Flag101:カールさんと打ち合わせしましょう
アナトリーさんに伝言を教えてもらって3日後、予定通り私とマインさんは漁船でルムッテロへと向かいました。最近はランドル皇国で活動することも多かったのでマインさんとルムッテロの町へと向かうのも久しぶりです。
マインさんはいつにもまして厳しい表情をしています。まあ今回の話し合いの結果がエリザさんの今後に大きく関わってくるでしょうから当たり前です。とは言え今回行くのはその話し合いの前の事前交渉なのですがね。重要であることに変わりはありませんが。
ルムッテロの港へと船を着け、町を散策していきます。顔見知りの方々に「久しぶり」と声をかけられながら世間話をしてみましたが特に変わったことはありませんでした。オットーさんの店はつい先日アナトリーさんが商品を卸したばかりですので行きませんでしたが。町は平穏そのものと言った感じです。
領主の館へと向かい、明日の午前中に伺うと兵士の方に伝え帰ります。一応日付は手紙の中で何日か指定してありましたが、いきなり当日に行くと言うのも失礼ですからね。だからこそ今回は前日にやって来たのですから。
船で一夜を過ごし、朝食を食べ領主の館へと向かいます。さて、いよいよですね。
「こんにちは、商人のワタルと申します。カールさんにお会いしたいのですが?」
「あぁ、ワタル殿ですね。カール様から話は聞いています。こちらの方は?」
「私の友人のマインです。今回の話し合いに関係しますので連れてきました。昨日に伝言を残しておいたのですが聞いていませんか?」
「ワタル殿と同行する者を連れてくるように言われています。すみません、お聞きしたのは職務上の癖と言いますか……」
兵士が少し気まずそうにぽりぽりと頭をかいています。マインさんを見ると特に気にしていないようでした。それよりも話し合いの方に意識が向かっているようですね。
「問題ありませんよ。お勤めご苦労様です」
「いえ、失礼しました。ではお通り下さい。奥に案内の者が待機していますので」
「ああ」
兵士に見送られマインさんと2人で領主の館へと入っていきます。待機していたメイドに案内されて見覚えのある通路を進んでいきます。どうやら前回話し合いをした場所と同じようです。謁見ではなく話し合いをするときにはその部屋と決まっているのでしょうか? それともあまり内部の情報を外に出したくないのかもしれませんね。まあ私なんてどこに所属しているのかもわからないと思われているでしょうし。
そんなことを考えながら進み、予想通り前回と同じ部屋へと入ると既にカールさんがおり私たちを出迎えてくれました。
「わざわざお越しいただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそなかなか連絡が取りづらくて申し訳ありません」
カールさんと握手を交わしにこやかに挨拶を交わします。そしてカールさんの目がマインさんへと向いたところで紹介を始めます。
「こちらは私の友人でマインという者です。お嬢様の護衛と考えていただければ良いかと」
「マインだ」
「ルムッテロの領主、スチュワート様に仕えていますカールと申します。お見知りおきを」
カールさんとマインさんが握手を交わし、そして座るように促されたので全員が席へと着きます。そこに案内してくださったメイドとは別のメイドの方が紅茶と軽い焼き菓子を置き外へと出ていきました。残ったのはカールさんだけです。てっきり護衛の兵士の方でもいらっしゃるかと思ったのですが、あまり話を広めたくないということですかね。
商談ならばここで世間話をすることもあるのですが、今回に限っては相手も緊急という事ですし、内容が内容でしょうからね。ずばり本題へと進みます。
「お嬢様とお話がしたいという事でしたが、今回の話し合いはその日程と場所についてで良かったでしょうか?」
「はい。今回こちらはスチュワート様、私、そしてもう1人の3人で話し合いに参加させていただきたいと思っています。その方が到着するのがおよそ1週間後ですのでそれ以降の早い時期に会談が出来ればとこちらでは考えています」
「もう1人とは誰だ?」
「すみません。今、私の口からはいう事が出来ません。それほどの人物だと思っていただければありがたいです」
申し訳なさそうにカールさんが頭を下げます。
まあカールさんが実名を出さずにもう1人という言葉を使った段階で現状では教えられないのだろうなと予想はしていましたが……。誰かは予想がつきませんが名前を言えないほどの人物が出張って来るとは情報収集の方はうまくいったようですね。そしてその情報に基づいて正確に状況と未来予測のできる者がいると言うことにもなります。案外私からの情報が無かったとしても近いうちに同じような情報は手に入れていたかもしれませんね。
「場所は前回と同様でよろしいですね」
「はい。こちらとしてもお嬢様の事情は理解しています。下手に来ていただきいらぬ危険を増やすよりは出向いた方が良いと判断しています」
「そうですか」
その後もカールさんと話し合いを続け、詳細について決めていきます。
とりあえずは事情をエリザさんへと伝え、そして10日後にルムッテロへと私が戻り会談を行う3人と護衛の兵士の方3人を漁船で運ぶと言う流れに決まりました。
「よろしくお願いいたします」
「いえ、こちらこそ」
そうカールさんと挨拶を交わし領主の館を出ます。
ある程度の状況は掴めましたし成果は上々と言った所でしょうか。今回はルムッテロですることもありませんし、昨日のうちに軽い買い物などはし終わっていますので、すぐに漁船へと戻り出港しました。即座に動いたと思ってもらった方が印象は良いでしょうからね。
マインさんが小さくなっていくルムッテロの町を眺めていました。そして私へと顔を向けます。
「ワタル殿、感謝いたします」
「どうしたのですか、突然?」
頭を深々と下げたマインさんの姿に少し慌てます。
「姫が、エリザベート殿下が正式に請われて人と会う日が来るとは思わなかった。これもワタル殿のおかげだ」
マインさんのその言葉には思いが詰まっていました。裏切られ、祖国に帰ることも出来ず何をすべきかも、今後どうしていくべきかもわからなかったのですから当然かもしれません。
私としてはこのような茨の道では無く、新しい人生をおすすめしたかった所なのですがね。その方がはるかに安全ですし。しかしエリザさん自身がこの道を進むと決め、皆がそれに賛同したのですから仕方がありません。
「私の力だけではありませんよ。皆さんの、なによりエリザさんの意思のおかげです。それに大変なのはこれからですよ」
「わかっている。しかしもう一度言わせてくれ。ありがとう、ワタル殿」
「はい、どういたしまして」
マインさんへと返事をすると、そのままマインさんはくるりと背を向けました。その体が細かく震えています。ここで声をかけるのはやぼでしょう。
カールさんとの話し合いの内容から言っておそらく事の重大性をノルディ王国としても理解しています。それは喜ばしいことではあるし計画通りではあるのですが同時に少しの不安もあります。
会談を行うと言うことはこちらに対して何かして欲しいことがあると言うことですからね。何もなければ独自に調査などを進めているでしょうし。しかも領主だけでなくそれ以外の人も加わるとなると何を要望されるのか。無茶な事でなければ良いのですがね。
今のマインさんにそんなことは話すことは出来ません。とりあえずミウさんと相談でしょうか。船をキオック海へと走らせながらそんなことを考えるのでした。
役に立つかわからない海の知識コーナー
【消波根固ブロック】
なんのことかわかりにくいですがいわゆるテトラポッドのことです。ちなみにテトラポッドはある会社さんが作っている商品名です。
護岸用途に置かれているイメージがありますが実際にはそこを隠れ場として海藻や貝、小魚などの生態系を育む役割もしています。
積み上げるだけという設置の容易さから火山の噴火や山崩れなどの応急対策に使われることもありますがその時はコンクリートブロックと呼ばれます。
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