番外編 桜音風邪を引く1 side桜音
ブログより転載です。
遮断された教室の外からセミの鳴き声が聞こえてくる。
それは窓を閉められて遮断されている室内のせいなのか、そともズキズキと痛む頭のせいなのか、耳に届くのが酷く鈍い。
どうしよう我慢できなくなってきちゃった……
黒板に書かれてある数式を写す手を止め、半袖から伸びている腕を摩る。
――寒い。
周りを見回してみると、三、四人だけクーラーが直に当たる人達は防寒の為に長袖ジャージを着ている。
頭も痛いし、もしかして風邪ひいたかも。
私も長袖のジャージを羽織りたいけど、ロッカーに置いてないから羽織るものがない。
……うぅ。寒い。あと何分?
黒板の上にある時計を見ると、授業終了まであと残り大体15分ぐらい。
あ~、時間微妙。
私は少し考えると授業を継続する事にし、シャープペンを握りなおして続きを書こうと黒板を見る。
このまま授業が終わってから保健室に行こうっと。
すると、右側から「先生」と呼ぶ声が聞こえてきた。
教壇に立ち教科書を開いていた数学の西川先生は、その声に顔を上げ、
声の方向を見る。
その視線を追うように一斉にみんなの視線が向いているのは、私の三つ隣りにいる涼の席。
「どうした、水谷」
「保健室に行ってもいいですか?」
涼はそんな視線を気にもせず、口を開いた。
え、涼も具合わるいのかな?
「それはかまわんが、どっか具合でも悪いのか?」
「いえ、俺じゃなく――」
涼の視線がゆっくりと私に向けられる。
ん?どうしたんだろう?
私は首を傾げた。
「桜音、具合悪い時は我慢するなって言ってるだろ?」
涼はそう言うとため息を吐いた。
だって大丈夫だって思ったんだもん……。
「なんだ逢月、お前具合悪いのか?」
「はい。頭痛が……」
先生の問いかけに返事をすると、周りから「水谷すげぇ何でわかったんだ!?」とか「さすが!!」なんて声が聞こえてきた。
周りの人が具合悪そうに見えないって事は顔色とか普段と変わってないのかな?
しかしほんと涼ってすごいから不思議。
だっていつも私が具合悪いのとかわかっちゃうんだもん。
「なら、念のため保健室に行って来い。テスト前で夏風邪なんてひいたら大変だ」
「はい」
教科書とノート、そしてペンケースを机の端に片付け、立ち上がった。
――やばっ。
足元がぐらつき、ガタンという音と共に床の上に座り込んでしまう。
どうしよう。足に力が入んないよ……
「桜音!!」
「桜音さん!?」
みくと千里ちゃんの叫ぶような声がぼーっと聞こえる。
「大丈夫」
一応安心させるために言ってはみたけど、正直しんどい。
自分で思っているより、以外と重症みたい。
やっぱ熱あるのかも?
熱いように感じないんだけどな~。
おでこに手を当てている私をよそに、教室内がざわつき軽く騒動となりかけてしまっている。
「だから無理するなって言ってるのに」
「わっ」
涼の声と一緒に急にひょいっと体が宙に浮き、床から離れてく。
「あ、お姫様だっこだ」ってわかった瞬間、周りから「羨ましい!!」「私も!!」とかいろんな女の子の声が聞こえてきた。
涼にお姫様だっこされて運ばれるのは、初めてじゃないけど、すっごく恥ずかしい。
「桜音さんなら、僕が運びます」
千里ちゃんが、手を伸ばし涼から私を受け取ろうとしたけど、涼は「いいよ。俺が運ぶから」
と言って千里ちゃんの申し出を断ると、歩き出す。
「……ごめんね、涼」
「気にするな」
温かい。人の体温ってこんなに温かいんだ~。
涼の体温で暖をとりながら、私は目を瞑った。