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Flag109:セドナ国の港へ入港しましょう

 セドナ国の港に近づくにつれてキノコのような家だけでなく港も何とも不可思議な光景が広がっていました。今までこの世界で見てきた港は基本的に木でできた桟橋に動物の皮のようなものを巻いてクッションにしたようなものや、岩を積んで船着き場を作っているような場所ばかりでした。


 しかし今目の前に広がっているのはまぎれもなく蔦です。一本一本の太さが私の胴回りと同じくらい太い蔦が絡み合って湖の上に桟橋を作っていました。これは固定されているのでしょうか、それともフロートのように浮いているのでしょうか、どちらでしょうね。そしてどうやって蔦で桟橋を作ったのでしょう。今も生きて成長しているのでしょうか。

 興味は尽きませんね。


「トリニアーゼさん、あちらでよろしいですか?」

「えっと、これが<しゃんぷー>でこれが<りんす>。後、これは……えっとー」

「トーゼ、おっちゃんが呼んでるぞ。どこに泊めればいいんだ?」

「あっ、ちょっと待ってください。今行きます」


 ばたばたとした足取りでトリニアーゼさんが操舵するアル君の横にやってきました。そして先ほどの蔦の桟橋の上で数人のエルフの方が手を振っている場所を指さします。ちょうどマイアリーナ号と桟橋を挟んで斜め後ろの辺りですね。


「あそこに着けてください。進路としては少し膨らんで入った方が良いです」

「わかりました。アル君、トリニアーゼさんの指示通りにお願いします」

「おう、任せとけ!」


 アル君が舵を切り、船がゆっくりと進路を変えていきます。水の流れも海ほど急ではありませんし、森のおかげか風もあまり強くありませんのでアル君に任せて問題ないでしょう。


 トリニアーゼさんの仕事である案内人はその地域を知り尽くしたプロフェッショナルです。基本的に船は案内人が乗った場合その指示に従うことになります。たまにしかそこに来ない船長より、いつもその水域を案内している案内人の指示の方が的確ですからね。


 しかしここで問題となるのがもし案内人の指示通りに船を動かして事故が起こってしまったらどうなるのかということです。案内人の指示通りに動かしたのだから案内人の責任だと思う方もいるようですが実際は船長の責任になります。航行の最高責任者はあくまで船長ですからね。

 だから案内人の指示を聞くも聞かないも結局は船長の裁量になってくるのです。案内人の意見を聞き、船長が判断を下し、そして操舵士へと伝える。迂遠なやり方に思えますが責任の所在をはっきりさせるためには必要な事なのです。


 アル君の操縦によりフォーレッドオーシャン号がピタリと蔦の桟橋へと着けられました。係留ロープを放り投げると受け取ったエルフの方が蔦の突起へとひっかけていきます。何というか便利な蔦ですね。

 そんなことに感心しているとドアが開く音が聞こえ、エリザさんとミウさんそしてマインさんが姿を現しました。3人とも中から様子は見ていたのでしょうが一風変わったセドナ国の様子に驚きを隠しきれていません。

 やはりこの反応を見る限り私が異世界から来たせいで見慣れない訳ではないようですね。


「無事到着しました」

「ありがとうございました。では行ってきます」

「はい。成功を祈っています」

「こちらへどうぞ。ご案内します」


 トリニアーゼさんに先導されエリザさんがその後に続きます。その後に続いていくミウさんと一瞬視線を交わすと微笑まれてしまいました。不安が表情に出てしまっていたのかもしれません。いけませんね。

 数人の獣人奴隷の方々も伴ってエリザさんがセドナ国のエルフたちに歓迎を受けながら町へと消えていく様子をその姿が消えるまで見送ります。そしてしばらくそのまま立ち尽くし、大きく息を吐きました。


 私の出番はここまでです。これからの交渉は国と国という大きな立場での話し合いになります。それをすべきというよりそれが出来るのは立場のあるエリザさんやアイリーン殿下そしてその部下の方々です。私のように船を持っているだけの商人が話し合いに口を出す余地はないのです。

 心配ではありますがミウさんもついています。エリザさんとも何度もシミュレーション行い話し合いました。それを信じるしかありません。

 とは言え、心配なものは心配ですがね。


 操舵室へときびすを返そうとした時、船尾の方から足音が聞こえてきました。不審者ではもちろんなく、トリニアーゼさんです。


「あの、先ほどの品を持って行ってもよろしいですか? 説明するのに使わせていただければありがたいのですが」

「ああっ、すみません。すっかり忘れていました。どうぞお持ちください。危険が無いかじっくりと確かめていただければ幸いです。もし追加で欲しいという事であればある程度は余裕がありますので遠慮なく言ってくださいね」

「ありがとうございます。助かります」


 頭を下げるトリニアーゼさんに気にしないでと伝え操舵室へと戻り、用意した消耗品類を持って船尾へと向かいます。流石にこの大荷物を女性一人に持たせるわけにもいきませんからね。

 後部デッキ近くの桟橋にはエルフの男性が2人いました。おそらくトリニアーゼさんが戻ってくるのを待っていたのでしょう。トリニアーゼさんと同じく20前後に見える男性と50近くに見える初老の男性です。エルフは長寿という話ですからあの初老の男性は私の想像以上に歳を重ねているのでしょうね。


「局長!」

「トーゼ、戻ったか。それが先ほど報告にあった品々じゃな」

「はい」


 局長と呼ばれた初老のエルフが興味深そうにトリニアーゼさんの持っている品をしげしげと眺めています。

 トリニアーゼさんの驚きの声と名称からしておそらくトリニアーゼさんが所属している入国管理局か何かのお偉いさんなのでしょう。現場に出てくることがあまりないような。


 手に持っていた荷物を近づいてきた若いエルフの男性へと渡し、局長さんへと軽く頭を下げます。


「こんにちは。この船、フォーレッドオーシャン号の船長のワタルと申します。不可思議なものが多いせいでトリニアーゼさんにお世話をかけてしまいました。申し訳ありません」

「いやいや気にせんでええ。それを含めて仕事のうちじゃからな。儂の名前はロイドナールじゃ。一応入国管理局の局長をしておる」


 差し出されたロイドナールさんの手を握り返します。細い外見に似合わず思った以上にごつごつとした手です。指の付け根辺りにたこがありますので何かしていたのかもしれませんね。

 ロイドナールさんと視線が合います。私が彼を観察していたように、彼も私を観察していたようです。お互いにそのことに気が付きフフッと笑みがこぼれます。


「調査の協力に感謝するのじゃ。貴重な品もあるじゃろうに」

「いえ、気にしないでください。こちらの身の潔白を証明するためにも必要なことですしね。逆にもし調査して安全だとわかり、その品が欲しいと思われたらある程度であればお譲りも出来ますので」

「ほほっ、気前が良いのう。他国の貴族とやらの船もお主と同じような者なら楽なんじゃがな。では行くぞ。お主も何か希望があったらこの辺りにいる局員に伝えると良い」

「お気遣い、ありがとうございます」


 ロイドナールさんが荷物を抱えた男性のエルフとトリニアーゼさんを引き連れて去っていきます。

 さて、しばらくは暇な日々が始まりそうです。王族や皇族を迎えるのですから話し合いだけではないでしょうし、少なくとも1週間以上はかかると予想しています。セドナ国の不思議な街並みを見てみたいですが、さすがにそれも出来ません。船を守るのが今は重要ですからね。アル君を残して自分だけ行くと言うのも違うと思いますしね。


「さて、とりあえず夕食の支度を始めましょうかね」


 ミウさんが不在の間の食事作りは私の仕事です。味が落ちたと言われないようにしっかりと準備しなくてはいけませんね。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【エンジンの熱効率】


大型船や外航の貨物船などに積まれているエンジンは2サイクルの低速大型エンジンであることが多いのですがおよそ50%のエネルギーがプロペラへと伝わります。車がおよそ30%であることを考えると脅威と言っても良い効率のよさです。

また残りの50%は廃熱として捨てられるわけですがその廃熱を再生回収する研究も盛んにおこなわれています。無駄になるエネルギーの少ない乗り物が船と言う訳です。エコです。


***


お読みいただきありがとうございました。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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