Flag98:第二部を始めましょう
すみません。納得がいかなくって書き直していたら2日経っていました。
申し訳ありません。
「取り舵、帆を裏打ちさせないように注意してください!」
「アイアイサー」
ダークエルフの方々の操船はさすがと言ったところで人数が少ないはずであるのに見事に回頭してみせました。とは言ってもこちらは少々風上方向へ向かって走ることになるのでどうしても限度があります。
ドウン!
船の間近で再び水しぶきが上がります。回頭していなければ船体のどこかしらに穴が開いていたことでしょう。こちらを信頼して撃ってきてくれているとはわかっているのですが背中に汗が流れます。
「僚艦の盾になるように進路を南へ、すり抜けて逃げますよ!」
「アイアイサー」
私たちの方へと向かってきているのはダークエルフの方々が乗る2隻のケッチと呼ばれる船です。2本マストの縦帆船ですね。通常2本のマストの場合、後方がメインマストになることが多いのですが、ケッチの場合は前方がメインマストになります。バランスが良く、操作性も良いため海の民であるダークエルフの方々が操作するとエンジンがついていないのが嘘のような動きをするんですよね。元々ケッチ自体が舵を使わなくても帆の操作だけである程度の操船が出来てしまうと言うことも関係しているのでしょうが。
「引きつけてください。……今です!」
「タッキング!」
号令に合わせて舵が切られ、帆の操作も流れるように行われ船が進路を変えます。船の鼻先をダークエルフの方々の船から飛んできた砲が通過していきます。本当に容赦がないですね。
「応戦、急いでください。くれぐれも当てないように!」
「アイアイサー」
こちらの船からも砲が飛んでいきます。もちろん手前に落ちたり見当違いの方向へと飛んで行っています。操船が激しいので下手に撃ってまぐれ当たりしてしまっても怖いので散発的ではありますが。
ジグザグと回頭させながらダークエルフの方々のケッチを避けるようにして南へと進んでいきます。奴隷船との距離もだいぶ離れました。そろそろですね。
「退避準備。奴隷船から見えないようにローレライの方々は海に飛び込んでください。他の皆さんは衝撃に備えてください!」
「アイアイサー」
伝令が走り、ローレライの方々が海へと飛び込んでいくバシャン、バシャンと言う水音がこちらまで聞こえてきます。とは言っても砲撃の音などよりはるかに小さな音ですので奴隷船まで聞こえるはずがありませんがね。
そして水音が聞こえなくなり、私の船が進路を固定しました。
ドガァン!!
破壊音を響かせながら強烈な衝撃が私たちの船を襲います。私自身衝撃に耐えるように気構えていたつもりでしたがしたたかに床に打ち付けられてしまいました。一瞬息が詰まりましたがなんとか動くことは出来ます。すぐに立ち上がり周囲を見回します。
「皆さん、大丈夫ですか!?」
人数を確認し、全員がまだ船の上に残っていることに一安心します。大きな怪我を負った人もいなさそうです。
ダークエルフの方々のケッチから放たれた砲弾によって船体に穴を開けられた私の船は浸水し、結構な速さで船が傾いでいきます。予想よりも船体の沈み込みが早いですね。当たり所が悪かった、いえ良かったと言うべきですかね。ともあれ……
「総員退避。ローレライの方と合流して隠れます!」
「アイアイサー」
沈んでいく船に引きずり込まれてしまってはたまりませんので船からなるべく遠くへ離れるようにジャンプして奴隷船から見えない方の海へと飛び込んでいきます。そして海中で待っていたローレライの方々が持っていたスキューバ用のマスクをつけてダークエルフの方々が次々と海中へと消えていきました。
その姿を見送り、そして沈みゆく船を振り返って眺めます。あなたをしっかりと船として使ってあげられなくてすみませんと謝りながら。
「おっちゃん、行くぞ」
「ええ、行きましょう」
私もマスクをつけてアル君に引かれながら海中を進んでいきます。まるで自分が魚になったような速さで進みながら今後がうまく進むように祈るのでした。
ダークエルフの方々のケッチに曳航され、奴隷船がランドル皇国へ向かって進んでいきました。それを隠れながら見守った私たちはソフィアさんの乗ったケッチに救助されました。
自分で立てた作戦とは言えさすがに乗っている船を砲で沈没させられると言うのは緊張しましたし、その後の海中を潜って逃げることにしてもアル君の助けは借りましたがやはり疲労は貯まります。私と運命を共にしてくれたダークエルフの方々もさすがに疲れた顔をしています。それと同時にやり遂げたと言う達成感もあるようですが。
「本当にこれで我らの立場は良くなるのか?」
「そうですね。確実にそうとは言えませんが、その確率は高いでしょうね」
ソフィアさんの言葉に奴隷船が去っていった方向を眺めながら答えます。
そもそもダークエルフの方々の立場が危うくなったのは襲撃を失敗して帰してしまった船の乗組員の話のせいでした。逆に言えばそれ以外の証拠など無いわけです。まあ被害者の証言と言うのは馬鹿にできないものなのですがね。
だとすればその証言の信ぴょう性を低くしてやれば自ずとダークエルフの方々に迫る危険性を下げることが出来るのです。そのために今回の計画を実行したのですから。
まず奴隷船のマストを集中的に狙ったことはもちろん獣人奴隷の方々の被害を出さないようにと言う意図もありますし、乗組員に無事に帰ってもらうためということもあるのですがもう一つの理由として船を航行不能にすると言うことがありました。このことによって奴隷船は誰かの手を借りなければ死を待つしかなくなってしまった訳ですからね。
そして全員がローブで身を隠し、奴隷船に乗り込む直前で獣人だとわかるようにすることでこちらがダークエルフに罪を擦り付けようとする獣人の集団であることを印象付けました。
そこにダークエルフの方々の船がやって来ることで奴隷船を襲った獣人たちとダークエルフが対立していることを明確化させ、さらにわざと1隻船を沈めることでそれが演技ではないことを知らしめます。そしてもう1隻の船をわざと南へと逃がすことで奴隷船を襲った船が獣人の国と関係しているのではないかと言う疑惑を植え付けます。
そして仕上げにダークエルフの方々が奴隷船を曳航してランドル皇国まで送り届ければ奴隷船を襲おうとした獣人たちを倒したランドル皇国に友好的なダークエルフ像の出来上がりです。
普段姿を現さないダークエルフが奴隷船を助けるために港にやってきたという事だけでも話題性が抜群ですし、恩義を感じているであろう船員たちが勝手に都合の良い噂を広めてくれるでしょうからね。
その噂はダークエルフに襲われたと言う根拠に乏しい噂を駆逐するはずです。なにしろ新しい噂は実際にダークエルフが港まで来ており、それに助けられた乗組員たちを人々が目撃しているのですから。
次に港へ寄ったときにどんな噂を聞くことが出来るのか楽しみですね。色々と尾ひれがついているでしょうし。
「これでひとまずはダークエルフの危機は去ったと思います。もしかするとランドル皇国から使者が来るかもしれませんがまあその辺りは長老の方々に任せれば良いでしょう」
「感謝する」
「いえ、これも契約のうちですからお気になさらず。しかしさすがに疲れました」
甲板の隅へと腰を下ろし大の字で寝転がります。どこまでも青い空を見上げながら体を撫でていく海風に誘われ、私は目を閉じるのでした。
役に立つかわからない海の知識コーナー
【母なる海】
生命が生まれたと言われる海は良く母なる海と呼ばれますが、それは今でも変わっていません。私たちが生きていくのに必要な酸素、木などが光合成で作り出しているイメージが強いかもしれませんが実際は海に漂う植物プランクトンがおよそ70%を作り出しているそうです。
私達が生きていけるのは今も海のおかげということです。




