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Flag119:ノシュフォードさんの話を聞きましょう

「ふむ、馬がいないのに走る鉄の馬車に大きな音を立てて遠くから魔物を倒す武器ですか」

「ああ、まだ試験段階の様だがな」


 ノシュフォードさんから聞いた話は耳を疑いたくなるようなものでした。話してもらった内容から考えて馬車の方は自動車の事、武器の方は鉄砲のことでしょう。

 鉄砲に関してはまだわかります。この世界では既に大砲が使用されているのですから火薬と砲の組み合わせと言う概念はあったのですし、それを小型化して個人で使用できるようにすると言う考えが浮かんでも不思議ではないでしょう。むしろなぜ今まで鉄砲を見なかったのかと言う方が気にかかるほどです。


 しかし自動車は違います。確かに自動で馬車を動かしたいと言う考えは浮かぶでしょうが今まではその動力が無かったのですから一からその構想を練る必要があったはずです。

 しかしノシュフォードさんの話を聞く限り人が走る程度の速さで走ることができ、しかも操縦も比較的出来ているように感じました。秘密裏に開発をしていたとしてもこんなに短期間で実用に耐える自動車を作り出すことなどできるのでしょうか?


「やはり、信じられないか?」


 ノシュフォードさんの疲れたような言葉に思考の海から意識が戻ってきます。その顔に浮かんでいるのは諦観です。さんざん同じような説明をエルフの方々にしたのでしょう。そしてそれを誰も理解してくれなかった。そんな様子がありありとわかりました。

 だからこそ私は真剣な表情のままゆっくりと首を横に振りました。とりあえず考察は後にしましょう。


「いえ、信じます。現場を見た者の判断をないがしろにして良いことはありません。実際に見たノシュフォードさんが脅威を覚えたのですから」

「良いのか?」

「はい」


 キョトンと驚いた顔をするノシュフォードさんにうなずいて返します。

 現場の声、実際に体験した者の感じたことと言うのは非常に重要です。明確な言葉には出来ないかもしれませんがそこにあるものを汲み取ることが出来るのかがその後成功するかしないかに関わって来ることが多々ありますしね。


 まあ情報を持ってくる人の判断力などにも左右されますが、少なくともノシュフォードさんは冷静に事実を伝えてくれています。他国の情報を集めているのですから判断力もあり有能な方です。まあそんな人がこんなことを起こしてしまったのは皮肉としか言いようがないのですがね。


 とは言えノシュフォードさんの意見を無視してしまったセドナ国の上層部に全ての責任があるかと言えばそうではありません。ノシュフォードさんが持ってきた情報は今までになかった新技術のものです。実際に見たことも無く、それに関して知識もない者に正しい判断を下せと言うのもなかなかに難しいでしょうし。


「うーん、しかしなかなかに厳しそうですね。乗り物の方は自動で走る車ですので自動車、武器の方は鉄を飛ばす砲ですので鉄砲と仮称させてもらいますが、この2つがあると今までの戦争の概念が変わってしまう可能性が高いですね。どこまで実用化されているかにもよりますがノシュフォードさんの言う通り同盟を組んだとしても負ける可能性もあります」

「そうだ。しかし上層部は俺の意見を無視した。このままいけば同盟を組んだ他国もろともセドナ国も滅ぼされる。残っているのは奴隷としての道だけだ。特に俺たちがどう扱われるかは考えるまでもない。そんな道を同胞に歩ませたくはない」


 そう言うノシュフォードさんの決意に満ちた瞳はどこまでも澄んでいました。セドナ国に今現在もっとも迷惑をかけているであろう彼がその国、その人々の為に尽そうとしているのです。自らが汚名を被るのを厭わずに。

 そこから感じられるのはセドナ国に、そしてそこに生きる同胞たちに対する愛情。それはとても優しくて、懐かしくて、愚かしいまでに純粋なものでした。


 確かにもしこのセドナ国がランドル皇国に攻め滅ぼされた後の未来については予想に難くありません。容姿が整っており、長命な彼らの事です。残っているのは愛玩奴隷としての日々でしょう。価値はあるから殺されはしないものの人として生かされもしない日々です。それは私も望むところではありません。

 しかし……


「ただ同盟をしないと言うのは愚策ですね。それにあなたもこの船をランドル皇国に引き渡してもセドナ国だけ見逃してもらえるとは考えていないですよね。実際にランドル皇国を見てきたのですから」

「ああ。俺のやろうとしていることは時間稼ぎだ。この船を餌に出来るだけ戦争の開始を遅らせる。俺がこんなことをしたんだ。上層部も本気で俺の報告した内容を調査するだろうし、その調査で危険性がわかれば対策もとれる。この国の地形を考えれば勝ち目はあるさ。ただ今同盟を組み、敵対を表明するのはまずい」

「もし攻め込まれた時に対策をする時間がないと言うことですね」

「そうだ」


 ふむ、やはりかなり考えて行動は起こしたようですね。もしかするとノシュフォードさん自身、この船を占拠出来なくても良いと考えていたのかもしれません。ノシュフォードさんがそういった行動を起こさざる得ない状況であるという危機感を国に持ってもらうことが一番だったように感じますね。

 そうせざるを得ないとノシュフォードさんに思わせてしまった上層部に対する怒りは湧いてきますが、ノシュフォードさんに個人に対する怒りはありません。少々考えが足りないなとは思いますがね。


「うーん、とりあえず現状はわかりました。いったん休憩しましょう。明日以降の話し合いのためにも体力を回復させないといけませんし。と言う訳で食事を作りますので手の縄を解いてください」

「……わかった。くれぐれも変なことを考えるなよ」


 ノシュフォードさんが私の手の縄を解いていきます。特にきつく巻かれていた訳ではないのですがやはり姿勢が固定されると言うのは体に負担がかかるようです。立ち上がり強張った体をこきこきと鳴らしながらほぐしていきます。

 そして真剣な表情でノシュフォードさんを見つめます。彼が息を飲むのが聞こえました。


「ノシュフォードさん、覚悟してください」

「やはり、やるのか?」


 ノシュフォードさんが立ち上がりその手が腰の剣の柄へと伸びていきます。その表情の中に決意とほんのわずかな無念さが広がっています。私の事をある程度信頼してくれたようですね。まあそうでなければ手の縄を解きませんか。


「私は料理がそこまでうまくありません」

「はっ?」

「後、好き嫌いがあったら事前に言っておかないと嫌いな料理が大量に出てくる可能性があります。ちなみにお残しは許しません」

「お前は何を言っているんだ?」


 呆れたような目でノシュフォードさんが私を見ています。しかしその顔にはうっすらと笑みが浮かんでいました。それを本人が気づいているかはわかりませんが。


 1人で思いつめすぎてしまったからこそノシュフォードさんは今回のようなことを起こしてしました。

 張り過ぎた弓の弦は切れます。どんな強靭な物でも。だからこそ適度に緩めてやり、必要なときに相手を撃つ矢を放てるようにしなければいけないのです。

 その一助になったでしょうかね。


「冗談ですよ。さて本当に嫌いなものがなければ適当に作ってしまいますよ。ちなみに残すのを許さないのは本気です。食材を無駄にしたくはありませんので。それではしばらくお待ちください」


 そう言ってくるりとノシュフォードさんに背を向けてギャレーに向けて歩き始めます。しばらくして


「ピーマンが駄目だ」


 そうためらいがちに声をかけてきたノシュフォードさんへと振り返ってにっこりと笑い返し、顔を背けたその姿に少しの笑みを浮かべながら再びギャレーへと向かうのでした。


 さてピーマンの肉詰めでも作りましょうかね。もちろん私用にですが。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【ハーマン・メイヴィル】


白い巨大なクジラに片足を奪われたエイハブ船長が執拗にそのクジラを追う捕鯨を題材にした物語の金字塔である「白鯨」の作者です。

1841年に捕鯨船アキュシュネット号の乗組員になりましたが、その過酷な環境から太平洋のマルケサス諸島で船から脱走して先住民に捕らえられました。その後救出されてアメリカへと戻りニューヨークの税関に勤務しました。

こうした経験があったから「白鯨」という本が生まれたのでしょう。


***


お読みいただきありがとうございます。

お陰様で一万ポイント達成しました。これからも更新頑張っていきます。本当にありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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