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まず


 彼は井の中の(カエル)でした。

 諺ではなく実際的に井戸の底に住んでいたカエルなのです。

 井戸を出て海を見てから、長く辛く危険で充実した旅が続いていましたが、今回ばかりは正真の生命危機。

 荒れ狂う海原、弾ける波間、空は朝であることを忘れて泣きじゃくり、間にあるものを海へと押し込みます。

 カエルの乗っていた丸木で出来た船はもう海中へ沈み、カエルは海へと投げ出されていました。

 冷たい海水に合わせてカエルの身体は冷たくなり冬眠前のように眠くなります。

 寝たらダメだ。カエルは自分に言い聞かせます。

 カエルは真水の中でなら活動できますが、塩水には肌を痛め付けられ、今寝てしまえば溺れて、死んでしまいます。

 海は体力と交換とばかりに、カエルに眠気と絶望を与えようとします。

 しかし、カエルには後悔も絶望も有りませんでした。自分の思うままに旅をして、思うままに生きたのです。

 今日、荒れ海に出たことも自分の決めた旅。自分のために生き、自分のために死ぬことが何よりの贅沢であると知っていたのです。

 最後まで水掻きが破けて手足が痛くとも泳ぎ続ける。諦めでも自殺でもなく、ただ自分の旅が終わるという事実として見ていました。

 そして、終わりが来ました。大きな両目は塩に痛み、筋肉がビクビクとしてカエルは眠るように意識を失いました。





 砂の感触とお日様に起こされて、カエルはピョコンと跳ねました。

「あれ? 生きてる?」

 誰も居ない砂浜は、ゴミひとつない洗濯されたような白さ。

 カエルは天国かと思いながら、切れて血の滲む水掻きや跳ぶ度に痛む全身に生きていることをなんとか理解します。

 荷物を全て失い、食料も真水もない浜辺。カエルは歩きだします。いつものように。冒険は続くのです。






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