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第三十四話:王族との会談

 翌日からミレンは魔法の修行という事で、毎晩自分で魔法を使って料理を作り、それを食べてもらうことにした。ミレンは料理を作ったことがないので失敗の連続であったし、料理も美味しいものはできなかった。食材は均等に切ることは出来ず、火加減も上手くできない。加えて料理が完成する前に魔力が切れてしまうので、中途半端な出来になるばかりであった。


 しかしノインはそれをミレンに食べさせた。せっかくの食材を無駄にすることは許されない。ミレンは美味しくない料理を食べ、如何に自分が恵まれていることを知ることが出来たようだ。


 そして、ノインが一緒に料理したものを比較して食べさせることで、魔法の制御および魔力量があれば美味しい料理を作れることを実演してみせた。もちろん、魔法の力だけでなく調理技術も必要なのだが。


 あとは寝る前に魔力を使い切ることを日課とした。毎日一回は魔力を枯渇させているのでこのまま続けていればいずれは強力な魔法を扱えるようにもなるだろう。



 ノインはこんな風にミレンの修行に付き合いながら屋敷で過ごした。それが数日続いたある日、ノインはブライルから呼び出しを受けた。案内されるままに執務室へと行くと、そこにはブライルと一人の男がノインとライムエルを待っていた。


「ほお、なるほど。こいつが件のドラゴンとその主か」


 ノインが執務室へと入るなり男はそう言いながらノインとライムエルをよく見る。ノインは執事に促されてソファーに座った。


「急に呼び出して済まなかったね。彼が事前の連絡も無くに急に来るものだから」


 ブライルはそう言って横に座っている男を示す。男はフンッと鼻で息をした。


「さて、紹介しよう。彼はこのブルッグベルグ王国の現王の次男であるブレイーブル様だ」

「おう、俺がブレイーブルだ。よろしくな!」

「え、あ、はい。ノインです。頭の上にいるのがライムエルといいます」


 紹介されたのが王族の一人であった。いきなりのことだったのでノインもどう反応していいかわからない。そんな戸惑うノインを横にブレイーブルは自身のことを補足しながら言う。


「ま、一応王族ではあるが継承権は放棄してるからな。そんな固くならんでもいいぞー。俺は冒険者でもあるから気軽に接してくれ」

「えっ、冒険者?王族なのに?」


 驚いたノインは素の言葉で返すがブレイーブルは問題視せずに答える。


「ああ。面倒なんだよ、王族も。毎日毎日、武芸の稽古に帝王学や経済学などの勉強。社交や芸術鑑賞とかも仕事みたいなもんだぜ。やりたいこともできずにそんな生活を子供のころからしてみろ。嫌になって当然だろう?」


 やりたいこともできずに武芸や勉強を強要される。ノインにしてみれば料理が出来ないうえにそんなことをされたら逃げ出すだろう。ブレイーブルの言葉を聞いて同意するように頷いた。


「だろ?だから王立学園に通いながら冒険者やりつつ、高等部を卒業したら逃げ出したんだよ。俺は次男だったし、次の王には兄貴がなればいいからってな。んで、そのまま冒険者活動しながら生活してたらAランクになってたわけだ」

「Aランク!?」


 Aランクと言えば冒険者の頂点に近い、全冒険者の中でもほんの一握りの人物だ。そんな人物が目の前にいると知りノインは驚く。アルベールの冒険者ギルド長のラシュウもAランクであるのだが彼は既に引退しているし、よくノインの料理を食べに来てくれたお得意様でもあるので慣れもあった。


 だが目の前の人物は現役のAランク冒険者。加えて王族という立場もある。ノインには雲の上の人に感じた。


「そういうわけで、お前さんを推薦するのにちょうどいい人材ってわけで呼ばれたわけだ。

ま、それにこいつとは知らない仲じゃないからな」


 ブレイーブルはそういってブライルを指し示す。ブライルは苦笑しながらノインに言う。


「私と彼は王立学園での同級生でね。当時から今に至るまで、色々と世話をしたものだよ」

「はっ!そこは世話になったっていうのが普通じゃねえか?ま、その通りなんだがな」


 はっはっはと声を上げてブレイーブルは笑った。こういった遠慮のないやりとりをしているのを見れば、彼らが気の置けない仲だというのがわかるだろう。


「それで、ノイン君のことだがどうだね?Sランクへの推薦を請け負ってくれるかな?」

「ん?ああ、いいんじゃねーの?そのライムエルとかいうドラゴン、しっかりと制御できるんだよな、ノイン?」

「それは、はい。俺の言う事もしっかり聞いてくれますし。なあライム」


 ノインが呼びかけると、ライムエルはキューと鳴き声を上げて頷いた。


「意思疎通もしっかりできてるみたいだしな。俺もこいつらには敵う気がしないから、Sランクになっても大丈夫だろ」

「ブレイーブル、Aランク最強の【獄炎剣】と呼ばれる君でもか?」


 ブレイーブルは魔力を込める事で炎を生み出す魔剣を持っている。それを使って敵をバターのように斬る様から【獄炎剣】という二つ名がついた。高ランクの冒険者は大体が二つ名を持っているので、ノインもその内何かしらの二つ名でよばれることになるだろう。


「底が知れねえよ、そのドラゴンは。まったく、どういった経緯でテイムなんぞ出来たのやら……。それにノイン、お前もな。人には過ぎたる魔力量だろ、そりゃ。吹き飛ばねえか心配だぜ」

「えっ?見ただけで俺の魔力量がわかるんですか?」


 ノインのことを人には過ぎたる魔力量と評したブレイーブル。それを聞いたノインは信じられないとばかりに声を上げる。


「ああ、俺は魔眼持ちでな。だから魔力が見えるんだわ、そいつの魔力がな。Sランクの奴らも見たことがあるが、お前ほど濃密な濃さじゃなかったぜ?ま、魔力量だけで強さが決まるわけじゃねーが、お前には加えてドラゴンもいるからなあ……」


 ノインはその魔力量から大体の強さを測っているブレイーブルであるが、ライムエルに関してはまったく理解できなかった。ただ戦えば負けることはわかった。


「ま、そういうわけだから推薦はまかせとけ。王家にとってもメリットはあるから誰も文句は言わんだろ。んで、ギルドの方の根回しはどうなってんだ?」

「そちらはアルベールの冒険者ギルドのラシュウ殿がメインになって動いているよ。プレデターデーモンプラントをも倒すような人物なんだ。嫌とは言わせないと言っていたよ」

「おお、それそれ!その話ってマジなのか!?ギルドの方でも噂になってて調査中って話だったが」

「うむ。ノイン君、アレを見せてやってくれるかな」


 プレデターデーモンプラントを倒したのがわかるアレ。ノインは巨大魔石であると当たりをつけて異時空間収納に仕舞っていたプレデターデーモンプラントの魔石をその場に出した。


 いきなり現れた巨大魔石にブレイーブルは一瞬驚くも、すぐさま正気に戻ってじっくりと魔石を見る。


「ここまで純度の高い、それに巨大な魔石は初めて見るな……。確かにこれを見せられちゃ嘘だと言えねえな。確実にランク外の魔物だろう」


 ブレイーブルは頭をガシガシ掻くと、姿勢を正してノインを見据える。そしてゆっくりと頭を下げた。


「ノイン殿、そしてライムエル殿。この度は我が国を救っていただき感謝する。君たちがいなければ、我が国は滅んでいたかもしれない」


 先程の言葉使いとはうって変わり、ブレイーブルは礼儀正しくノインへと感謝の言葉を告げた。先ほどまでの対応が冒険者としてならば、今の対応は王家としての対応だろう。


「お、あ、頭を上げてください!俺は何もしてなくて、やったのはライムですから」


 まさか王族から頭を下げられることになるとは思わずに慌てるノイン。


「ノイン殿、君がテイムしたライムエル殿がやったとしてもだ。もし君がいなければ、そしてライム殿をテイムしていなければ、倒されていたのかわからないのだから。ゆえに、ノイン殿が感謝を受けるのは当然だ。もちろん、それを成したライムエル殿も」


 ここに来るまでに何度も同じようなことを言われたノイン。流石にそろそろ慣れるべきだろう。


「とまあ、堅苦しいのはこれくらいにしておくか。ノインもどうしていいかわからねえようだしな」


 ブレイーブルは頭を上げると、今度はまた先ほどまでの口調に戻してノインに言った。


「にしても、何もない空間からそんなデカいもんを出すか。時空魔法か、それ?」

「ええ、そうです」

「チラッとブライルから聞いてはいたが……。時空魔法を使えるのがノインで幸いだったな。このドラゴンを従えているなら手は出せねえし、そのうちSランクにもなるんだしな。不幸中の幸いだ。ちなみに時空魔法は誰でも使えるのか?」


 ブレイーブルの問いかけにノインはチラッとブライルを見る。時空魔法の覚え方は当分の間伏せるように言われていたからだ。しかし聞いてきたのはこの国の王族の一人であるブレイーブル。どうすべきかの判断がノインにはできなかった。


「それについては私が答えよう。ある条件を満たせば出来る」

「ブライルは聞いていたのか。ま、そりゃそうだろうな。国、いや世界に混乱が起きる。何か対策せにゃならんが……」

「世界に混乱が起きる、ですか?」


 ブレイーブルとブライルはノインに簡単に説明した。物流が変わると。戦争が変わると。


 時空魔法が使える人が増えれば、街から街への物資の移動が格段にやりやすくなる。今まで馬車を使って運んでいたものが一人で運べることができるのだ。それも大量に。馬に乗り継いでいけば物流のスピードも変わるだろう。それに伴って経費が下がることで、物資を作っていた者、運搬していた者、販売していた者など、関わる人たちの雇用も変わってくる。多くの人の人生が変わってしまうのだ。いい意味でも、悪い意味でも。


 そして戦争。一人で大量の物資を運べるならば、輜重部隊を伴わずに進軍することが可能だ。つまり、進軍スピードが格段に速くなる。時空魔法を使える者がいるかいないかで戦争の有利不利につながる。各国は時空魔法を使える者を確保しようと躍起になるだろう。それくらい変化を伴うのだ。



 ちなみに大量の物資を収納できるアイテムバッグという魔道具も存在する。しかしそれは現在確認されるだけでも片手で数えられるくらいしか存在しない。新たに作ろうにもどのようにすれば作れるのかわからず、ダンジョンや遺跡などで極稀に発掘されるくらいである。


 持っている者も簡単には手放そうとはしないので金額がつけられない。また、持っていることが知られればそれを奪おうと多くの者が襲いかねないので簡単には使えないので、冒険者の中では【幸運と不幸を招く魔道具】ともよばれている。


 また、アイテムバッグに少しでも傷がつけば中に入っているものがその場に出てきてしまい、アイテムバッグも壊れてしまうので、気軽に大量のものを入れるのも難しい。だから、時空魔法が使えるということは凄いことなのだ。



「とまあ、物流が変わるから簡単に世に出すわけにはいかないんだよ。下手すりゃ犯罪にも使われかねないからな。そういった意味でも国が関与できないSランク冒険者になっとくのは正解だな。んでブライル、これどうすんだ?各国で調整しなきゃ広められねえぞ?」

「宰相や財務大臣といった方々に面会調整の手紙を出そうとした矢先にプレデターデーモンプラントの件だからねえ……」

「ああ、そういう……」


 二人は何やら遠い目をしている。


「当分は俺だけが使える魔法という事で通しておきます」

「そうしとけそうしとけ。ブライルからも言われたかもしれんが、何かあったら俺の名も出していい。厄介事はこっちで引き受けてやるよ。その分利益もあるだろうからな」

「ありがとうございます」


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