとしてくれているからこそ自身の伝えたい情報以外の重要な情報が埋もれてしまっていたわけです。そちらの埋もれてしまった情報の方が報告を受ける側からすれば非常に重要なものであるのにも関わらず。

 まあこういったことはまれに良くある(・・・・・・・)ことですからね。お互いの認識が共有できていない場合に起こりがちです。商談時などに起こると大きな事案に発展したりしますしね。


「鉄砲の脅威については承知いただけましたね。さすがに先ほどの矢除けの守りの魔道具ではこの新型の鉄砲を防ぎきるという事は難しいでしょう」


 皆さんがうなずいていることに満足し、話を次へと進めていきます。

 この調子で行けば会談を重ねる必要も無いかもしれませんね。まあどちらにせよ今回を含めて最低2回は必要なのですが。


「続いては自動車の説明に移らせていただきますがこれも聞いただけでは想像がつきにくいと思いましたので事前に同じようなものを用意させていただきました。再びこちらをご覧ください」


 リモコンを操作して映像を流します。軍用トラックの荷台に迷彩柄の軍服を着た兵士たちが座り、揺られながら走行する様子がしばらく映ります。そして画面が切り替わり同じような軍用トラックの上に設置された機関銃を主人公である血を流しぼろぼろの服を着た男性が追跡してくるトラックに向けて撃ちまくり、そのトラックが爆発炎上したところで再び映像を止めます。


「実際に目にすると恐ろしさが良くわかりますね。馬が必要ないですからそのための飼料、水もいりませんし疲労を考えなくても良い。魔物に襲われる危険も、不意に暴走することもないのですから」


 エリザさんの言葉にうなずいて返します。現状の陸地での主な移動手段は馬によるものらしいですしね。魔法があるので水についてはある程度融通がきくらしいのですがその他の問題はいかんともしがたいものです。馬は生き物ですしね。

 セドナ国の方々は難しい顔で考え込んでいます。そしてしばらくしてロイドナールさんが重い口を開きました。


「ノード、ここまで動けるのか?」

「いや、速さは馬車と同程度しか出ていなかったが形や動きは同じようなものだった」

「うーむ……」


 ノシュフォードさんの答えにロイドナールさんが腕を組んで再び考え始めてしまいました。


「何をお悩みですか?」

「採算が合わんのじゃよ」

「と言うと?」

「魔道具で同じようなものを作ることは可能じゃ。しかしこの自動車のようなものを継続的に動かすには魔力もしくは魔石がかなり必要なはずじゃ。馬を使わずに動くということは魅力ではあるがのぅ」


 トリニアーゼさんとジゼルフォードさんにも視線を向けますが同じ意見のようです。専門ではないはずなのにある程度の魔道具に関する知識はあるのですね。セトナ国の教育方針でしょうか。

 ノシュフォードさんも同じ判断を下していましたがそれは魔道具屋として営業するために訓練したからだと思っていたのですがね。まあそれはどうでも良いことですが。


 ノシュフォードさんによると動きを補助する程度の物なら何とかなるだろうがあそこまで自由に動けるものをどうやって作ったのか俺には想像がつかないとも言っていました。

 魔道具を作る職人の国と言っても過言ではないセドナ国の住人が皆魔道具ではないと否定する。ということは自動車に関しては魔道具と言う可能性は低いでしょう。まあ独自に研究していた人がいたという可能性もありますがね。魔道具だけにこだわっている限り魔石や魔力と言うエネルギーの問題は発生してしまうはずです。


「さてここで問題です。魔道具ではないのに生き物の力を使わずに動くもの。何か覚えがありませんか?」


 すぐに思いつかないのか首をひねる皆さんの姿を横目に私はゆっくりと周囲を見回すのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【ジョリー・ロジャー】


海賊船が掲げる髑髏と交差した骨を描いた旗の事です。某海賊一味の漫画が広がる前から海賊と言えばこのイメージの人が多いのではないでしょうか。

一般的には黒い布地に白で髑髏などが書かれているイメージが強いと思うのですが、実際には赤い布地に書かれた物もありました。デザインも本当に様々でした。

現在ではなかなか見られないようになったと思いがちですが日本でも海上保安庁などのテロ対策訓練などの時にテロリスト役の船が掲げたりとわかりやすい悪役の旗として活躍しています。


***


お読みいただきありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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