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Flag112:パーティでおもてなしをしましょう

 エルフの方々を連れてパーティ会場へと向かいます。道中きょろきょろと周りを伺う様子や、ウェルカムドリンクのシャンパンを口に含んで驚く様子はアイリーン殿下たちと全く同じです。


 今回私が用意したシャンパンは2万円台の、シャンパンとしてはミドルクラスに分類されるものです。とは言えそのライトに反射するクリアな黄金の輝きや、口に近づけたとき、そして飲み終わったときに広がる華やかな果実感、酸味と果実味が絶妙なバランスで成り立ちそれを炭酸が絶妙に広げていく甘美さは値段以上の価値があるでしょう。


 この世界に来てから食堂などでお酒を飲んだこともありますし、ツクニさんなどから名酒と呼ばれるものをいただいたりしましたがどうにも雑味が気になるものばかりでした。魔物などがいるため育成環境が整えにくいと言うのと流通が発達していないという事が大きな原因でしょうか。

 まあそれは今は考えなくても良いでしょう。


 エルフの方と接する機会はほとんどありませんでしたが、やはり種族は違うと言っても同じ人ということでしょう。それを改めて感じます。

 ならば何とかなるでしょう。心の中でこっそりと笑みを浮かべます。


 エルフの方々が会場に入った瞬間、会場内の空気が一瞬ですが止まりました。すぐに何事もなかったかのように元へと戻りましたがエルフの方々が苦笑する様子を見ればそれに気づいたことは明らかです。しかしそれでも苦笑にとどめているという事は現状をしっかりと認識しているという事でしょう。

 一応事前にエルフの方々も招待するという事はアイリーン殿下の陣営の方々にもお伝えはしておいたのですが、停滞している原因であるエルフの方々にはやはり思うところがあるのでしょう。気持ちはわかります。事前に言われていたのに一瞬とは言え態度に出てしまうのはどうかと思いますがね。


 とは言え今回のゲストはこれで全員が到着したことになります。アイリーン殿下と話しているエリザさんがこちらへと一瞬視線を飛ばしてきましたのでうなずいて答えます。見たところゲストは全員今は屋内にいますのでちょうど良いでしょう。

 エリザさんがアイリーン殿下との話をやめ、すっと立ち上がり歩き始めました。今まで動きのなかったエリザさんが動いたことで自然に視線が集まります。エリザさんが優雅に一礼し、そして強い意思を感じさせる真っすぐな瞳で皆を見つめ返しました。


「皆さま、本日は私の急な招待に応じていただきありがとうございます。今回のこの会は疲れを癒すとともに互いの親睦を深めることを目的にしています。ですので立場、事情など関係なく楽しんでいただければと思います。もちろんこの場で仕事の話など無粋な話は無用です。純粋にこの素晴らしい船、フォーレッドオーシャン号を楽しんでいただければと思います」


 そう言い終えたエリザさんが柔らかく微笑みます。やはりこういった場面ではエリザさんは輝きますね。衆目を集めて離さない才能、カリスマがあると言うべきでしょうか。

 こういったものは天性の才能が大きいですからね。もちろんそういった手段や理論が無いわけではありませんので後から身に着けることが出来ないとは言えませんが、この年齢でこれだけのことが出来ると言うのはエリザさんの今までの努力ももちろんあるのでしょうがそういった才能があったという事でしょう。だからこそ危ぶまれ排斥されたのかもしれませんが。


 エリザさんの笑顔のおかげで会場の空気が和らいだところでミウさん、ハイ君、ホアちゃんが用意された食事を次々に運んできます。私はしばらく会場の一角でバーテンのまねごとです。

 さすがに本職のようには出来ませんが、幸いにも作り方について書いた本は船に積まれていましたし材料もあります。カクテルのようなものはこの世界では見たことがありませんので趣向を変えたお酒というのも良い物でしょう。


 最初はどこか警戒するようにお互いにまとまっていたマイアリーナ号の方々とエルフの方々ですが、食事やお酒が進むにつれて徐々にではありますが交流し始めたようです。今はこのフォーレッドオーシャン号のことであったり、提供される新しい料理、そしてお酒と話題には事欠きませんからね。


 そろそろ良いでしょう。


 ミウさんへと視線を送ると、うなずいた後ギャレーへと戻っていきました。そしてしばらくしてマイアリーナ号のシェフの方を連れて戻って来ます。真っ白なパリッとした服に身を包み帽子をかぶったその姿はさすが本職ですね。貫禄があります。


「皆さま、ただいまよりマイアリーナ号のシェフ、イマウル様による料理の実演を始めさせていただきます。中々見る機会のない料理が出来上がっていく過程、そして本当の出来上がりの美味しさをお楽しみください」


 ミウさんの紹介にシェフが帽子をとって一礼して応え、会場の一角に用意しておいた調理スペースへと入ります。そして鉄板に火を入れるとその横に台座の下に隠しておいた大きな肉の塊を取り出してドンッと置きました。


 一見すると赤身が多いように見えて、実はうっすらと細かな刺しの入ったその肉はフォーレッドオーシャン号に元々積まれていたA5ランクの黒毛和牛のフィレ部分です。


 シェフがフィレ肉に包丁を当てて一息ついた後、3センチほどの大きさに切り分けます。そして温まってきた鉄板に牛脂を置くと、それは踊るようにして円を描きながら溶け透明になっていきます。

 そしていよいよフィレ肉が鉄板に置かれました。その瞬間ジュっと言う心地よい肉の焼ける音と共に漂うその匂いに誰かの喉がごくりと鳴りました。


 岩塩とブラックペッパーをミルで引きつぶしながら振り掛けしばらくシェフが動きを止めます。ジュウジュウという肉の焼ける音が静かに響き、それにつれてまだかな、まだかなという期待感が否応なしに盛り上がって行きます。

 そしてシェフの手に持つステーキターナーがついに動いた、かと思うとそれは肉では無く周りに散った塩や胡椒を片付けるだけです。ため息を漏らした招待客の姿にシェフが微笑みます。


 そしてついにフィレ肉がひっくり返されその美しい焼き目が露わになりました。肉の合間から垣間見える透明な輝きが今にも溢れださんばかりです。

 そしてシェフが裏面も同様に焼いていき、ついに完成かと思われたその時、シェフがブランデーを振り掛けて火を近づけました。揮発したアルコールが燃え上がり美しい火の肉を包み込みます。


「「おぉー」」


 皆が驚き歓声を上げる中、火はその姿を消しそしてシェフがフィレステーキを切り分け用意されていた皿へと盛りつけました。


「どうぞ」


 ことりと置かれたステーキの乗った皿に皆の視線が集まります。その肉汁溢れる柔らかなミディアムレアの美しいステーキの姿に一瞬誰もが手を伸ばしそうになり、そしてその手を引っ込めます。

 その皿をエリザさんに促されて取ったのはアイリーン殿下です。そしてエリザさんに促されるままそのステーキを口へと含み咀嚼していきます。誰もがそのアイリーン殿下の姿を目で追っていました。


 アイリーン殿下はステーキを口に含んだ瞬間驚いたように目を見開き、すぐに幸せそうにその表情を溶かしていきました。その表情を見れば何も言葉は不要でしょう。うっとりとその余韻に浸っているアイリーン殿下を連れてエリザさんがステーキの載った皿を持ってその場を後にします。


「エリザ様、ものすごく美味しいです。お肉が、お肉が口の中で消えていくんです!」

「ふふっ、良かったですね」


 しばらくして正気に戻ったのかアイリーン殿下がエリザさんにとてもうれしそうに感想を伝え、パクパクとそのステーキを口へと運んでいました。エリザさんがそんなアイリーン殿下の様子を柔らかく見守っています。同い年のはずなのですがどうしてもエリザさんの方が年上に見えますね。


 そんな声を聞きながらも招待客の方々の目は続いて作られているステーキへと注がれています。アイリーン殿下向けに作っていた時と違い一気に数人分のステーキを焼いていますので繊細さは薄れていますが、それを超える豪快さで招待客の方の目を楽しませています。


 出来上がったステーキは順に提供され皆さん満足そうに舌鼓をうっています。これは大成功ですね。

 もてなしている私やミウさん、ハイ君やホアちゃんは食べられないわけですが問題ありません。事前に嫌と言うほど試食していますからね。むしろしばらく私はステーキは遠慮したいところです。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【ミゲル・デ・セルバンテス】


人名なのですがあまり聞きなれないかもしれません。ドン・キホーテの物語の著者と言った方がわかりやすいでしょう。

セルバンデスは1571年にガレー船が主力の最後の大海戦であるオスマン帝国艦隊とキリスト教徒の連合艦隊が戦ったレパントの海戦に参加し、1575年にバーバリー私掠船に捕えられ奴隷として売られました。1580年に解放された訳ですがこのような経験がドン・キホーテの物語の背景にあるのかもしれません。


***


お読みいただきありがとうございます。

ブクマが初めて1000を超えました。ジャンル別日刊ランキングでも11位でした。何と言って良いのかわかりませんが、ブクマ、評価、そして何より読んでいただきありがとうございます。これからもどうぞお付き合いをよろしくお願いいたします。


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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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