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Flag107:エルフの入国管理官を迎え入れましょう

前回投稿できず申し訳ありません。

 セドナ湖を北上しているとだんだんと町らしきものの姿が見えてきました。うーん、おそらく町だと思うのですがね。


「なあ、おっちゃん。人間の町って色々なんだな」

「ええっと、そうですね。私もあんな町は初めて見ますのでセドナ国が特殊なのだと思うのですが……」

「ふーん」


 アル君の質問にはっきりとした答えが返せないことを少し申し訳なく思いながらも私自身も目の前に広がる光景をどう考えていいのか整理する必要がありました。

 まず違うのは建物が建物ではないという事です。こちらから見える限り私がイメージするような木や石などの建材で作られる建物は見当たりません。ここから見えるのは色とりどりの巨大なキノコです。巨大なキノコの根元にある扉からエルフと思われる人々が出入りしている光景はなんともメルヘンチックで、まるで小人の国にでも迷い込んでしまったかのような気がしてきますがこれは現実です。

 しかしこれはどうやって家にしているのでしょうかね。家代わりに使用しているということはそれなりに利点があるのでしょうし、キノコの成長によって部屋がぐちゃぐちゃにならないのかなど興味は尽きません。もしエルフの方と話す機会があったら聞いてみましょうかね。


 そんなことを考えながら港へと近づいていくと小型のボートがエンジン音を響かせながらこちらへと向かってやって来ました。マイアリーナ号が船足を落としましたので私たちも同様に速度を落としていき、そして完全に船が止まりました。


 マイアリーナ号へとボートが横付けし、なにかやり取りをした後ボートに乗っていた1人のエルフの方が船へと乗り込むと再びボートが動き出しこちらへと向かってやってくるのが見えました。


「では行ってきます」

「おう。何かあったら言えよ」

「ははっ、ないと良いですがね」


 何かあることを期待しているようなアル君の言葉と表情に苦笑いをしながら操舵室から外へと出ます。ボートはちょうど船の横を通り過ぎ後部デッキへと向かうようです。遅れないように少し速足で後部デッキへと向かいます。


 後部デッキを見張っていた獣人の奴隷の方にエリザさんを呼んできてもらえるように伝え、そして後部デッキに横付けされたボートに乗っているエルフの方へと声を掛けます。


「こんにちは。この船、フォーレッドオーシャン号の船長のワタルと申します。船の検査でしょうか?」

「はい、乗船してもよろしいですか?」

「ええ、どうぞ」


 ボートの後部座席に座っていた女性のエルフの方が軽やかに後部デッキへと降り立ちます。湖とは言え小型のボートですし歩くとなると揺れがあるはずなのですがそんなことを感じさせませんね。事前に聞いていた通り非常にお美しい方です。金髪をなびかせその細い手足と整った顔立ちは精巧に作られた人形を想起させます。人に対して抱くのには失礼な感想だとはわかっているのですがね。

 女性を下ろしたボートが再びエンジン音を響かせて船から離れていきます。と言うことは検査員兼船先案内人と言うことでしょうか。


「入国管理官のトリニアーゼと申します。本来ならば入港の目的などを伺うのですが先のマイアリーナ号の船員の方からおおよその事情は聞いております。ランドル皇国の第三皇女エリザベート殿下が乗船していらっしゃるのですよね」

「はい。もうすぐこちらにいらっしゃると……ああ、いらっしゃいましたね」


 私とトリニアーゼさんが話しているとエリザさんが後部デッキへとミウさんを引き連れて歩いてきました。あまり華美でない普段着用にとオットーさんに作っていただいたネイビーのドレスです。生地はもちろん私の用意した生地を使っていただいているので着心地は良いですし、オットー服飾店のデザインと技術力のおかげで上品な仕上がりになっています。

 正式な外交の場で着るべきものではありませんがあえてその服でやってきたということはこの船の中は自分の私室と同様と言うことでしょう。ミウさんあたりが考えたかもしれませんね。

 トリニアーゼさんがすっと足を引き、膝をつきます。


「ランドル皇国第三皇女エリザベート・フォン・ランドルです。突然の訪問に対応していただきありがとうございます。頭を上げてください」

「セドナ国、入国管理官トリニアーゼと申します。船の検査及び港までの案内をさせていただきます」

「よろしくおねがいします、トリニアーゼさん。この船はワタルの物ですが今は私の外交のために使うという契約を行っています。検査に当たってはそこを考慮していただければ幸いです」

「はい」

「それでは失礼いたします」


 エリザさんがトリニアーゼさんの返事に微笑みそして船内へと帰っていきます。トリニアーゼさんはエリザさんの姿が見えなくなってもしばらくはそのままの体勢で動かず、たっぷりと2分ほどしてから立ち上がりました。その表情には心なしか安堵が浮かんでいます。


「どうかされましたか?」

「いえ。他国の貴族の方などの所有する船などが来ることもあるのですがそういった船の船員は往々にして横柄で検査も拒否されることが多かったので今回も同様かと考えていたのです」

「一応釘は刺されましたけれどね」


 そう冗談めかして言うとトリニアーゼさんが小さく微笑みました。


「それは当たり前ですから。さすがに皇族の私室になっている部屋を検査するわけにもいきませんし。さて、それでは案内をお願いいたします」

「わかりました。では一部を除いて船内を案内させていただきます」


 トリニアーゼさんを連れてフォーレッドオーシャン号を案内していきます。ときおりその内装や設備に後ろから小さな驚きの声が聞こえてくることに振り返らずに笑みを浮かべながら。


 今回については外交であり、交易する予定はないため軽く船内を一周して案内を終えます。実際、簡易検査とは言いますがはっきり言って見ているのは不審な人物がまぎれていないかぐらいでしょう。あとは船内の構造の把握と言ったところですね。何かあった時に対処できるように。


「では最後に操舵室を案内しますが……先に言っておきますがこの中にはローレライの子供がいます」

「ローレライですか!?」

「ええ、私の友人でこの船の操舵士をしてくれているのです。今回は長期の航海になりますので無理を言って協力してもらいました。だからくれぐれも腰の物を抜かないでくださいね」

「……はい」


 ローレライと言った瞬間に腰にある剣へと伸びていたトリニアーゼさんの手が元の位置に戻ったのを確認し部屋をノックします。中からアル君の「いいぞー」という元気な声が聞こえてきました。神妙な顔をしているトリニアーゼさんに微笑みながら扉を開けていきます。アル君用に用意した操舵用の椅子の上にはアル君の姿はありません。もしかしてと思い歩を進めれば予想通り操舵席の反対側の壁際のソファーでお菓子を食べながらアル君がソファーに体を預けてリラックスしていました。

 私たちの姿を見たアル君がピョンと起き上がり目をキラキラと輝かせながら私たちを指差しました。


「おっ!おっちゃん、エルフだよな。そいつ」

「アル君、そいつ(・・・)はトリニアーゼさんに失礼ですよ。あと人を指差してはダメです」

「そういやそうだな。悪かった。俺はアルシェル・キオックって言うんだ。えっとトリニ……なんだっけ?」

「トリニアーゼです。初めましてアルシェル君」

「おう。トリニアーゼも食うか? うまいぞ」


 笑顔でお菓子を差し出してくるアル君の姿に苦笑することしか出来ません。この遠慮のなさがアル君の好ましいところなのですがね。まあ幸いと言ってよいのかトリニアーゼさんが気を悪くしている様子はありませんし、どちらかと言えばアル君の姿に毒気を抜かれたように柔らかい笑みを浮かべているので問題はないでしょう。


「いただいてもよろしいですか?」

「ええ。ただし……」

「ただし?」


 間を置いた私をトリニアーゼさんが真剣な表情で見返してきます。その喉が緊張からかごくりと音をたてました。


「こぼさないでくださいね」


 真剣な表情から笑みへと変えて私もソファーへと座りお菓子のビスケットへと手を伸ばします。ビスケットに挟まれたチョコレートの甘みがビスケットのほんのりとした塩味とマッチしていますね。


 ポカンとした顔をしていたトリニアーゼさんに座るように促すと、おずおずとした様子でアル君の隣へと座ってビスケットへと手を伸ばし、じっとそれを見つめた後何かを決意するような強いまなざしをしながら一口かじりました。その表情が途端に緩まったのを見て心の中でほっと息を吐きます。


「お茶を用意しましょうか?」

「いえ、そこまでご面倒を……」

「頼んだ、おっちゃん。俺はオレンジジュースで! トリニアーゼも遠慮すんなよ」

「ええっと……ではお茶を。いえ、おすすめでお願いします」

「はい、かしこまりました」


 ちょっと気取って礼をしてから飲み物の準備をしにギャレーへと向かいます。遠慮なく色々な質問をし始めたアル君に少しぎこちなくもトリニアーゼさんが答えている声を聞き、こらえきれない小さな笑いを口から漏らしてしまいながら。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【船の揺れ方】


船酔いの原因とも言える船の揺れ方ですが6種類あると言われています。ピッチ(縦揺れ)、ロール(横揺れ)、ヨー(船首揺れ)、サージ(前後揺れ)、スウェイ(左右揺れ)、ヒーヴ(上下揺れ)です。

この中で最も客にとってつらいのは上下に揺れるヒーヴィングなのですが、これは船舶の設計者にとっては最も回避しづらい揺れでもありました。これらの揺れをどうにかするために船舶設計者は今も頭を悩ませ続けているのです。


***


お読みいただきありがとうございました。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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