番外編 無防備誘惑 side日下部
ブログ転載。
しっかし、この炎天下の中良く走れんな。
外は相変わらず雨の気配すらなく、ひらすら太陽が照らし続けている。
俺はそんな外とは対照的にクーラーのきいた教室で、ソーダーアイスに齧りつきながら、グラウンドで走るサッカー部や陸上部を見ていた。
すると、後ろからため息を吐くのが聞こえてきた。
珍しいな。あいつがため息なんて。
振り返ると海の奴が机に頭を抱え、うな垂れているのが見えた。
「何で夏なんてあるんだよ」
そう吐き捨てると、またため息を吐きだす。
珍しく愚痴っぽく吐き出したあいつのその言葉には、たしかに同調する。
俺は暑いのは嫌いだか、クーラーのような人工的な空気もあまり好きではない。
その為、一番過ごしやすい春や秋が一番好いている。
「んだよ、海。夏バテか?」
「違う。桜音が……」
「逢月?」
「あぁ。ここんところ暑かっただろ?桜音が家でショートパンツとかキャミソールとか履くんだよ……。しかも風呂あがり。桜音は俺が男だって忘れてんのか?」
それか。
まぁたしかに、生き地獄だよな。
自分の好きな女がそんな格好でウロウロしてて、手出せないなんてよ。
ったく、逢月ももうちょっと気ぃつけろ。
どんだけ鈍いんだよ。
「このままだと、誘惑に負けそうだ」
「んなら、夏の間だけ実家帰れよ」
「そんな事したら、桜音の無防備な姿が見れないだろ!!無防備な桜音も可愛いんだよ。それに、一人暮らしなんて桜音には危険だ」
たしかに危ないかもしれねぇけど、一人暮らしをしている女なんていっぱいいるぞ。
それにこいつが逢月の家に引っ越した時、セキュリティ会社と契約して機械とか取り付けて貰ってるはずだ。
なんでも自分が留守中の、逢月が心配だからって。
「んじゃあよ、見慣れればいんじゃね?」
「は?見慣れる?」
「あぁ。俺が今度逢月の水着姿写真撮って来てやるから、もうちょっと待ってろって」
キャミソールやショートパンツより露出が多い水着姿を見慣れれば、そんな気にならなくなるんじゃねぇ?
水着の方が露出が多いしな。
さすが、俺。良いアイディアだ。
「おい」
「は?」
ナイスなアイディアなのに、海の声は低く冷たかった。
「なんでお前が桜音の水着が撮れるんだ?」
「んなもん、夏休みに一緒に海に遊びに……――あ」
やべぇ。逢月に口止めしてたくせに、自分からしゃべっちまった!!
おそるおそる海を伺うと、案の定眉を上げ目を吊り上げていた。
こいつは逢月の事に関すると、器が小せぇ。
そのため、しばしば嫉妬している。
海に行くのは俺だけじゃねぇのに!!
藤原だって水谷だって佐々木だっているっうの。
それに俺は逢月に誘われた方なんだ。
「ちょっと、話しあおう。っうか、今回は見逃せ。代わりに、逢月から抱きつかれる方法教えてやるから!!」
「……桜音から抱きつかれる方法だと?」
海は怪訝そうな顔でこちらを見ている。
よし、話が逸れたぞ。
「定番かもしんねぇけど。逢月よ、ホラーがダメなんだよ。そのくせ怖いもの見たさで、そういうテレビや映画を見ちまうんだと。ホラー映画でも借りて見てみれば、怖がってくっついてくるというわけだ」
許せ、逢月。
元はといえば、お前が原因だ。
「桜音が、怖がってしがみ付いてくる……ありだな」
その後、海がレンタルショップに行ったのは言うまでもない。