そして
祭りの朝、今までに見たことのないほどの荷物を持ったカエルが、アズサの家を訪れました。
「ピクニックにでも行く?」
微笑みながらアズサはいつものように前足を組もうとしますが、カエルは荷物をグッと持ち、組ませる隙間を作りません。
「今日はさよならを云いに来たんだ」
「え?」
「ここには長居しちゃったからね。そろそろ行くよ」
アズサは辛うじて意味を飲み込み、笑顔を作ります。
「新婚旅行? でも、式もまだ挙げてないし」
カエルは不思議そうです。話が通じていない。
「いや、だから、旅を再開するんだよ。ここは僕の島じゃないもの」
「何を云うの? ここはあなたの島よ? みんなそう思ってる」
「僕は旅人だよ」
カエルの平然とした言葉が、アズサにはとても残酷なものにしか聞こえませんでした。
「私のこと嫌いになったの? だからそんな酷いこと云うの? 私、頑張るから。あなた好みの女になれるように頑張るからっ!」
カエルには、アズサのすり寄るような言葉がわかりません。
「君のことは好きだよ。この世界の誰よりもキレイだし、島の生活は今までとこれからを合わせても人生で一番幸せな時間だったと思う。だから行くんだ」
「私、あなたの云うことわからない。いつ戻ってくるの?」
「戻るわけないよ、僕は男だもの」
カエルとアズサは、互いに相手の意図が、わかりません。
幸せな生活を望み相手も同じだと思っていたアズサと、旅人であり幸せや安らぎより冒険を求めるカエル。
互いに相手がなぜ違うのかが、わからないのです。
「ひどいよ、私、あなたしか居ないのに。あなた以外にこんな気持ちに為らないのに、こんな気持ちにするなんてっ」
「僕もこの世界中でアズサが一番好きだよ。だから」
「聞きたくないよ! わからない、わかりたくないよ! 大好きなのにキライ! カエルなんて死んじゃえ!」
アズサは泣くように鳴き、鳴くように泣き、家の中に跳びました。
けろけろけろ、けろけろけろ、雨乞い蛙の、ただただしとしと涙雨。
「……今日も晴れるから。花火、見てね」
女を泣かせても、それでも男には進む道が見えてしまうのです。
安らぎよりも素晴らしいものを見付けたオスは999匹居ても、みんな銀河に行ってしまうのです。
「早めに決着させましょう!夜は晴れさせたい!」
この島の丈夫な木を使って作ったボートをカエルが海へと押し出すと、晴れ渡っていた空が曇り出しました。
「僕にはあなたが神様か、魔法使いか、冬の女王か、オデン屋かもわからない! けれど、僕はここを出ていきます!」
この島は、明らかにおかしい場所でした。
敵もなく餌に困らない楽園。
増えすぎないようにオタマジャクシの数を調整し、嵐で外界から断絶する力を持つ何者かが蛙たちのために作った箱庭であると推測は簡単でした。
「お願いします。ここから僕を出してください。僕はまだまだ外を見たいのです」
空は一層暗くなります。外には出さない、ずっとこの島に居続けろと云うように。
「僕の旅は僕が決めます!」
バタ足でカエルは大海原に戦いを挑みます。逆巻く波、向かい風。
カエルは決して止まりません。
その日の夜。打ち上がった花火は、やはりイビツに曲がっていました。
しかし、その色は赤ではなくやや薄いピンク。初めての島民たちの見た赤でない花火は、アズサが好きと云った木の実と同じでした。
「カエル……!」
アズサは跳ねます。ピョコピョコピョコピョン。
最初にカエルと出会った林を抜けて、浜辺へと急ぎました。
既に空は晴れていましたが、そこにはカエルの姿はありません。
嵐を抜けたのか、嵐に巻き込まれて溺れたか。
しかし、アズサにはカエルが生きていると思えて仕方有りません。
漂着していた袋は油と火薬の匂いが残り、カエルが火の力で嵐に戦いを挑んだのだと感じたのです。
「絶対、逃がさないんだから……!」
男は冒険するもの、しかし女もまた、戦う生き物なのです。
カエルシリーズ第四作、いかがだったでしょうか?
カエルは死んでしまったのか、アズサとの恋の行方は?
マジで作者も考えてないので、作者も知りたいです。
なろう公式企画、冬の童話祭辺りで再開するかも……?
企画プロット待ちですなー。