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玉蜀黍  作者: monkey_s63
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あの夏の日、一度止まった時間が、違う歯車がはまって動き始めた。

耳鳴りかのような蝉の声。

民家の奥から聞こえる風鈴。

田んぼに勢いよく流れ入る用水。

風に触れ合うトウモロコシの葉。

高校野球のラジオ中継。

風に揺れるトウモロコシの葉が見え始めた頃、ラジオの音が聞こえた。

高校野球のラジオ中継だった。


通学路にあったその畑には、

いつもラジオが流れ、いつも同じ人がいた。

小学生の自分になど気付いてもいないかのように、

黙々と仕事をしていた。


夏休みに入り、自分の背丈をみるみる追い抜いたトウモロコシ。

吹奏楽の演奏や声援が近づいて、また遠のき始めた。

トウモロコシに隔てられた数メートル先。

その人がいた。


眩しそうに空を見上げる横顔。

真ん中の突起を避けながら汗が滴る丸太のような首。

黒く日焼けしたゴツゴツとした腕。

白いランニングシャツが張り付く、分厚く盛り上がった胸と背中、そこから少し膨らんだ腹。

その少し下から伸び手で掴まれている、太く長く黒いもの。


その全てに、時間が止まった。

風が止み、蝉の声が消え、

ラジオの音だけが聞こえた。


握られているものの先端から光る滴が落ちた。

その眩しさで、また時間が動き始めた。

口の中がカラカラで、喉がヒリヒリした。

胸のあたり熱く、苦しかった。


家に向かって走った。



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