表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
合鍵  作者: 歌月碧威
91/112

桜音風邪を引く3 side 海

一体、何処の病院に行ったんだ……?

階段に座りながら、いつ開くかわかない玄関の扉を見つめる。


俺が保健室に行くと、もう桜音の姿はなかった。

戻って来た保険医に話を聞いたところ、桜音の熱が高かったため、

すぐに付き添いの涼とタクシーで帰宅したそうだ。

どうやらその報告をしにきていたらしい。

それを聞き俺も急いで早退して帰宅したが、二人の姿はなかった。

おそらく病院に直で行ったのだろう。

肝心の病院を探そうにもかかりつけがわからないし、携帯も繋がらない。

そのため、現在自宅待機を余儀なくされている。


しかし、遅い。

腕時計を見ると、二時間はゆうに超えていた。

時計の針が進むごとに嫌な不安ばかりが募り、心配でたまらない。

病院が混んでいるのか、それとも――


……やっぱり探してみるか。

玄関の扉に手をかけようと手を伸ばすと、玄関の鍵が勝手に開いた。

もしかして……――

たまらずあっちが扉を開ける前に扉を開けると、想像通り桜音と涼が立っていた。

桜音は涼に支えられるようにして立っていて、二人とも目を大きく見開きこっちを見ている。

まさか俺が居るとは思ってもいなかったのだろう。

無理もない。普通なら、今は授業中のはずだ。


「…か…い……?」

首を傾げる桜音は、いつもより顔が赤く汗ばんでいる。

熱があるからやっぱり寒いのか、長袖のバスケ部のジャージを着ていた。

ジャージは桜音には大きすぎるらしく、全体的にぶかぶかだ。


「大丈夫か?」

なんの事だかわからなかったのか、桜音はきょとんとした顔をしている。

「具合はどうなんだ?」

「……うん。お医者さんに見て貰ったし、お薬も飲んだから。ねぇ、海どうしてここにいるの?学校は?」

「詳しくは後だ。それより部屋に行こう。ここだと休めないだろし」

くわしく聞きたい事とかあるが、ここで立ち話をしても桜音の体に悪い。

詳しい事は、後で涼にでも聞くか――

俺は桜音を抱きかかえると、桜音の部屋へと運んだ。










「だから俺がやるって言ったのに」

「……。」

涼は絆創膏だらけの俺の指とまな板の上にある物体を見ながら、深いため息を吐きだした。

涼の視線の先にあるのは、酷い剥かれ方をした林檎の皮の残骸。

その剥きから方だと、実はかなりやせ細っている事は簡単に想像ができる。

しょうがないだろ、初めてだったんだから……


「一応出来たんだからいいだろ」

ガラスの器を涼に見せる。

そこには摩り下ろされている林檎が入っていた。

あんな剥き方したから、量が少ないけど。


「まぁ、確かに。でも、皮捨てるなよ。もったいないから後で俺が食うから」

「……わかった」

「じゃあそれに蜂蜜かけて上に持って行ってくれ。俺は洗濯物干してくるから」

「ああ」

俺はキッチンから出て行く涼の背中を見送った。


涼は住んでもいないのに、この家の事をよく知っている。

氷まくらの場所や、毛布のしまってある場所とか。

何処にしまってあるかわからない俺の代わりに、涼はそれを準備してくれた。


それだけじゃない。涼は、桜音の事も良く知っていた。

具合悪くて食欲無い時には、林檎のすりおろした物に蜂蜜をかけたやつなら食べるとか、

おかゆ派じゃなくうどん派だとか……

「付き合い長いし、桜音風邪引いた時何度も看病してたからな」と涼は笑っていたが、こっちとしてはへこむ。


だってそうだろ?俺がやった事と言えば買い物と。この林檎の皮を剥きぐらいだ。

他の事は俺がやる前に涼がテキパキとやってしまっている。

その林檎の皮むきすら、まともに出来ていない。


――なんて俺、使えないんだ……

ため息を吐きながら、俺は階段を昇り桜音の部屋へと向かった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ