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第十一話:貴族からの招待状

 ノインとライムエルは、屋台通りでの食べ歩きを続けた。オーク肉の串焼きを今度はソースをじっくりとつけて何度も焼き重ねたものや、肉を細かく刻んで味付けしたものをパンに挟んだ料理などなど。


 美味い料理もあるが、判断に困る味の料理もあった。だが、そういう料理食べることも勉強になる。この料理にこのハーブを加えれば美味くなるだろうとか、この料理をダメにしているのはこの調味料じゃないか、といったように今後自分で料理を作る際の参考になるのだ。


 そうやって食べ歩きを楽しんでいると、後方からノインに声をかけてくる女性がいた。


「あ、やっと見つけましたよ、ノインさん!」


 声をかけられたので振り返ってみると、女性は冒険者ギルドの受付嬢であるミーシャだった。ミーシャはノインの側まで駆け足気味にして近づいてきたが、急いできたためか息が乱れている。


「ミーシャさんじゃないですか。俺に何か用でも?」


 乱れた息を整えてノインに向かい合ったミーシャは、ノインを探していた理由を話し始めた。


「ノインさん、ギルドマスターがお呼びです。至急ギルドの方まで来ていただけますか?」


 ギルドまで至急来てほしい、と聞いてノインは顔をしかめた。今までこのアルベールの街で過ごしてきて、ノインがギルドから呼び出されたことは一度もなかった。ノインは下から数えた方が早いDランクの冒険者だ。呼び出されることの方がおかしいのだ。


「ギルドからの呼び出しですか……。理由をお聞きしても?」

「すいません、理由は私も詳しくは聞かされていないのです。ですがおそらくは、ドラゴンに関することではないかと思いますが」


 ミーシャも詳しくは知らないが、ライムエルの件だという。というよりも、それ以外で呼ばれる理由はないだろう。それ以外でノインは特に問題は起こしていないのだから。


 とりあえずギルドまで行ってラシュウから詳しい話を聞くしかないだろう。ノインはミーシャに承諾したと伝える。


「わかりました、詳細はギルドでラシュウさんに聞きます。これを食べ終えたらギルドへ向かいますね」


 ノインは右手に持つ串焼き肉をミーシャに見せた。


「わかりました。では、私は業務がありますので先に戻っていますね」


 ノインに伝えることだけ伝え、ミーシャは駆け足でギルドの方へ向かって行った。ノインも急いで串焼き肉を平らげ、ギルドへと向かおうとする。


『昼の食事はこれで終わりか……。もう少し食べたかった気もするがのう』

『結構な品数を食べたし丁度いいよ。これ以上は食べ過ぎだ』

『仕方あるまい。では、夕食は何にするんじゃ?』


 昼食を終えたばかりなのに、もう夕食について考え始めるライムエル。満腹で今は何も考えたくないノインに、それを答えることはできなかった。



――――――――――――――――――――



 冒険者ギルドに到着したノインは、そのままギルドマスターの執務室に通された。そこには、昨日と同じように書類仕事をしているラシュウがいた。


「おう、来たか。とりあえず座れ」


 ラシュウはノインに座るように勧める。ノインがソファに座ると、ラシュウもノインの向かい側のソファへと移動してくる。書きかけの書類を途中で投げ出すほどだ。


「至急の用と聞きましたが、何かありましたか?」


 ノインはすぐに本題に入るべく、呼び出された用向きをラシュウに訊ねた。ラシュウも前置きもなく、この場にノインを呼び出した理由を簡潔に説明する。


「さっき、ラウルレッド伯爵からの遣いの者から冒険者ギルドに手紙が届けられてな。その内容は、明日の十一時にドラゴンを従魔にした冒険者とそのドラゴンを招待したいとのことだ」


 ラウルレッド伯爵は、このアルベールの街を治めている領主である。堅実な手腕で領地を年々発展させており、ブルッグベルグ王国内でも評価の高い貴族の一人だ。


 そんな人からの呼び出し。何の話かは想像しづらいが、ライムエル関係であることは間違いないだろう。


「早速貴族からの呼び出しですか……。それも明日とは急な話ですね。そういうのは面倒なんでお断りしたいんですが」


 ノインは出来得る限りそういう話は断りたかった。面倒だという理由も当然あるのだが、ライムエルという力を持つドラゴンを手にした途端にこういう話がくるということは、その力を利用しようとしているのではないか。そう疑っているからだ。


 しかし、ラシュウからは無情にもそれは難しいという回答をする。


「お前個人に宛てられた手紙なら、全てお前さんだけで完結するからそれでもいいんだけどよ。今回の問題はお前に対してじゃなく、冒険者ギルドに対して宛てられた手紙なんだよ」

「それに何か問題が?」

「つまりだな、これは冒険者ギルドに対する要請なんだよ。お前をラウルレッド伯爵のところまで連れて来いってな」


 貴族からの招待なので、よっぽどの理由がない限りは冒険者ギルドとしては断れないということらしい。ノインが行きたくないから断ったといっても、それは冒険者ギルドの責任になる。一人の冒険者のわがままで、冒険者ギルドの評判を落とすわけにはいかないということだろう。


「そういうわけだから、明日ラウルレッド伯爵のところに行ってもらうぞ。もし断るならば、お前を冒険者ギルドから除名せねばならん」

「えっ!?そんな大事になるんですか?」


 流石に断っただけでそこまでされるとは思ってもみなかったノイン。ラシュウの言葉に驚きを隠せない。


「相手の立場に立って考えてもみろ。街を預かるのなら、ドラゴン及びその主の危険性の有無を確認するのは当然だろう?従魔である証明はしたが、ドラゴンは特級戦力だ。街や国を滅ぼすと言われるその力が、こちらに向かないと証明できたわけではないからな」


 ラシュウは続ける。そんな特級戦力であるライムエルとその主であるノインが呼び出しに応じない、すなわち冒険者ギルドが今回の要請を断るということは、冒険者ギルドがブルッグベルグ王国に対して反意を持っていると疑われても仕方がない、と。


 だから、ノインが本気で行く気がないというのならば、ノインを冒険者ギルドから除名して、冒険者ギルドは関係ないということをアピールしないといけないらしい。万が一ということがあるからだ。


 まさかそこまでの大事だとは思ってもみなかったノイン。そういうことならば、行くしか選択肢はないだろう。


「しかし、俺は貴族にはいいイメージがなくて……」


 ノインは以前王都で暮らしていたときの出来事をラシュウに話し始めた。王都というだけあり、そこには貴族もたくさん住んでいる。そして、貴族というだけで傲慢な態度で街の人に接していた輩を何人も見かけた。


 だがその程度ならまだマシで、貴族という身分を盾に、見た目麗しい平民女性を人通りのない場所で手籠めにしようとした輩もいた。偶々その現場を見かけたノインが、魔法でその貴族とお供を撃退し、女性はなんとかそこから逃げることができたが。


 それ以来、ノインは貴族という人種を信じられなくなった。今回の招待を受けたくないというのも、貴族と顔を合わせたくないからだといってもいい。


「まあ、そういう腐った貴族がいるのも否定はできん。だが、ラウルレッド伯爵はそんな輩とは違うぞ」


 ラウルレッド伯爵は冒険者への理解も深く、冒険者ギルドへ多額の援助をしている。ラシュウも何度か対面して話をしたこともあり、彼の人柄についてはある程度知っている。尊敬に値する貴族といっていい。


 私財を投じてスラムの改善や若者の働き口の支援などもしている。自分のことは二の次で、国のため、街のため、人のためにお金を使うような人物なのだ。相手が平民だからといって下に見ることもない。貴族として立派な人物だ。


 貴族社会で生きている人なので、政敵を追い落とすようなこともするが、ラシュウは信用できる人物だと自信をもって言えるという。


「これはギルドマスターとしてではなく一個人としての意見だが……。お前、誰かしらでいいから権力者の庇護下に入っていた方がいいぞ?」


 ドラゴンを従魔にした以上、権力者から目をつけられるのは時間の問題。遅かれ早かれ今回のように貴族が接触してくる。であれば、早めに権力者の庇護下に入っていた方が後々楽であるとラシュウは言う。庇護下にいるのであれば、そういう話は庇護をしてくれる権力者にすべて丸投げできるのだから。


「もしくはお前さん自身が貴族になるとかな。子どもとはいえドラゴンを従えてるんだ。騎士爵くらいなら国も簡単にくれるだろうさ」


 流石にそれは御免被りたいノインだった。貴族になるということは国に尽くすということだ。ライムエルの力をあてにされ、理不尽な命令にも従わざるを得ないかもしれない。自由に行動することもできなくなり、他国への食巡りに行くことも難しくなるだろう。


 加えて領地などを賜りでもしたら、どうやってそれを管理していけばいいのか。貴族同士の謀略にも巻き込まれかねない。何故わざわざそういうことに首を突っ込まねばならないのか。


「まあ、その話は置いておこう。貴族が気に入らんのはわかるが、今回のラウルレッド伯爵からの招待は受けとけ。悪いことにはならんと俺が保証する」

「はぁ、わかりました」


 ラシュウがそこまでいう人物だ。それならば信用できるかもしれない。それに、どっちにしろ行くしか選択肢はないのだ。なら、ラシュウの言うような尊敬できる人物であってほしいとノインは思う。


「よし、なら明日お前さんの宿まで馬車をやる。それに乗って行け。服とかも普段通りでいいぞ。そういうことにうるさくない御仁だからな」


 それは非常に助かる話だった。


「これで話は終わりだ。明日の手配はこちらですべてやっておくから、お前さんは帰っていいぞ」


 ラシュウはそういうと、自分のテーブルに戻り書類作業を再開する。ノインは一礼して、執務室を後にした。


『む、話は終わったか?』


 部屋を出てしばらく歩いていると、ライムエルが念話で声をかけてきた。


『何だ、聞いてなかったのか?』

『何やら難しそうな話をしていたからな。寝ておったわ。それで、結局は何の話だったのじゃ?』


 どうりで大人しかったはずだ。今起きたのは、ノインが動いたからだろう。ノインは歩きがてら、念話で先程のことを簡単にまとめてライムエルに伝えた。


『ふ~む、なるほどのう。この街の偉い奴に呼び出しをくらったということじゃな。で、お主はワシにどうしてほしいのじゃ?』

『どう、とは?』


 ライムエルが何やら要領を得ないことを言ってくる。


『会うのが嫌なんじゃろう?であれば、ワシがそやつを殺せば会う必要はないのではないか?』


 ライムエルはノインのために言ってくれているのだろう。昨日もそうだったが、人の社会を知らないからこそ、そんな物騒なことを平然と言ってしまうのだと思う。ライムエルには”食”以外に、その辺りも教えていく必要があるだろう。


 ノインはライムエルに人前ではおとなしくしているように伝えながら、猫舞亭へ帰るのだった。


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