Flag106:セドナ国へ向かいましょう
セドナ国はこの大陸中央に位置しておりこの大陸に存在する他の5つの国全てと接している国です。その国土は中央に位置するセドナ湖とそれを取り囲むように生い茂っているセドナ大森林に大部分を占められており実際に人が住んでいるのは湖畔周辺部のみとのこと。
全ての国と接していると言うと侵略等の危険が大きいように思えますが、セドナ大森林だけでなく、セドナ湖のある大陸の中央に向けてなだらかな傾斜の山が出来ており守るのに易くまさしく自然の要塞となっており、侵略を受けたことは今まで一度もないという大陸
随一の安全な国と言うことです。もしかするとセドナ湖は火山湖なのかもしれませんね。
地形的に特殊と言うこともあるのですが何より変わっているのはそこに住んでいるのがエルフと呼ばれる種族の方なのだそうです。ダークエルフの方々にはお会いしましたがエルフの方に会うのは初めてですね。ノルディ王国やランドル皇国では見かけませんでしたし。
主要産業は魔道具の作成と輸出だそうです。その技術は他の国々とは一歩も二歩も違っており、他国の貴族や王族がオーダーメイドの注文をすることも珍しくないようです。エルフの方は寿命が300年以上とのことですし職人の方も熟練しているのでしょう。
事前に集められた情報としてはこの程度です。一応エリザさんやミウさんにも聞いたのですがほぼ同じようなものでした。ランドル皇国で外遊を行っていたエリザさんもセドナ国には行ったことがないという事でしたので実際はどうなのかはわかりません。
少々不安は残りますが仕方がありませんね。
私たちは現在ルムッテロから北上してラミル川を遡上しています。ラミル川は河口付近の川幅が1キロ近くある大河でその流れは非常にゆったりとしています。川岸には洗濯をしている人々がいたり、野生の動物たちが水を飲みに来たりしておりなんとものどかな光景です。たった今1メートルもないワニのような生き物にその倍はあろうかと言う大型の鹿が川の中に引きずり込まれていきましたが……
「あの、マインさんあの生き物は何でしょうか?」
「あれはアサシンゲーターだな。水辺にすむワニの魔物で気配なく近づいてくるから注意が必要な危険な生き物だ」
「とりあえず皆に水面に近づかないようにもう一度注意してきます」
艦内放送で注意を呼びかけ、エリザさんの護衛として同乗してくれた選りすぐりの獣人奴隷の方々に後部デッキを警戒してもらうようにお願いしました。後部デッキは最も水面に近いですからね。もし何かが乗り込んでくるとしたら可能性が高いのは後部デッキでしょう。
うーん、ああいった物理法則を無視したような光景を見ると異世界なのだなと改めて思いますね。そう言えば生きている魔物を見るのはこれが初めてかもしれません。いつも私が目にする魔物と言えば基本的に食材として絞められた状態ですからね。まあ私の行動範囲が船で海上を走るか、人の町ばかりであるため見る機会がなかったのでしょう。町の外には魔物が結構な頻度でいるという話でしたし今回の外遊の間には結構目にするかもしれませんね。
ノルディ王国のラミル川上流の町で予定通り一泊し、翌日にさらに川をさかのぼっていきます。川幅が少々狭くなり傾斜もあるため川の流れも速くなってきましたが急流とまでは言えない程度です。両岸には木が生い茂った森が広がっています。これがセドナ大森林ですね。川岸から見える限り広葉樹が多いようです。紅葉のシーズンになったら素晴らしい景色になるのかもしれませんがこの辺りは秋や冬でも比較的温暖な気候ですし紅葉を見ることは出来ないかもしれませんね。しかし心には留めておきましょう。
一応このラミル大森林に入った辺りからがラミル国の領土らしいのですが関所や見張りのような方はいらっしゃいません。先行するマイアリーナ号は時に気にした様子もなく進んでいきますので問題はないのでしょう。
しかしそもそもこの世界の国境はどうなっているのでしょうね。ノルディ王国とランドル皇国の国境の沿岸ではそれぞれの国の船が哨戒していましたから陸上も同様だとは思うのですが。見てみたい気もしますが魔物が徘徊する場所を私が旅するというのは無謀に過ぎますしね。エリザさんなら詳しそうですので後で聞いてみましょうか。もしかしたら思いもしない光景が国境沿いには広がっているかもしれませんからね。なにせ魔法がある世界ですから。
夕方に差し掛かったあたりで船は川をさかのぼり終えセドナ湖へとたどり着きました。
「でっけー! これって海じゃないんだよな」
「そうですね。しかし確かに広い」
操舵室から広がるセドナ湖の姿は確かに海と見まごうばかりでした。なにせ対岸がほとんど見えないのですから。もし自分自身が何の前情報もなくこの景色だけを見せられたのならば海と勘違いしそうです。
アル君がキョロキョロと首を左右に動かしながら楽しそうに笑っています。アル君をこの外遊に連れていくかどうかと言うことは非常に迷ったのですがこんな姿を見ると連れてきて良かったなと思いますね。
現状、このフォーレッドオーシャン号を操舵できるのは私とアル君だけです。アナトリーさん辺りならばしばらく訓練をすれば操舵できるようになるとは思いますが、今回については諸々の事情もあり漁船を使ってルムッテロとの交易や島の間の連絡役などをしてもらうことにしました。アル君も漁船は操船できますが町に行くことは絶対に出来ませんしね。
ある程度の期間の外遊と言うことで私以外に船が操舵できる人材は必須でした。1人で長時間操舵するという事は危険ですし、もし私に何かあったときに船を動かすことが出来なくなってしまうということは避けなければいけません。いつもは普通の船が通らない場所を選んでフォーレッドオーシャン号を走らせていましたが今回は外遊ですので人の手が届く場所ですからね。
だからこそついていきたいと言うアル君の申し出はありがたいものだったのですが同時に子供を危険かもしれない場所へと連れて行って良いのかと悩みました。
ハイ君とホアちゃんに関してはエリザさんの奴隷ですし、マインさんが連れていくと言っていましたので了承しました。しかしアル君はローレライの子供です。今回の外遊とは関係がほとんどありませんし、なにより子供のローレライが狙われると言うのは既知の事実です。
私にとってはアル君が来てくれた方が自身の負担や航行上のリスクが減ることは確かです。でもしかし……と考えが堂々巡りしはじめてしまったため、私はガイストさんに相談することにしました。どちらにせよもしアル君を連れていくのであればガイストさんとリリアンナさんの許可は受けるつもりだったので。
アル君を外遊に連れて行って良いのか、そしてその場合の危険性も十分に話し終えた後ガイストさんは一言こう言いました。
「あの子に広い海を、広い世界を見せてやってくれ」
私がお願いするつもりがガイストさんに頭を下げられながら。本当に良いのかと聞く私にガイストさんは思いのたけを語ってくれました。
それはローレライの今後を憂う族長としての思いでした。私と出会い、襲われ、人と交流していったことで変化し始めたローレライの方々のことをしっかりと見つめ、そしてその将来のために広い世界を見せる必要があるとガイストさんは判断したのです。リリアンナさんも少し涙ぐみながらもしっかりと首を縦に振っていました。
そして私はアル君を連れていくことを決意しました。必ず守ると心に決めて。
「この湖の北端に首都があるそうですから船を進めてください」
「おう」
アル君が楽しそうに船を操舵し、舳先がゆっくりと北へ向かっていきます。この笑顔が曇ることのないように気を付けましょう。
夕暮れに赤く染まる湖の美しい姿を見ながらそんな決意をするのでした。
役に立つかわからない海の知識コーナー
【本船】
海運の世界で良く出る言葉なのですが「この船」の事を指している訳では無く「船」という概念そのものを指している用語です。
わかりにくいと思いますので具体例を挙げるとフェリーなどで「本船は間もなく出港いたします」の「本船」という意味ではありません。良く出てくる場面としては「貨物が損傷した場合の賠償責任については本船に積載後は当社の責任として……」などと言う時に使われます。
海運商社関係以外の人にはあまりなじみのない使われ方かもしれませんね。
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