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プロローグ

初投稿です。よろしくお願いします。

「大丈夫だよな……?崩れてきたりとかしないよな……?」


 俺は目の前を浮遊している背負い鞄くらいの大きさであるドラゴンと、そのドラゴンが作り出した頭上の縦穴を交互に見る。


「フゥハハハハハァァァァァーーーーーーーー!!どんなもんじゃ!!」


 ドラゴンはこちらの方を見ながら体を反らして高らかに笑った。人とは違うためにわかりにくいが、間違いなくこのドラゴン、ドヤ顔をしている。ドラゴンのドヤ顔をこの目で見ることになるとは思わなかった。


「さて、いつまでもこんな暗い穴倉にいるのはごめんじゃ。さっさと外に出るとしよう」


 ドラゴンはパタパタと羽を動かして頭上まで移動すると、その両足でガシッと俺の頭を掴んだ。


「……ちょっと待て。爪がくいこんで痛いんだけど、いったい何をする気だ?」

「よしいくぞ!!暴れるなよ!?」

「は?」


 その声と共に地から離れる足。


「おいぃぃぃぃっ!?」


 間違いなく浮いている。いや、飛んでいる。絶叫を上げるもどんどん浮上していく。頭をドラゴンの足で固定されているため首を動かすことができないが、俺は目を動かしてなんとか下を確認する。


『あっ、今これ落ちたら死ぬな。というかこれ、頭とか首がかなり痛いんだけど大丈夫だよな?それよりも、これ傍から見たらドラゴンに捕食されたように見えない?』


 などといったことが脳裏を過ぎていく。下手に動いては落とされる危険もあり、ドラゴンのなすがままにされている。


「はははっ!!美味い食べ物を求め、いざ行かん!!」


 いったいどうしてこうなったのかと、俺は頭を痛めた。いや、物理的にも痛めつけられているのもそうだが、加えて展開が早すぎて思考が追いつかないのが原因で。頭上で笑い叫ぶドラゴンの声を耳にしつつ、彼は今の状況から現実逃避するために、今日の出来事を振り返ることにした。



――――――――――――――――――――


「それではノインさん、頑張ってくださいね」

「ええ、まかせてください。それでは行ってきます」


 受付のミーシャさんにそういって、冒険者ギルドを後にする黒髪黒目の青年ノイン。このブルッグベルグ王国では黒髪は珍しく、目立ちやすい特徴だと言える。


 ノインが今日受けた依頼は【御影草の採取】である。御影草は、洞窟など日が全く当たらない場所でしか生えない薬草の一種で、非常に見つけ辛い薬草だ。しかし、ノインにとってはこの【御影草の採取】が、一番簡単で実入りがいい依頼なのである。


 というのも、数か月前に御影草が群生している洞窟を運よく見つけたからだ。その洞窟は、今ノインが住んでいるアルベールの街から南に少し離れた、ライムエル山と呼ばれる山の中腹辺りにある。


 洞窟の入り口周辺は鬱蒼とした木々が覆っており、近くまで近づかないと洞窟があることなんてわからない。中に人が入った形跡も見つからなかったため、知っている人物はノインくらいだろう。他の人に取られている心配はなく、簡単に目標数の御影草を採取することができるはずだ。


 また、上限はあるものの、御影草はある程度は多めに納品しても引き取ってくれる。もちろん、その分報酬も上乗せされるので、納品すればするだけ収入も増える。ありがたいことだ。


 予め準備を済ませておいたノインは、そのまま南門へと歩いていく。動きやすいローブを身に纏い、右手には魔法使いなら必ずと言っていいほど持っている杖を装備。そして、背中に水筒やお弁当などを入れた鞄を背負っている。


 今日受けた依頼ならば、ノエルなら三時間程度で目的を達成して街に戻って来られるだろう。しかし、全ての依頼がそう簡単に済むわけがない。初心者用の依頼を除けば、数時間で終えられる依頼の方が少ない。


 そのためノインは、依頼受ける際はいつもお弁当を準備していた。やむを得ぬ事情でもない限り、味気ない携行食をノインは口にすることはない。食事はノインにとって、最大の癒しだからだ。『身も心も元気にするには美味しい食事は欠かせない』と常々言っている。


 今日のメニューは、自作のサンドイッチだ。料理が趣味であるノインは、宿の厨房を借りて料理を作ることがある。ノインの料理の腕前はかなりのものであり、たまに作り過ぎて宿屋の夕食として供される、大体が即完売する。ノインの料理にはファンも多く、「料理屋を開いてくれと!」いう声も多々聞こえるくらいだ。


 それはさておき、ノインは南門に着くと顔なじみの衛兵に挨拶をしつつ、外へ出るための手続きをする。といっても、冒険者ギルドが発行しているギルドカードを見せて記帳するだけなので、簡単に済む。ギルドカードが冒険者の身分証明書にもなっているので、そこまで時間を取られることはないのだ。


 手続きを済ませて街の外へ出ると、ノインは目的地の方へ向かって歩を進める。目的地までは何度か足を運んでおり、道に迷うこともない。それに、ライムエル山には魔物がいないから、目的地まで安全に行くことができる。魔物だけでなく、空を飛ぶ事が出来る鳥すら見かけることはない。まるでライムエル山を避けているかのようだ。人によっては不気味な山と言って近づかないが、特にこの山で問題が起こったなんて聞いた事もない。そこまで気にする必要はないとノインは思っている。


 というわけで、何も問題なく件の洞窟へと辿り着いた。ノエルは洞窟の中を照らすために、魔法で光球を作り出す。辺りを照らすこの魔法、魔法使いなら使う事が出来るのは当たり前。前方を光球で照らして視界を確保しながら、ノインは足元に注意して洞窟の中へと入り込んだ。


 洞窟と言ってもそれほど大きなものではなく、数分進めば最奥へと辿り着く。その一角に目的の御影草が生えていた。


「よし、あったあった」


 一つ一つ丁寧に御影草を採取し、袋の中へ入れていく。取り尽してしまうと生えてこなくなるため、全て採取するなんて真似はしない。とはいっても、ここには結構な数が生えているので、一人で取り尽したとしても持ち帰れないだろうが。


「さて、これだけあれば十分かな。こういう楽で報酬がいい依頼ばかりならいいんだけどな。さて、街に戻るとするか」


 御影草を手に入れることができたので、あとは街に戻って報告すれば依頼完了。これだけで数日は働かなくてすむくらいのお金が手に入ると思うと、自然と顔に笑みが浮かんでくる。ノインはさっさと洞窟を出ようと出口の方に足を向ける。が、そのまま歩き出すのではなく、下を向いた。地面が動いたような気がしたように感じたからだ。


「おいおい。これってまさか……」


 地面は動いたのではなく、正確には揺れたのだった。その揺れは次第に大きくなり、立っていることすらままならない。ノインはバランスが保てず、その場で転倒してしまった。


「こんな時に地震か!?」


 激しい揺れのせいで、頭上から石が落ちてきている。このままでは洞窟が崩れかねない。いや、その前に潰されてペシャンコになってしまうかもしれない。


「ちょ、マジかよ!!早く外にでないと……!!」


 ノインは這いつくばりながらも、頭を庇いつつ入り口の方へ戻ろうとする。だが急に揺れとは違い、一瞬の浮遊感を感じた。そしてそれに続く、まるで高いところから落ちるかのような感覚。ノインは慌てて下を見ると、先ほどまで彼が体重を預けていたはずの地面がなかった。


「うそだろおおぉぉぉぉっ!!」


 地盤が弱かったのか崩れていく地面。ノインはどうすることもできず、そのまま落下していくのだった。



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