Happy Halloween☆ 狼さんの正体は? (後編)
「元気だしなよ?」
「だって……」
ピーターパンやメイドの格好をした人達が騒いでいる部屋の隅で、私は一人うな垂れていた。
魔女の格好をしたみくが励ましてくれているけど、私はオオカミのキグルミの人の事で頭がいっぱい。
あの後先生を連れてオオカミさんの所に向かったんだけど、オオカミさんも先輩もいなかった。
何処かに連れて行かれて、殴られてたらどうしよう。
無事でいて欲しいよ。
元々絡まれてたの私だったのに、巻き込んじゃった……
「桜音。オオカミ探して来たぞ」
「えっ!?」
涼の声に顔を上げると、そこにはドラキュラの格好をした涼とあの時のオオカミが立っていた。
オオカミさんだっ!!
どうやら、涼が探してきてくれたみたい。
「オオカミさん!!」
私はすぐに立ちあがり駆け寄るとオオカミに抱きついた。
ふわふわの生地に体が埋もれる。
良かった~。
「怪我とかしてない!?」
オオカミのキグルミを着た人は、私の問いにしゃべらずにただ首を縦に動かす。
それを確認すると、私はほっと胸をなで下ろした。
「ごめんなさい。私のせいで……」
面倒なことに巻きこんでしまった。
私があそこで掴まらなければ、オオカミさんにも迷惑かけずに済んだのだ。
謝ると、頭をふわふわの手で撫でられる。
気にするなって言ってくれてるのかな?
オオカミさんは背の高い人らしく必然的に上目ずかいになりオオカミさんを見つめると、なぜか頭を撫でる力が強くなってしまう。
あ、そうだ。お礼にこれを――
私はオオカミさんから離れると、手に持っていた籠の中から透明な袋にゴールドの針金で封をされたものを取りだす。
これはカボチャのスコーン。
今日のイベントの為に家で作って来たのだ。
「助けてくれてありがとう。あのね、これお礼。手作りだからおいしいかわかんないけど、良かったら食べてね」
オオカミさんは、つぶらな瞳でスコーンをしばらく見つめる。
そしてゆっくりとそれに手を伸ばし両手で大事そうに受け取ると、首を縦に振った。
「良かったじゃん、桜音見つかって」
「うん」
「ねぇ、このキグルミかなりふかふかしてそうじゃん?演劇部の衣装にしては金かけてるわね」
「うん。ふかふかだよ~。こういう毛布欲しいよね」
私はみくの言葉に、また顔をオオカミさんに埋めギュッとしがみ付く。
するとオオカミさんはお菓子を器用に片手で持ち空いている方の手で私を強く抱きしめ返した。
……う、ちょっと苦しいかも。
「気持ちよさそうじゃん。私にも変わってくれない?」
「うん」
オオカミさんから手を離すが、オオカミさんは私の拘束を解いてくれない。
「オオカミさん。みくも抱きつきたいって」
私がそう言うと、オオカミさんは激しく首を横に振った。
え?ダメなの?
「はぁ!?なんで桜音が良くて私が駄目なのよ!!皮剥ぐぞ!!」
みくの目はすわり、口元は引き攣っている。
……け、喧嘩とかしないよね?
私がそんな事を考えているうちに、みくの手はオオカミさんの頭部へと向かっていた。
それをオオカミさんは阻止せんと、みくの攻撃を避けながら逃げる。
「逃げんな。顔見せろ!!」
逃げるオオカミさんをみくが追いかけて行き、二人はドアを開けて廊下へといってしまった。
ど、どうしよう!?
「みくは魔女じゃなくて、猟師だな」
茫然としている私の横で、涼はかぼちゃプリンを食べながら二人が消えたドアを見ている。
「ねぇ、あれ誰だったの?」
「――赤ずきんちゃんにベタ惚れ中のオオカミ」
「も~、涼。ちゃんと答えてよ!!」
「猟師の天敵のオオカミ」
「言う気ないでしょ……」
その後何度か聞くが、結局涼ははぐらかして答えてくれなかった。
連れて来てくれたから、顔は知っていると思うんだけどな~。
後で戻って来たみくは、途中で見失っちゃったらしい。
結局あれは誰だったんだろう?
答えは闇の中だ。
狼の正体はもちろん海です。
最後まで出てこなかったけど^^;