第三十七話 いきなりプロポーズっ!?
「とにかく、俺はお前と桜音の同居も交際も一切認めない」
腕を組んであぐらをかいているお兄ちゃんは、テーブルの向こうに対面するように座っている海を睨みながらそう言った。
はっきり言って今のお兄ちゃんに威厳は感じられない。
私も香澄義理姉ちゃんもあきれ顔でそれを見つめていた。
まじめに今回の事について話を聞いているのは、海だけ。
だって、お兄ちゃんってばさっき――
「警察と警備員にさっき怒られていたくせに、何恰好つけてんのよ。まったく。桜音ちゃん達を覗くために自分の家の塀をよじ登るなんてバカな事してくれたおかげで、桜音ちゃんと海君にまで迷惑かけちゃったじゃないの。まず謝りなさいよ」
お兄ちゃんの隣りでは、香澄義理姉ちゃんが冷めた目でお兄ちゃんを突き刺している。
そうだよ~。香澄義理姉ちゃんの言う通り。
さっきあのセキュリティの警報をならした犯人は泥棒なんかじゃなくて、お兄ちゃん。
私達が二人っきりなので、如何わしい事してないかと思ったらしく、中の様子を伺うために塀をよじ登ってこっそり侵入を図ったんだって。
「俺はただ桜音の事が心配だっただけだ!!大体なんでうちがセキュリティに加入してんだよ!?俺は知らされてないぞ!!」
お兄ちゃん、それやつ当たりじゃんか。
はぁ~、海の前なのに……
私はちらりと海を見た。
海、呆れてないかな?
「いろいろご報告が遅れてすみません。それはここに引っ越して来る時、俺が入れたんです。もちろん、前もっておじさんとおばさんの許可済みです」
「俺は聞いてないぞ」
「すみません。桜音の身に何かあると心配なので、対策はちゃんとして置きたくて入れさせて頂きました」
「……じゃあなんだ。セキュリティーに加入したのは、桜音のためだと?」
「はい」
その海の言葉に、お兄ちゃんは口を噤んだ。
あ、大人しくなった。
さっきまで騒がしかったのに。
「お兄さん」
「お前のお兄さんじゃない。俺は桜音のお兄さんだ」
海の問い掛けに、お兄ちゃんは良く使われてそうなそんな台詞を吐く。
お兄ちゃんは眉間に皺を寄せながらも何か考えてるみたい。
「では、那智さんと。桜音さんとの同居と交際を認めて下さいませんか?桜音さんの事は必ず大事にします。
桜音さんは可愛らしくて俺には勿体ない子ですが、彼女に釣り合うように俺努力しますから」
「海、違うよ。逆だよ、逆!!私が海に釣り合うように努力しなきゃならないの。
だって海、カッコイイし優しいし、頭も良いし。私とは違うもん」
誰が見ても釣り合わないのは一目瞭然だ。
可愛いわけじゃない平凡な私と、王子様のような海。
そんなの比べるまでもない。
「お兄ちゃん。私ね、正直お付き合いって事がまだ良くわからなくて、戸惑うし不安な事とかもいっぱいあるんだ。
でも海の傍にいると、幸せなの。海に名前を呼ばれたり何気ない事が嬉しいの」
私はお兄ちゃんに対して、微笑んだ。
きっとお兄ちゃんだってそう。
香澄義理お姉ちゃんがいるんだもん、わかってくれる。
「だから、海との事認めて」
「……同居は絶対に認めない」
「お兄ちゃんっ!!」
私は思わずテーブルに身を乗り出す。
「桜音、頭を冷やしなさい。もし、この件が学校側にバレたらどうするんだ?まだ他の家族が同居していれば理解できるが、二人っきりというのは問題じゃないか?
今まで見つからなかったかもしれないが、今後はわからない。事情も知らないような奴らに、お前が誹謗中傷されるかもしれないんだぞ。
それに学校側がどう出るかもわからないんだ。お前は桜音が大事ならわかるよな?」
お兄ちゃんは海を射る様に見つめる。
その視線にぶつかった海の瞳がゆらゆらと揺れ動く。
まさか海、お兄ちゃんの意見に賛成するわけじゃないよね?
「お前がセキュリティを入れて対策を打ったように、桜音のために対策は打たなきゃならないんじゃないのか?傷つくのは桜音だ」
「平気だもん」
「……桜音、ごめん」
海は私の方を見ると、眉を下げ辛そうにそう呟く。
その声はか細く弱い。
「桜音さんとのお付き合いの方は認めて頂けるんですよね?」
「それは考えてやらないでもない」
「わかりました。俺が出て行きます」
「海っ!!なんで!?」
なんで勝手に決めるの?
「桜音。俺も桜音と一緒に暮らしたい。でも、那智さんの言う通りだと思ったんだ。肯定的に受け止めるような奴だけじゃない。
おもしろおかしく言うやつも出て来るはずだ。そんな奴らに俺のせいで桜音の事を傷つけられたくない」
「大丈夫だもん。バレないように頑張るから!!」
私はすがるように、海にしがみ付く。
「桜音。バレないように頑張るって、そんな気はった生活毎日続けるのか?疲れるぞ」
「疲れても良いもん。私は、海と一緒に居たい。お兄ちゃん、変な事言わないで!!」
「じゃあ、そんな疲れる生活こいつにもさせるのか?」
「――っ」
お兄ちゃんは、視線を海に向ける。
そんな生活海にさせたくないよ。でも……
どうしていいかわかんなくなっちゃって、頭の中ぐちゃぐちゃになったせいか視界が潤んできた。
泣いても解決なんてしないのに。
「桜音」
海はそう私に声をかけると、そっと膝の上に乗せていた私の手を握った。
「一緒に暮らせなくても、俺は彼氏として桜音の傍に居たい。もちろん桜音との生活に未練はあるよ。
今は一緒に暮らせなくなっても、数年後にはずっと一緒に暮らせる時が来るからその時まで待っていて欲しい」
「数年後……?」
私は首を傾げ海を見上げる。
周りを説得するのに、それぐらい時間がかかるってわけじゃないよね?
「あぁ。桜音と俺が結婚したら、ずっと一緒に暮らせるだろ?」
「うん、そうだね。たしかに結婚したら一緒に――って、けっ、結婚っ!?」
予想もしてなかった単語の出現に、私の声がどもるのは仕方ない。
結婚ってあの結婚だよね。
えっ、ちょっと待って。付き合ってばかりだし、まだ高校生だし!!
「お前、高校生の分際でプロポーズだと!?早すぎるにもほどがある!!それにうちの桜音はずっと嫁にはいかない!!」
「たしかに俺は高校生です。ですが、俺は桜音さんを愛しています。出来る事なら今すぐ結婚したいですが、俺はまだ親に養ってもらっている状態。
なので社会人になって桜音さんを養えるようになったら、その時は正式にプロポーズを申し込んで結婚と考えています」
お兄ちゃんの怒号にきっぱりとそう言ってのけた海を、みんな口をポカンと開けてみた。
それはもちろん、私もだ。
次で合鍵は最終話(予定)です。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました~。
良かったら、次回もお付き合いください(^_^)