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第三十五話:パレード

 ブレイーブルと会談してからは、あっという間に話が進んだ。冒険者ギルドの方でもラシュウやカールズに加えて他のギルドマスターが何人もノインの推薦を請け負ったらしい。ドラゴンをテイムしているノインを冒険者ギルドから逃したくなかったらしく、冒険者ギルドの方ではすぐにでもSランクという話になったようだ。グランドマスターもすぐにそれを認めた。



 ギルドマスターと王族であるブレイーブルの推薦が承認されてすぐに、ノインは冒険者ギルドから呼び出しを受けた。Sランクへの昇格はあっさりとしたもので、グランドマスターからオリハルコンで出来たSランク専用のギルドカードを手渡され、Sランクの注意事項を聞いたくらいだ。


 注意事項も以前ラシュウに聞いたのとほとんど同じ。


・ノインに対する強制依頼が出た際の受注及び拒否した際のペナルティ

・戦争や国家間紛争への介入の不可

・国家に属することは出来ず、国ではなく人のためにその力を使う事

 ・街、国を移動する際は冒険者ギルドに報告する事

 

 といったようなことだった。他にも細かいことも説明されたが、大きな話はこれくらいであった。


 だが問題はそれからだ。新たなSランク冒険者の誕生という事で、今から馬に乗って王都でパレードをすると言われた。さらにそのまま王宮へ行き、王に挨拶をしなければいけないらしい。


「そんな話聞いてませんよ!?」

「うん?おかしいな。ブレイーブル殿下からノインに伝わっているはずなんだが」


 ノインに詰め寄られたラシュウも困惑している。既に王都には告知しており、大通りには人々が集まっているらしい。


「あ、やっべ。言ったつもりだったけど忘れてたわ。すまんすまん」

「ブレイーブルさん!?」


 ブレイーブルは言ったつもりだったが、ライムエルについての話や時空魔法といった重要な話をいくつもしていたので忘れてしまったらしい。


「何だノイン。パレード嫌なのか?」

「あまり目立ちたくないんですが……」

「そこは我慢してもらわんとな。今度は今までとは逆で、多くの人にお前の顔を知ってもらうことで厄介事に巻き込まれないようにするんだ。お前に手を出せば冒険者ギルドを始めとして各国が黙っていないってな」


 ノインがライムエルをテイムした当初とは違い、今のノインはSランク冒険者。そして冒険者ギルドの後ろ盾もある。さらに王の名のもとに各貴族にも通達が出されており、ノインを自家に取り込むような事は禁止されている。だからこそ、ノインを多くの人に見てもらう事で手を出さないようにするのだ。


「ま、お前に手をだしゃドラゴンが返り討ちにしてくれるとは思うがな。でも余計なやつがちょっかいを出して周りへ被害出されても困るし」


 ノインはドラゴンをテイムしている。見た目は小さくて愛らしいドラゴンだ。Sランク冒険者という肩書があったとしても、ライムエルを手に入れようとする馬鹿は出てくる可能性はある。


 その際、ノインはその相手を殺したとしても罪には問われないとのこと。それは相手が貴族であったとしても。国やギルドはそんな馬鹿よりもノインの方に重きを置いている。何故ならノインが従えるライムエルの戦力は国を食らい尽す暴食亡国プレデターデーモンプラントを超えているのだから。


「あ、そうそう。パレードのときに何かパフォーマンスを頼んだぞ」

「ラシュウさん!?いきなり何を言ってるんですか!?」

「パフォーマンスっつってもそのライムエルの力を群衆に見せるだけだ。そいつの力がどれだけあるのか、そしてそいつに手を出せばどうなるのかをみせしめねえとな。あ、王都に被害は出すなよ」

「えぇ……。そんな無茶な……」

「それでもやってもらわないと困るんだ。できるか確認してくれ」


 いきなりラシュウから無茶振りされたノイン。王都でパレード中に被害を出さずにライムエルの力を見せつける。いったいどうすればいいのかわからないので、直接ライムエルに聞いてみることにした。


『ライム、周りに被害出さずにライムの力を見せるってできる?』

『んー、上空にブレスを圧縮して放って途中で爆発でもさせればよいかの?念のためブレスの周囲に結界で道を作り、爆発も結界内で行って被害を抑えるようにすれば大丈夫じゃろうとは思うがどうだ?』

『よし、それでいこう』


 すぐに答えを返してくれたライムエル。結界も使ってくれるのであれば、王都内でも大丈夫だろう。ライムエルと出会った際にノインは上空へ放つブレスを間近で体験したが、周囲への影響はほとんどなかったのだから。


「ライムエルが周囲に結界を張りながら上空にブレスを放って爆発させてくれるそうです」

「ほう、そりゃいい。空に向けて放ってくれるなら被害も出にくそうだ。一応、広い場所でやってもらえるよう調整しよう。そんじゃ頼んだぞ」



――――――――――――――――――――



 パレードは王都の城門から大通りをゆっくりと進む。馬車の屋根が取られたようなものにノインとライムエル、そしてブレイーブルが乗っている。その姿を集まった人たちが見ている。


 ブレイーブルが乗っているのはこんな経験をしたことのないノインを補佐するためだ。それにAランク冒険者であり現王の第二子でもあるブレイーブルは王都民にも良く知られていることもあって盛り上がるだろうという思惑もある。


 ブレイーブルは周囲に手を振ったりしているが、ノインは困惑した表情だ。パレードをやるなどさっき知ったばかりで心構えもできていない。どう対応していいのか戸惑いを隠せない。


「おいおい、周りに向かって手くらい振ったらどうだ?」

「やっぱそういうのやらないと駄目ですかね?」

「当たり前だろ。お前さんが主役なんだから目立たねえとな。それとライムエル、お前さんも手を振ってやれ。盛り上がるぞ」

『ふーむ、そういうものなのか』


 ノインは苦笑いを浮かべながらブレイーブルと共に手を振りはじめる。ライムエルも辺りをキョロキョロしながら手を振りはじめると、辺りの歓声が大きくなった。


「おいおい、ドラゴンがこっち向いて手振ってるぞ!」

「マジかよ!?ドラゴンって人懐っこいのか!?」

「いや、人や村を襲うやつもいるんだからな。あのドラゴンが特別なんだろうさ。テイムされているんだしよ」

「あのドラゴンかわいー!!」

「あんな小さい子が強い魔物を倒したんでしょう?信じられないわ」

「小さくてもドラゴンなんだからそれくらいの力はあるんだろうなあ」


 ノインも一緒になって手を振っているのだが、周りから聞こえてくるのはライムエルのことばかり。それも仕方のないことかもしれない。今まで無名の、そしてそれほど特徴の無い男と愛嬌のある小さなドラゴン。どちらが人気になるのかは聞くまでもない。


「……俺ってここにいる必要あります?ライムだけここにいればよくないですか?」

「そんな拗ねるなって。お前さんもすげえ魔法使えるんだから、そのうちちやほやされるって」

「いや、そこまで目立ちたくないんでいいんですけど。ふと、ここに俺いなくてもいいんじゃないかなって思っただけなんで」

「お前とライムエルが主役だ。しっかりと胸張ってろ」


 一行はそのまま進んでいく。そして広場の噴水らしき場所に出ると、おもむろに馬車もどきが止まると、ブレイーブルが周囲に向かって叫んだ。


「聞けぃ!ここに新たなSランク冒険者が誕生した!名はノイン、そしてその相棒であるドラゴンのライムエル!彼らは暴食亡国の異名を持つランク外の魔物、プレデターデーモンプラントを倒し、この国を救った!!これよりその力の一端を皆に披露する!」


 どうやらここでライムエルにパフォーマンスをしてもらうらしい。ブレイーブルはノインとライムエルの方を向くと彼らに指示を出す。


「さて、ここは少し開けたところだからパフォーマンスするのにゃもってこいだろう。ラシュウさんから聞いているとは思うが頼んだぞ」

「あー、ここでやるんですね。んじゃライム、頼んだ」

『うむ、わかったぞ』


 ライムエルはノインの頭の上で羽を広げて上空を向く。そして口を開いて数秒すると、ライムエルの口からブレスが放たれた。まばゆい光と共に細長い熱線が空へと向かう。その後、上空で大きな音と共に爆発が起こると、それに驚いた人々の声が辺りから聞こえてくる。


 周囲の建物に被害はない。しかし、驚いた人が転んだりひっくり返ったりして少し怪我人が出たようだ。だがそれも含めて予想していたのか、ギルド職員や騎士たちが対応している。


「怪我人が出る事も予想してたんですね」

「ライムエルがブレス放たなくても、パレードじゃ怪我人出る事はあるからな。ほら、パレードを見ようと人が押し出されて倒れたりな。こういう催しの際は必ず警備の人員はいるもんだよ。ま、怪我人は出ちまったが気にするな。ギルドが回復魔法使えるやつ派遣するだろうさ。さて、そろそろこの場を締めるとするか」


 ブレイーブルが先程と同じように大声で辺りに呼びかける。


「皆、ドラゴンの力の一端、しかとその眼で見る事が出来たと思う!この力、彼らに危害を加えない限りは人々に振るわれることは無い!人々の身を脅かす、魔物の脅威を防ぐ力となってくれよう!さあ、新たな英雄を称えよ!」

「「「うおおぉぉぉぉっ!!!」」」


 辺り一帯に叫び声が広がる。人々の感情は驚きから興奮へと変わり、それが声へと表れる。その声を受けながら、馬車もどきは動きを再開する。その行先は王城。王を始めとしたこの国の重鎮たちに会わなければいけない。


「それじゃ、あとはうちの親父たちと会うだけだな」

「俺はただの平民なのに……。ここ一月の間に、貴族、王族ときて最後に王様ですか……」

「その一月の間にそれだけのことをお前さんはしたってこったろ」

「はあ……。それで、王様に会って何するんですか?」

「んー、普通だったらこれからよろしく頼むって挨拶だけなんだが……。お前さんの場合はプレデターデーモンプラントの件があるからな。それを倒した褒賞とあの魔石を売ってくれって話になるだろうな」

「そういえば、プレデターデーモンプラントの魔石は国に売らなきゃいけないって話でしたね」

「ああ、流石にあんなものがあるのが知れたらな。ギルドとかに売却しても最終的には国に行き付くだろうさ。ま、十分な値で買い取ってくれるから安心しな」

「それはいいんですけど、俺、王様たちの前でどうしたらいいんですかね?その辺りのこと、まったく聞いてないんですけど」

「とりあえず、動作は俺と同じようにしとけば大丈夫だ。あとは適宜アドバイスしてやるから安心しろ」

「お願いします……」


 そのまま王宮の前へと到着した一行は、ブレイーブルを先導にして中へと進んでいくのだった。




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