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Flag9:船を案内しましょう

 後部デッキから階段を上りまずは2階部分です。階段を登ってすぐに屋外に机とソファーがあります。海に最も近い休憩所ですね。泳ぎ疲れた時などに休めるようにと防水加工されており、屋根もあるので海を感じながらゆったりと休むのに最適です。たまにアル君が自力で階段を登って昼寝している場所でもあります。

 そこから先へ進み室内へと入ればこの船で最も広い空間があり、そこにはラウンジとダイニングエリアがあります。船内とは思えないほどのゆったりした空間で、室内でパーティーを開くのには最適な場所ですね。まあほぼ使用していませんが。


「ほへー。すげえな、ここ」


 アル君があんぐりと口を開けたまま見回しています。そういえばアル君がこの中に入るのは初めてでしたか。シックな木目の床や壁に、海を彷彿とさせる青や白のソファーなどが置かれたこの部屋は確かにすばらしいですからね。

 とはいえここに魔石を使う場所があるとは思えませんので軽く見るくらいで済ませます。少しアル君が物足りなさそうにしていましたがそれは後日にしてもらいましょう。


 そのまま奥へと進むと私が寝起きしている主寝室があります。まあ本来ならばVIPルームと言うべきなのでしょうが私以外乗っていないため感覚としては寝室なのですよね。

 キングサイズのベッドに机、軽くお茶ができるようなソファーに、トイレ、お風呂、クローゼットなど必要と思われる物は全て揃った広々とした空間です。


「人間ってすげえな。こんな豪華なとこで寝るのか」

「いえ、ここは特に広い部屋ですから。普通の船ならばこの部屋の10分の1の広さがあれば十分なくらいですね」


 変な方向へと勘違いしそうになっているアル君に慌てて訂正します。私自身色々な船に乗ってきましたが、これほど広い個人の部屋がある船など数えるほどです。しかもそれらは大概が旅客用の大型船であり、このサイズの船でこの空間はある種異常とも言えます。

 まあ海をゆったりと優雅に過ごすことを目的としたメガヨットならではといったところでしょうか。


 2階の主だったところはこの程度でしょうか。一応私が料理を作っているキッチンもありますが、アル君に説明する必要は無いでしょう。まあ正確に言うならキッチンというよりもギャレーなのでしょうが。


 次は1階の案内です。といっても1階は区画がきっちりと分かれていますので階段でそれぞれ降りなければならないのですがね。

 一番近場の船を動かすクルー用の区画へとまず降ります。本来ならば4部屋があるのですがそのうち2部屋は本や物がいっぱいでとても泊まれるような状況ではありませんので実質あるのは2部屋です。

 小さいながらも料理をする場所や共同のシャワー室もあり、モニターで船の状況を確認することもできます。この区画のみでクルーの生活が完結できるように作られているのです。ゲストをもてなすにはそういった気遣いが重要ですから当然とも言えますが。


「うわっ、狭っ!」


 クルー用の部屋の一つに入ったとたんアル君が声を上げ、その正直すぎる内容に思わず苦笑します。確かに先ほどの主寝室を見てしまうと2段ベッドやクローゼット等、必要なものが詰められているこの部屋は手狭に感じるかもしれません。とはいえクルー用の部屋としては十分すぎるほど広いのですが。


「一応これはクルー、そうですね、この船で働く人用の部屋です。まあ私しかいませんので使用していませんが」

「おっちゃんの部屋と全然違うじゃん」

「それはそうですよ。この船は元々人をもてなすために作られた船ですから。私が寝ている部屋はもてなされる人の中でも最も良い部屋ですからね」

「へー、やっぱ人間って変わってんな。というかもてなすって感覚がよくわかんないんだよな。俺たちおっちゃん以外に付き合いのある奴なんていねえし」


 何となく腑に落ちないといった顔をしながらアル君が部屋を見回しています。しかしすぐに興味を失ったのか早く次のところへ行こうぜと急かされてしまいました。まあ見るべき場所があるはずもないですから仕方がありませんね。


 2階へと昇り、別の階段から再び1階へと降ります。この区画はゲストルームです。ここにあるのは4部屋、ダブルベッドがある部屋が2つに、シングルベッドが2つある部屋が2つになります。部屋のサイズ的には先ほどのクルー用の部屋の2倍より少し広い程度でしょうか。内装もしっかりしており十分にゆったりと過ごすことが出来そうです。クルー用の部屋と違い窓もありますしね。

 とは言え最初に一番豪華な主寝室を見てしまったアル君にとっては特段興味を惹かれるようなこともなかったらしく特に反応もないまま次の場所へと移動することになりました。個人的には素晴らしい部屋だと思うのですが、見せる順番を間違えましたかね。


 最後の区画は完全にクルーしか入らない機械室です。この船の心臓部と言っても過言ではありませんね。

 狭めの通路の両サイドにどんっと2機のエンジンが鎮座しています。一番目を引くのはそれらですが、それ以外にもこの船を支えるさまざまな機械が集められた部屋です。そこかしこにモニターや計器がありそれぞれの指針を示しています。


「うわっ、なんかごちゃっとしてるな」

「それは言いえて妙な感想ですね」


 素人目にはごちゃごちゃしていて触りたくない場所であるのは確かでしょう。私も船の軽い修理くらいであれば出来るのですが、さすがにこの規模の船の機械の修理となると厳しいでしょう。ここでは整備に出すということも出来ないですし壊れないことを祈るばかりです。

 魔石を使うとしたらここかなとも思ったのですが、何となくしっくりと来ません。一応エンジンなどに魔石を当ててみたりしましたが反応はありませんでした。

 少し落胆しながら2階へと戻り、そしてそのまま3階を飛ばして4階へと進みます。


「おー、見晴らしがいいし風が気持ちいいな」

「気に入ってもらえたようで良かったです」


 アル君のしっぽが機嫌良さそうに揺れています。その視線は周りをキョロキョロと見回しており、普段見ることのできない高い位置からの眺めを楽しんでいるようです。

 見晴らしのよい4階はスカイデッキであり、一部にレーダーアーチの屋根がついているものの完全に屋外です。リクライニング式で寝転がることのできるソファーがいくつか置かれ、そこで過ごす人に飲み物などを提供するようにバーラウンジが設置されています。しかし最も目を引くのはそれらではありません。


「おっちゃん、あれ何だ?」


 思ったとおりアル君が指さした先にあるのは直径3メートルほどの白い円形のくぼみです。


「あれはスパ・プールですね」

「スパ・プール? スパ・プールってなんだ?」

「あの中に温かい水を入れてゆっくり浸かったりするんですよ。ジャグジーと言って気持ちの良い泡も出ます」

「なんでそんな事をするんだ? 水に浸かりたいなら海へ飛び込めばいいじゃん?」


 そう言いながらアル君が首をかしげます。

 アル君の言い分も最もです。水に浸かりたいなら船の周りには海がありますから浸かりたい放題ですしね。特にそこで生活しているローレライのアル君にとっては意味がわからないでしょう。


「人間はアル君と違って水の中で呼吸できませんからね。溺れずゆったりと水の中でリラックスできるというのが贅沢なのですよ」

「へー」


 その表情からあまり納得のいっていないことはわかるのですがこればっかりはどうしようもありません。機会があればアル君に体験してもらいましょうかね。


 そんな事を考えつつ3階へと降ります。とは言えここはあまり案内する必要が無いのですよね。

 降りてすぐにあるデッキは屋外としては最も広い空間なので海の風や匂いを感じながらパーティーをするのに丁度良い空間です。大人数が座れる机や椅子、そしてソファーがあり、調理のできる簡単なキッチンなども設置されています。

 そしてそこから屋内へと入ればいつも私が読書をしたりして過ごしているリビングがあり、そこはアル君がたまに歌を歌ってくれる場所でもあります。

 別の階段から向かうこともできる操舵室前のデッキは最初にアル君を案内した場所ですのでこの階層はほぼアル君に案内済みなのです。


 ということで唯一入ったことのない操舵室へと案内します。まあ操舵室の近くにもう1部屋寝室があるのですが今までの反応からしてそこは案内する必要を感じませんしね。


「うおっ、なんかかっこいい」

「ぷっ」


 素直すぎる感想に思わず笑いが漏れてしまい、それを聞いたアル君が頬を膨らませています。いや、失敗しました。


「すみません。馬鹿にしたわけではないんです。確かに私も格好いいと思いますし」


 今回は100%こちらが悪いので素直に謝ります。アル君は「仕方ねえな」とちょっとそっぽを向きながらも許してくれ、そしてそんなことは無かったかのように目を輝かせながら部屋を見回しています。

 濃い紺色で統一された室内は落ち着いた雰囲気を醸し出しており、斜めに張られたフロントガラスからは、デッキ越しに雄大な海が覗いています。そしてその手前には6つのディスプレイがこの船の状況を詳細に示し、中央には操舵するためのスイッチやハンドルが並んでいます。

 革張りの椅子は座り心地も良く、長時間勤務したとしても疲労が少ないように考えられたものです。

 その操舵席の少し後ろにはソファーと机が設置されゆったりと食事や休憩するスペースがあります。

 ここは男心をくすぐるものでいっぱいなのです。アル君のかっこいいという言葉は正にふさわしい言葉でしょう。


 興奮冷めやらぬアル君を革張りの椅子へと座らせ、操舵用のハンドルへと歩を進めます。

 この部屋に入ってすぐに気づきました。いえ勘が働いたとでも言うべきでしょうか。このハンドルこそが魔石を使うべき場所であるとなぜか確信があったのです。

 ゆっくりとハンドルへと魔石を近づけていきます。そしてその中央へと魔石を押し当てると、まるで溶けてしまったかのように魔石が消えていきました。


「50,000ポイントが入りました。必要な項目を選択してください」

「えっ、なんだ!?」


 急にスピーカーから流れてきたその声にアル君が驚きの声を上げるのを耳に入れながら、私は目の前のモニターの1つに浮かんだ項目に釘付けになるのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【メガヨットの値段とは?】


本編で登場するメガヨットですが、値段ははっきり言って表現としてどうかと思いますがキリキリです(笑)数十億は当たり前、物によっては一千億を超えるものまであるそうです。ほぼオーダーメイドですので上限がないのです。

もし買われたという方がいましたら御一報下さい。そして取材と称して乗せていただければ幸いです。

m(_ _)m


***


お読みいただきありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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