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Flag104:外遊に出発しましょう

 アイリーン殿下たちとの会合からおよそ1か月。ついにエリザさんの外遊の日になりました。この1か月という期間を長いと見るか短いと見るか……まあ短いのでしょうね。

 こちらの要求自体はそこまで大したものではありませんでしたし、当たり前と言ってもおかしくないことをお願いしたのですから決断に時間はかからなかったでしょうしね。とは言え車や電車などの陸上の高速移動手段がない現状では往復するだけでもそれなりの日数がかかるようですから仕方がありません。

 とは言え目的の物は既に手に入れましたのでこれで安心してエリザさんを外遊に連れ出すことが出来ます。ついでに私の思惑も達成されましたしね。


「それでは参りましょうか」

「はい。よろしくお願いします」


 エリザさんの返事を聞き船を走らせルムッテロへと向かいます。アイリーン殿下との外遊ですがまずはルムッテロの港にて合流することになっていますからね。その後この大陸を横断するように走っているラミル川をさかのぼり大陸の中央に位置しているセドナ国へと向かいます。そしてその次はそのまま東へと抜けてドワーフ自治国の順番で向かう予定です。

 本当ならば時計回りに周遊していった方が楽なのかもしれませんがそうすると初めの2か国はランドル皇国と接していない国との会談になってしまいますからまずは実際にランドル皇国と接しているセドナ国とドワーフ自治国との会談にて同盟の手ごたえを確かめたのちに話し合いたいという事でしょう。


 船は順調に進みルムッテロの姿が前方に見えてきました。相変わらずの真っ白な建物群が私たちを迎えてくれます。フューザーさんが来るのはもう少ししてからでしょうね。


「へー、あれがおっちゃんの言ってた人間の町なんだな」

「どうですか?」

「トッドたちの家より立派そうだよな」

「それは……そうですね」


 私の隣で舵をとっているアル君が感心したように声をあげました。まあアル君の見たことのある建物と言えばトッドさんたちの木製の家ぐらいなものですから比較対象が悪すぎますね。獣人の方々が来てだいぶましな家が建つようになりましたがやはり専門の職人が建てた訳ではありませんし材料も限られてしまっていますからね。

 それはそうとして……


「アル君、周囲の船に気を付けてください。小型の船は見落としやすいので」

「わかってるって。それにしても皆がこの船を見てるのは面白いよな」

「まあ自慢の船ですしね」


 確かにアル君の言う通り私たちの船を見た他船の船員たちは呆気にとられた顔をしてこちらを見ていますからね。まあこのフォーレッドオーシャン号を見てそうならない方は中々いないとは思いますがね。おそらくこの規模のギフトシップなど見たことが無いでしょうし、これだけ美しい船も他に類を見ないでしょうから。


「では私はそろそろ甲板へ出ます。速度を徐々に落としながら進んでください」

「りょーかーい」


 アル君の軽い返事に苦笑しながら操舵室から外へと向かいます。操舵室前の甲板で待っているとフューザーさんがこちらへと向かってくるのが見えてきました。アル君に合図を送り船を止めるように指示します。


「これは……すごい船だな」

「こんにちは、フューザーさん」

「ワタル殿か。これはワタル殿のギフトシップなのか?」

「そうですね。今回エリザベート殿下の外遊に使う予定なのですが問題はありませんよね」


 圧倒された様子で船を見回しているフューザーさんに一応確認をとっておきます。この船で来るという事は伝えていませんからね。とは言え聞かれたフューザーさんも困る質問だとはわかっているのですが一応簡易検査をする権限はフューザーさんが持っていますからね。

 そんなやりとりをしていると部屋の中からエリザさんがオットーさんの所で作ってもらったドレスを着て外へと出てきました。フューザーさんがそれに気づき膝をつき頭を下げます。


「頭を上げてください。仕事の邪魔をするつもりはありませんので」


 頭を上げたフューザーさんへエリザさんがにこりと微笑みます。


「エリザベート・フォン・ランドルです。本日はアイリーン殿下との外遊へ出発するためルムッテロの港へとやってきました。よろしくお願いいたします」

「はっ! エリザベート殿下の乗った船については検査することなくお通しせよと命令が出ております。どうぞお進みください。一足先に知らせてまいります」


 言うが早いかフューザーさんは空へと飛び立っていってしまいました。そういえばこの船で入港して大丈夫かという返事を聞いていませんでしたがまあお通しせよという命令が下っているのならば問題はないでしょう。

 アル君に合図を送り船を港へと進ませます。エリザさん、そしてその後についてきたミウさんとマインさんと共に近づいてくるルムッテロの町を眺めます。


「第一歩ですね。エリザさんご協力ありがとうございました」

「いえ、その言葉は私の言葉です。ねぇ、ミウ」

「はい。本当にありがとうございました」


 ミウさんに頭を下げられます。それに対して微笑み返し、そして船へと視線を向けます。

 今回、こうやってフォーレッドオーシャン号でルムッテロへと来たのはエリザさんを安全に外遊させると言うこともありますが、私としての最大の目的は今後フォーレッドオーシャン号で航海するための布石でした。


 エリザさんがアイリーン殿下たちとの会談で要求したものは2つ。エリザさんが乗る私の保有するギフトシップについて危害を加えない、そして乗組員に対しても同様に危害を加えないと言うことを国として契約していただくということでした。まあ普通に考えれば当たり前のことですがそれを明文化し契約していただいたという訳ですね。

 ここでみそになるのは「私の保有するギフトシップ」という部分です。おそらく漁船のことだとアイリーン殿下たちは思ったのでしょうが、別に漁船とは指定されていませんからね。その部分については契約時にしっかりと確認してありますからフォーレッドオーシャン号に対しても適用はされるのです。


 そしてこの契約書にくわえて現在のエリザさんを乗せて外遊する船という状況。これでちょっかいを出してくるような人はほとんどいないでしょう。まあ後先考えない人というのは一定数いますので油断はできませんが。

 フォーレッドオーシャン号で旅をすると言う目標を達成するための第一歩として今回の出来事は私にとってはまさしく渡りに船だったのです。まあそうなるように計画して動いていたので計画が順調に進んだと言った方が正しいのでしょうがね。


 人が手を振っている桟橋を目指して船が進んでいきます。いつもとは違う大型の船が止まる桟橋です。今日は普通の帆船は1隻も泊まっておらず、呼ばれている場所の近くに1隻の白い船体の船が泊まっているのが見えました。あれがノルディ王国が保有するギフトシップのマイアリーナ号なのでしょう。しかし、あれは……


「プレジャーボートですね」

「えっ?」

「あぁ、すみません。なんでもありません。綺麗な船だと思っただけです」


 思わず漏れていた言葉を聞きとがめられ笑顔でごまかします。懐かしい船を見てちょっと油断してしまいました。


 その船は全長15メートル、全幅4.75メートルのプレジャーボートです。階層としては3階層ありオーナー用の部屋だけでなくゲスト用の部屋も一部屋あり、ギャレーやラウンジもあるはずです。実際にどうなっているかは見ていないのでわかりませんが。

 確か燃料タンクは2000リットル、清水タンクは500リットルでしたかね。値段は1億3千万ほどだったでしょうか。

 私がなぜこんなにもマイアリーナ号について詳しいのかと言えば退職したら買おうかと思っていた候補の船の1つだったからです。実際に見学にも行きましたしね。まあその直後に癌だという事が判明したり、色々あってフォーレッドオーシャン号で航海に出たわけですが。まさかこの世界に来てこの船に出会うとは……これも運命と言ったところでしょうか。


 妙な感慨にふけっている私をよそにアル君が見事に桟橋へと船を泊めました。いけませんね。いくら懐かしいと言っても今はこのフォーレッドオーシャン号こそが私の船なのですから。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【揺れない船?】


絶対に揺れない船を造ろうとしたあるロシアの皇帝がいました。その結果造られたのは上から見ると円の形をした巨大なタライのような船でした。船底の面積を増やしてさらに円形にすることで船にかかる力を一定にしようとしたわけです。

結果は……大失敗です。水面に対して垂直になろうとする力は強くなりましたがそのせいで逆に物凄く揺れる船が出来上がったそうです。


***


お読みいただきありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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