そのため
この島は楽しいことばかりです。
カエルが目覚めればアズサが居て、食事のあとは外敵を気にせず、ゲコゲコゲロゲロと合唱。
聞き付けた島民たちも加わり、名前も知らない蛙同士で心行くまで声を枯らします。
夜は静かに過ごしたり、たまにお祭りが開かれますが、お金のやりとりは有りません。
皆で準備をして皆で楽しむお祭りなのです。
夜店が並び、タコの形をしたタコの入っていないいタコヤキ、チョコの周りにバナナのスライスを付けたチョコバナナ、シロップにカチワリ氷を浮かべたカキ氷などの屋台が並びます。
間違ってると云おうかとカエルは思いましたが、その前にアズサに手を引かれました。
「踊ろう! カエル!」
手に持った小さな太鼓を地面に置かれた棒にぶつけるアベコベなおはやし。
もちろん振り付けはありません。ただ皆が楽しく踊るのです。
ぺたぺた、とんとん、ぴょんぴょこぴょん。げろっぱげろっぱ。
ぺたぺた、とんとん、ぴょんぴょこぴょん。げろっぱげろっぱ。
その内トノサマガエルとツノガエルが皆に喜んで欲しくて作ったものが打ち上がりました。
夜空に広がったのは赤い曲がった輪っかです。
外の世界ではもっと大きく見事なものをカエルは何度も見ていました。
「カエル知ってる? あれは花火って云うの! とってもキレイで私、好きなんだ!」
オタマジャクシのように無邪気なアズサの笑顔に、カエルは生きていて初めての感覚を覚えました。
ずっと寒く食料も少ない井戸の底で一匹で暮らし、冒険ではスリルと興奮の連続。そんな生き方を幸せだと不満を持たなかったカエル。
ただ今は隣に座るアズサの肩を抱き、不格好で音ばかり大きな花火を眺めます。
「そうか、これが安らぎ、なんだ」
「変なカエル。哲学者にでもなったの?」
ヒンヤリとしているはずのアズサの肌が妙に暖かいとカエルは感じました。
「僕もここの花火、好きだな……」
「ずっとこのまま。……世界が終るまで」
肩を寄せ、やはり不格好なリンゴ飴が溶けるまで、ふたりは空を眺めていました。
翌日からカエルは、ツノガエルやトノサマガエルの元へ行き出しました。
彼らは伝聞だけで花火を作っており、カエルが外で本物の花火を見たと聞いて、興奮していました。
彼らは次のお祭りで、もっと別の花火を皆に見せるために、アイデアが欲しかったのです。
それからは三人で花火を作る日々が続き、寂しがるアズサも、お母さんから【男の人は何かに熱中するもの】と諭されます。
そして、次の祭りの日は、あっという間に訪れるのです。