桜音風邪を引く2 side海
外の暑さに比べれば、教室の中はクーラーがかかっていて快適だ。
昼休みも終わり、腹も膨れたところで眠気もやってくる。
その上授業があいつの苦手な英語とくれば、安眠できる要素はそろっていた。
寝るならそんな堂々と寝るなよ……
俺は若林が読み上げる英文を聞きながら、斜め右の方向を見ている。
若林は俺らの英語の担任で、桜音のクラス担任だ。
髭を生やし、体系はかなりの大型。
桜音は「クマさんみたいで可愛い」って言っている。
何処をどう見たら、クマに見えるんだろうか。
ただ、ちょっと桜音に可愛いって言われる若林が羨ましい。
あいつは、もう少しバレない寝方は出来ないのか。
そいつは机にうつ伏せになり、読み上げられている英文を子守唄代わりにして寝ていた。
西野はもっとうまく寝ているぞ。
教室のドア側の一番前席の西野は、教科書を見ている振りして寝ている。
「ではこのページの訳を各自やってあると思うので――在原」
指されたのでノートを持って立ちあがろうとすると、先生によって手で制されてしまう。
「在原と思ったが、日下部。日下部香織」
やっぱ気づくよな。
呼ばれた上に皆の視線を集めているのに、日下部は一向に気づかない。
おい、起きろよ……
隣りの奴が起こす前に、若林が教科書を丸めて頭をはたいてしまった。
「痛ってぇ」
頭を摩りながらあいつはバッと起き上ると、現状を一瞬にして理解したようだった。
「どこっすか?」
「教科書、56ページの訳」
「はぁ!?訳ってこれ英語っすよ?んな、海じゃねぇから急に訳せって言われても、俺が訳せるわけねぇっしょ」
「急じゃない。この間の授業で課題として前もって言っておいただろうが」
「え~、俺居ましたっけ?」
「居ただろうが!!ったく、お前は少しはちゃんと真面目に授業受けろ。あと、西野!!お前も起きろ」
やっぱバレてたのか。
西野は急に名前を呼ばれたため、飛び起きてしまった。
「お前ら、そんなに俺の授業は暇か?」
これから説教が始まるって時に、ドアを叩く控え目な音が聞こてきた。
「若林先生」
ドアが開けられ、白衣の女性が入って来た。
あれは……保険医の高橋だ。
「今、少しよろしいですか?」
「あ、はい。どうなさったんですか?」
若林はドアの方へと向かう。
その後若林と高橋先生は何かを話しているらしいが、俺の席までは聞こえない。
「マジで!?んで逢月さん大丈夫なの!?」
――は?桜音!?
俺には関係ないと思っていた会話が、どうやらそうでもなかったようだ。
西野の声によって、見ていた空からドアの方向に視線を移動させる。
「お前な……」
「聞き耳立ててたとかじゃなくて、たまたま聞こえたんですって。それより、大丈夫なんですか?倒れたって」
――……倒れた!?
勢いよく立ちあがったため、イスが倒れる音と共に教室中の視線が集まったが、それどころじゃない。
「どうした、在原……?」
皆怪訝そうに見ているが、唯一わかっている日下部だけは違った。
「具合悪いので保健室に行きます」
「ああ、行って来い。大丈夫か?お前顔色悪いぞ?」
「あの、でしたら私が保健室に……」
「あ、そうですね。丁度よかったな、保険医の先生ここにいて。では、高橋先生、在原を保健室に――……って、在原!?」
先生が何か言っているが、どうでもいい。
それより桜音だ。
俺は全速力で保健室へと向かう。
だが俺が行った時には、桜音はすでに保健室には居なかった。