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女海賊

作者: 洲本六文



「いいメアリ?あなたは男の子よ。」

「メアリ、男として立派に戦って来なさい。」

私はそう言って育てられた。

祖母の金銭的援助の為に、幼い頃から母に男として育てられ、スペイン継承戦争にも従軍して、そこで出会った夫は早死してしまい、メアリはその悲しみの中、西インド諸島に向かう船に乗っていた。

「まだ20歳にもなっていないのに、どうして私がこんな目に合わなきゃいけないの?」

船から見えた夕陽は凄く綺麗で、ゆっくりと地平線に沈んでいき、一瞬、緑の眩い光を放ったかと思うとあたりは夜に変わっていき、いつの間にか月が出ていた。

メアリは思わず月に呟いていた。

「いっそ殺して…」


そんな波乱万丈な人生を送るメアリとは逆にアメリカの裕福な家庭で育った16歳の少女アンは裕福な暮らしに退屈していた。

ある夜更けのことだった。

「そろそろいい時間ね。」

この頃、アンは夜な夜な家を抜け出し、海岸を歩くのが好きだった。

いつものように海岸を歩いていると、海の方から近づいてくる無数の光が見えた。

アンは怖いと思ったけど、何故か不思議な好奇心が胸のあたりから込み上げてきて、その場から動けなかった。

無数の光の正体は小舟に乗った男達だった。

男達はアンを取り囲んだ。

「おい、見ろこいつの服。きっと良い家の子に違いねぇ!」

「それに結構可愛い顔してるじゃねえか。ついでにさらってこうぜ。」

男達が私を見ながら、そんなことを言っている時、男達を押しのけて一人の帽子を被った顔立ちの整った男がやって来た。

「おいおいおい。待て、待てお前ら。船長を差し置いてこんな豆粒みたいな女の子に手を出そうとすんじゃない。」

その男は私の方を見ると、綺麗にお辞儀をして、こう言った。

「御機嫌よう、お嬢さん。うちの男達がすまなかった。さっ、早く家に帰りな。こんな夜更けにこんなところを歩いてたらこわーいこわーい海賊が出るぜ?」

周りの男達も笑いながら、「さぁさぁ餓鬼は帰りな。」と騒いで、海賊の真似をして見せたりした。

私は仕方なく家に帰った。

しかし、家に帰ってからアンは異変に気付いた。

妙な明るさに違和感を感じ、窓の外を見ると、あちこちの家から炎が出ていて、人々は服がはだけたり、あるいはほぼ裸に近い格好で「海賊だ!!」と叫びながら逃げ惑っていた。

アンは両親達が騒いでいる隙にこっそり家を飛び出し、海岸へ向かった。

そう。さっきの男に会う為に。

海岸へ着くと、誰もいない海岸に小舟だけが残されていて、私はそれに乗り込み、オールを漕ぎ続け、大きな大きな船へと向かい、船から垂れていたロープを使って、こっそり乗り込んだ。

アンは船長室らしき部屋に入り、テーブルの下に身を潜めた。

1時間ほど経って、男達が戻って来た。

部屋の外から「見ろ。こんなにたくさん金貨が手に入った!」「林檎もあるぜ!」と男達の声が聞こえてくる。

私はテーブルの下から出て、ソファーに腰掛けて、テーブルの上にあったラム酒を手に持ち、近くの棚の上にあったピストルも持って船長が入ってくるのを待った。

しばらく待つと、扉が開いてあの男が入って来て、私を見ると驚いた顔で目を丸くして、右手で私を指差し、「それ俺のラム酒とピストル…」と少し裏返った声で言った。

アンは少し大人っぽく「驚いた?」と聞いた。

男はゆっくりとこっちに歩み寄って来て、私の隣に座ると、「実に驚いた。まさかお嬢さんが船に乗り込んでるとは。それより、まず俺のラム酒とピストルを返せ。」そう言うと男は手を差し出した。

アンはまた大人っぽく「返してあげるには条件があるわ。」と言った。

男は少し目を細めて「条件?」と聞いていた。

アンは大人っぽく答えた。

「私を妻にすること。」

男はため息をつくと、懐に隠していたピストルを私に向けて「俺は海賊だ。海賊に妻は要らない。」と言った。

私は震える手でピストルを男に向け、震える声でこう言った。

「私は料理も出来るし、洋服だって縫えるわ。この船にいたらあなた達にとっては悪くない話だと思うけど?」

男はため息をつくと、「仕方ない。」と言って、ピストルをしまうと、立ち上がり、「妻になるのも、料理をするのも、服を縫うのも勝手にしろ。ただし!お前にゃお宝もやらないし、贅沢もさせない。わかったか?それと帽子とピストルを返せ。」

アンは素直にピストルと帽子を返して、ふと名前を聞いていないことを思い出して「あなたの名前は?」と聞いた。

男は顎髭を整えながら答えた。

「キャプテン ブラックだ。」


三年後のある日、船はバハマの港に停泊した。

アンはブラックを探しに、居酒屋に入った。

すると店の奥に、泥酔したブラックがいて、知らない女とキスをしているところを見てしまい、私の気持ちは一気に冷めてしまった。

アンはやけ酒を飲む為に違う居酒屋に行き、普段飲まないラム酒を何杯も飲んだ。

その時、横に奇抜な格好をした優男が座って、「俺にもラム酒を一つ。ああ、あと隣のお嬢さんにも一つ。」と注文したので、アンは何故か腹が立って、「何よ。私を笑いに来たの?」と聞いたら、男は笑って、「いや、あんたを口説きに来たんだ。」と言ったので、アンは妙にドキドキしてしまって、それからと言うものその男の口説き文句ですっかりその男に恋をしてしまった。

その男の名はジョン・ラカム。元海賊だった。

ある日、ラカムが海賊業に戻ると言うので、ついていこうとすると、「掟で女は船に乗せられないことになっている。」と言われたので、アンは男の格好をして、ラカムの妻となって、海賊として乗り込んだ。

それからラカム達はカリブの海で商船や漁船を襲いまくった。

そんなある日、一隻の商船の捕虜に顔立ちの整った優男がいたので、アンは一目惚れしてしまい、「あなたいい男ね。気に入ったわ。」と言うと、その優男は気まずそうに答えた。

「私は男の格好をしていますが、実はこの商船に乗せてもらい、西インド諸島に向かおうとしていたただの女です。」

「女?その格好で…?」

私がそう聞くと、メアリと名乗るその女は今まであったことを私に話してくれて、その後私達は意気投合した。

だけどラカムはそれを面白がらなかった。

ラカムはメアリへ歩み寄り、「女だと言うのなら服を脱いでみろ。もしこの俺に嘘をついて俺からアンを奪おうとしているのならこの場でぶち殺すぞ」と言ったので、メアリは慌てて腕を捲り上げ、女らしい腕を見せつけ、「殺したいなら殺せ。この海賊!」と言い放ったので、ラカムは逆に面白がって、以後メアリを主力として側におき、私は銃の名人として、メアリはカットラスという短刀の使い手として、海賊達の中で名を馳せた。

メアリが35歳の時、海賊達はメアリを取り合って何度も争った。

ある日、メアリのお気に入りの優男とある海賊がメアリを取り合って決闘しようとしていて、まともに闘ったら負けてしまうと思ったメアリは相手の海賊を夜のうちに呼び出して、短刀で一刺しにしてしまった。

決闘の日、優男が決闘の場に着くとそこには既には海賊が骸となって横たわっていた。


メアリが36歳、私が20歳のある夜、ラカム達が酒盛りをしている最中に突如賞金目当ての海賊狩りが圧倒的な数で私達を襲って来た。

私達は奮戦したが、ラカム達はあまりの敵の多さに船倉に逃げ込んでしまったので、アンとメアリはたった二人で敵に立ち向かっていった。

「死ね!海賊!!」

メアリは敵が振り下ろしてくる剣を、短刀で受け止め、すかさず敵の腹に蹴りを入れると、よろけた敵を短刀で突き刺し、海の中へと敵を落とした。

アンも襲ってくる敵を次々と打ち倒していたが、突然、背中に衝撃が走り、気付いた時には男達に羽交い締めにされ、押さえつけられ、銃を取り上げられていた。

メアリはアンを助けようとこちらに向かって来たが、メアリもまた敵に押さえつけられ、短刀を奪われてしまった。


私達は捕まり、ラカムはジャマイカで有罪判決が下され、死刑になった。

ラカムは死刑の直前、妻である私に会うことを許され、アンと面会した。

アンは敵に捕まったあまりの悔しさに「あんたが最後まで男らしく戦っていたなら、犬のように吊るされることはなかったのに!!」とラカムを罵った。


その後、メアリは妊娠を理由に死刑を免れ、アンは安堵したが、しばらくして病気にかかり、死んでしまった。

私は死刑を望んだが、父が保釈金を払った為、死刑になることはなかった。


数年後、アンはジョセフ・バーリーという男と結婚して8人の子供を設けた。

「ねぇねぇお母さん!海賊の話して!!」

ある日、息子がそう言ってきた。

アンはまたかと呆れながら話をした「いい?海賊ってのはね腕っ節の強さと勇気で海で強さを競い合うのよ。でも、海賊にはロクな男がいないわ。どいつもこいつも酒に溺れ、女に溺れ、敵が来たら船倉に逃げ込む弱虫ばかり。でもね、一人だけ勇敢で腕っ節の強い海賊を知ってるわ。」

息子といつの間にか話に聞き入っていた娘は「誰?」「ねぇ!誰?」としつこく聞いて来た。

アンは自慢気に言った。

「メアリ・リード。どの海賊よりも勇敢に闘い、最後まで誇りの為に敵に立ち向かった女海賊よ。」

息子と娘は「すごーい!!」「かっこいいー!」と言いながら、目を輝かせて、口を揃えて「私も海賊になれる?」「僕も海賊になれる??」と聞いてくるので、アンは二人にこう言った。

「やめときなさい。海賊なんて欲と金と女に溺れた汚い生き物よ。ロクな男がいないわ。でも、そうね。もし海賊になるのなら…」

アンは一呼吸置いて力強く言った。

「メアリ・リードのようになりなさい!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編としてまとまり、二人には欠かせない要点(エピソード)も抑えていて、読み応えある歴史時代小説でした。 [一言] 何の話かと思えば、メアリ・リードとアン・ボニーではないですか! ヒストリー…
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