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第十二話:異時空間収納でできること

 翌日、ラウルレッド伯爵からの招待を受けたノインは、迎えの馬車が来るまで部屋で大人しくしていた。朝食はとっくの昔に食べ終え、いつでも出られる準備はできている。


『そういえばノインよ。昨日屋台で買った料理、異時空間の中に入れたままではないか?』

「あっ、忘れてた!」


 昨日はラウルレッド伯爵から招待されたということで、猫舞亭に帰ってきてからいろいろと考え事をしていた。貴族と直接会って話をするなんてことは初めてのことなので、何も手につかず、落ち着かなかったのだ。


 ノインは異時空間の入り口を作ると、その中から昨日入れた茹でたトウモロコシを取り出す。それは茹で上げた直後のように熱々で、昨日買ったばかりのものと遜色ない。しっかりと異空間内の時を止めることができているようだ。


「よし、ちゃんと時が止まってるみたいだ!これでいろいろなものを買って保存しておく事ができるな!」

『それはよかったのう。それで、そのトウモロコシはどうするのじゃ?』

「なんだ、食べたいのか?」


 ノインが茹でたトウモロコシをライムエルに手渡すと、ライムエルは嬉しそうに芯ごと丸かじりする。昨日はそこまで美味くないと言っていたはずだが。


 しかし、異時空間収納が使えるようになったと言えど、その中に入れる物がなければ宝の持ち腐れだろう。ノインの一番の目的は、旬の食材を買いだめして保存すること。


 しかし、そのためにはある程度の資金がいるが、そのお金がほとんどない。一昨日の依頼のおかげである程度の余裕はあるが、食材を買い溜めするには程遠いだろう。お金を稼ぐ必要がある。


(適当な討伐依頼でも受けて、ライムの実力を測るのもいいか)


 ライムエルがブレスを放つ姿は見たが、実際に戦っているところはまだ見ていない。この世の全ての魔法を扱えるという話なので、高ランクの討伐依頼でも問題はなさそうだが、その程度戦えるかは把握しておきたいところだ。


(いや、それよりも肉が美味い魔物を倒して、その肉を異時空間に収納しておくのもアリか)


 別に旬の食材にこだわる必要はない。今までノインには手が出せないような魔物をライムエルに倒してもらい、その肉を売り払わずにすべて保管しておくのもありではなかろうか。なにせ、どこからでも取り入れができる倉庫が手に入ったようなものなのだ。


(ただ問題は、倒した魔物をどうやって運ぶかか……)


 仮に大型の魔物を倒しても、ノインとライムエルだけでは運べないだろう。いや、もしかするとライムエルなら爪で掴んで飛べば、運べるかもしれないが。


 街の近くで倒したのならば、人を雇って運んでもらうのもアリだが、高ランクの魔物は基本的に人里から離れた山間や森の奥深くにいることが多い。そうなると人を雇うのも難しいだろう。


(自分で解体できるなら、その場で解体して異時空間に収納するんだが……)


 ホーンラビットなどランクの低い小型の魔物なら解体もできるが、大型の魔物や高ランクの魔物になると、ノインには解体できない。そういった魔物は、ギルドにいる解体屋といった、魔物の解体を本職にする人らに頼る必要がある。


 ノインも機会があれば解体の技術を身につけたいとは思っているが、なかなかそういう機会に巡り合えない。腕の良い解体屋に伝手はないし、そもそも高ランクの魔物が運び込まれることは稀だ。


(四肢だけ切り分けて、異時空間に収納して街まで運ぶか?いや、待てよ)


 ノインはふと思い立ち、異時空間の入り口を開く。その入り口は手のひらくらいの大きさであり、あまり大きなものを入れることはできない。


 しかし、魔法とはイメージの具象化。であれば、イメージ次第で異時空間の入り口の大きさも変えられるはず。ノインは異時空間の入り口を閉じ、再度入り口を開こうとする。今度は、先程よりも大きくなるようにイメージをして。


 すると今度の異時空間への入り口は、ライムエルくらいの大きさで開く事ができた。イメージ次第で異時空間の入り口の大きさも変えられるということがわかった。


 さらにノインは、その入り口を動かす事ができないかを試してみようとする。魔物を攻撃する際、火や風の魔法を移動させる(操る)のは普通に行うことだ。であれば、同じように異時空間の入り口も動かす事ができるだろう。


 ノインはと異時空間の入り口を移動させるイメージをする。そのイメージは、魔物を魔法で攻撃するのと似ている。違うのは、何をもって攻撃するのか。今回は、異時空間の入り口を魔物に向かって放つイメージだ。するとどうだろう。ゆっくりと異時空間の入り口が前へ前へと移動し始める。


(こうやって異時空間への入り口の大きさを自在に変え、さらに動かす事ができるのなら……)


 ノインは異時空間の入り口をさらに大きくし、部屋に備え付けられていた椅子へと向かってゆっくりと移動させる。それが椅子に当たった瞬間、その椅子は部屋の中から消え去ってしまった。どうやらノインの異時空間の中に収納できたようだ。


「よっし!これならどんな大きさのものでも収納できそうだな!」


 思わず声を上げて喜ぶノイン。当初は旬の食材の保管目的であったが、さらに倒した魔物の保管もできそうだ。これはノインにとって、かなり使い勝手のいい魔法だろう。ライムエルの協力があれば、どんな魔物の肉だって手に入れられるかもしれない。


『ほう、昨日の今日でそこまで自在に操るか。流石はワシの主じゃな』


 すでにトウモロコシを食べ終え、ノインの魔法の行使を黙って見ていたライムエルが念話で声をかけてきた。


『異時空間収納を扱うのに慣れたら、今お主がやった異時空間の入り口の操作について教えようと思っておったが、その必要はなかったみたいじゃの』


 一人でそこに辿り着いたノインにライムエルはご満悦のようだ。


『これで大型の魔物を倒しても、楽に持ち運びができる!肉が美味い魔物を狩って食べられるし、それ以外の部位は金策にも使えるぞ!そのお金で肉以外の食材も手に入れられる!これぞ正のスパイラルだ!!』


 今以上に豊かになる食生活を想像するノイン。その素晴らしさを共有しようとライムエルに念話で話しかけるが、ライムエルは一つの疑問が頭に浮かんだ。


『それは素晴らしいことじゃが、時空魔法を知られるのはまずいのじゃろう?その持ち運びに、異時空間収納が使われていることを知られないようにするのはどうするのじゃ?』


 ノインはまるで冷や水をぶっかけられたかのように、一気にテンションが下がった。


『やっぱそれなんだよなあ……。せっかく便利な魔法を覚えても、気軽に使えなきゃ意味がない。どうするかなあ……』


 もう騒ぎになるのを受け入れ、ノインが時空魔法を使えるということを明かすべきだろうか。ライムエルが従魔になったおかげで、ノインの周りは既に十分騒ぎになっている。ノインが時空魔法を使えるということが知られても、今の状況とあまり変わらないのではなかろうか。


「ノインさ~ん!馬車の御者の方がノインさんをお呼びですよ~!!」


 部屋の外からミルナの声が聞こえてくる。どうやらラウルレッド伯爵のところへ行くための馬車が到着したようだ。異時空間収納でいろいろと試しているうちに、迎えの時間になったらしい。


「ありがとう!すぐに行くよ!!」


 既に準備は出来てある。ノインは立ち上がって部屋から出ようとすると、ライムエルも飛び立ってノインの頭の上に着地する。


(さて、いったいどうなることやら……)


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