第二話 いざ尋常に勝負!!
「なんで急にスピード速くなってんの!?」
「さっきアイテム取ったから」
「ずるい!!」
「そういうゲームだから」
「なら、私も――」
あ、クラッシュ。やっぱ話しながらするとダメだ〜。
私と在原はコントローラーを手に、只今テレビ画面と睨めっこ中。
二人残され気まずさに耐えきれなくなった私は、何を思ったかゲームをしようと在原に声をかけてしまったのだ。
しかもゲームはありがちな、カーレースのやつ。
あれなら、難しい操作とかしなくても大丈夫だしね。
「忘れてないだろうな?桜音」
「うん。でも勝負はまだついてないよ」
思わず、コントローラーを握る手に力が入る。
絶対負けないんだから。
だって、負けたら――
「俺の勝ち」
画面を半分に分け両手をあげバンザイをしているキャラクターと、膝をついている対照的なキャラクターが映し出されている。
あのクラッシュが痛かったのか、それとも私の腕が悪かったのか大差で負けてしまった。
「桜音、覚えているよな?」
何が?とはまさか言えないよね。
うん、覚えてるよ。だから、負けたくなかったんだもん。
「……負けた人は、買った人の言う事をなんでも聞く事」
「はい、良くできました」
そう言って、頭の上に手を乗せられグシャグシャにされる。
私と在原はただゲームをするのはつまらないから、賭けをする事にしたのだった。
それは敗者が勝者の言うことを無条件で呑むというもの。
「言っておくけど、高いのとか駄目だからね」
何奢らされるのだろう。
今バイトしてないから、お小遣いあんまないから高いのだと無理……
「物じゃないから」
物じゃないって事は、何?
想像が出来ないので思わず首を傾げたると、在原はふっと笑った。
「今度から俺の事、名前で呼んで」
「無理」
これにはさすがに即答で答えた。いきなり慣れてもいない人を名前で呼ぶなんて出来ない。
「負けた人に拒否権ないし」
「無理だってば!!」
「涼やあの女男の事は名前で呼んでるのに、なんで俺は呼べないわけ?」
在原はしかめっ面でこっちを見てる。
「ちょっと、女男って千里ちゃんの事じゃないでしょうね!?」
「今は女男の事なんてどうでもいいんだよ」
「よくないってば!!」
「なんでそんなにムキになんの?」
千里ちゃんは女顔の事を酷く気にしている。
羨む美貌で学園三大美女に入った事も本気で嫌がっていた。
男が女みたいって言われても嬉しくも何ともないって……
「とにかく、そういう事言わないで」
ゲームでなんとか沈黙から逃れたはずなのに、さっきとは一遍重苦しい空気に包まれる。
う、どうしよう。重すぎる。
沈黙とかそういうの苦手な私には、この場所は居にくい。
逃げたい。今すぐこの部屋から脱出したい。
逃げたとしても、この不安定な状況が変わる事はないけれども。
そんなときだった。機械的な音楽が二人の間を流れ始めたのは。
「誰か来た」
来客を告げるメロディに促されるように、不機嫌気わまりない奴を置いて玄関へと足を向けた。
「はい」
ガチャっとドアを開け放つと、朗らかな光が出迎えてくれた。
そこに立って居たのは、もう見慣れて人物だった。
外の天気と同じぐらいあったかい空気を纏った人。
「よっ桜音。一人で寂しがっていると思ってさ。あとこれお袋から煮物だってさ」
「涼〜」
安堵感から思わず涼に泣きついてしまった。
昨日学校で会ったばかりなのに妙に懐かしい。
やっぱ気心しれた人は落ち着く。
「なんだ、やっぱ寂しかったのか?」
「ううん、違う。もう空気が重くて仕方なかったの」
「換気でもしたらいいんじゃないか?」
いや、そういう意味じゃないんだけど。まあ、いいや。
知っている人が来てくれたからか、私の心はすっかり落ち着いて平静を取り戻していた。
「ありがとう、おばさんにもお礼言っておいて。あっ、上がってってお茶でも入れるから」
涼に入るように促して、玄関で靴を脱ぎかけていた時に気づいた。
忘れてた。この現状を。
これってまずくない?
たしかリビングには――
「桜音?」
一人思案に暮れドアに手を掛けたまま動かない私を、怪訝そうに涼が様子をうかがっている。
「ごめん、今散らかっててさ。ちょっと待ってて」
玄関で涼に待ってもらって、リビングへと急いだ。
いくら涼でも、この事がバレるわけにはいかない!!