第三十四話 二人の秘密が知られる時
「桜音。兄ちゃんに黙秘権は使用出来ないってさっきから言ってるだろ。いいかげんに海という男が何処の馬の骨なのか言いなさい」
「いいからお兄ちゃん早く食べたら?せっかくのランチ冷めちゃうよ」
私は隣りにいるお兄ちゃんにそう言うと、オムライスを口に運ぶ。
ん~。家で食べるときはケチャップだから、ドミグラスソースが新鮮な感じがする。
今度うちで作る時も、ドミグラスソースで作ってみようかな~。
「食べるがまず答えなさい。海という男は何処のどいつなんだ」
「も~、しつこい。お昼休み終わっちゃうよ?」
両親には海とお付き合いしている事を電話で報告済みだ。
私は報告しなくてもいいって思ったんだけど、海が……
なんでもけじめとして必要だって思ったらしく、アメリカに行って直接私の両親に話すって言い始めたのだ。
さすがにそこまでしなくていいって思った私は、電話で報告するからと止めた。
あの時はなんとも言えない空気だったんだよね。
海が付き合うようになりましたって話してくれたんだけど、お母さん大喜びだったらしい。
こっちまでお母さんの騒ぐ声が漏れて聞こえてきたんだもん。
そんでお母さんとは反対に、お父さんは絶句だった。
海から電話変わった時、「本当か?桜音はうちの桜音か?」なんてわけのわからない質問されたり、
「涼君は知っているのか?涼君はどうしている?」とかなぜか涼の質問をされんだよね。
その時海と同居している事は「那智にバレるとうるさいから、一緒に住んでいる事は内緒にしておきなさい」お母さんに言われちゃったので言わない。
だから付き合っている事は内緒にするつもりはないんだけど、あまりのお兄ちゃんのしつこさにしゃべる気が失せてしまったのだ。
心配してくれるのは嬉しいけど、ちょっと過保護過ぎるよ。
私だってもう高校生だもん。
お兄ちゃんの後ろにくっ付いていた子供じゃない。
「父ちゃんは、海兄にあいたいの~?」
あまりにしつこかったからか、連都はスプーン片手にお兄ちゃんに尋ねた。
「連都。お前、もしかして知ってるのかっ!?」
「うん」
あ、そうだ忘れてた。連都は海と面識あったんだった!!
日下部君は巻き込まれるのが嫌で、海の事知らないって言ったけど。
「だったら、おじいちゃんの家にいけばあえるよ~。海兄は、桜音といっしょにおじいちゃんの家にすんでるから」
れ、連都。それ、一番言っちゃダメな事……
特徴とか言うかと思ったら、隠し通さなきゃいけない事を連都は言ってしまった。
――ちょっとマズイかもしれない。
おそるおそるお兄ちゃんの方を見ると、目を大きく見開き、口もぽかんと開けている。そりゃあ、そうだと思う。
だってお兄ちゃん、私が同居しているのは女の人だって思ってたんだから。
「一緒に住んでいるだと……?」
次第にお兄ちゃんが纏っていた空気がピリピリとしたものに変わっていく。
あ~、これ絶対にマズイ。
もしかしたら、海に迷惑かけちゃうかもしれないよ――
*
*
*
最悪だ。
潤む視界の中、私は昼にお兄ちゃんと会った事を激しく後悔していた。
「桜音!!開けなさい。帰るぞ」
扉を叩く音と、荒立てているお兄ちゃんの声が聞こえる。
でもお兄ちゃんは絶対に入っては来れない。
鍵はかけてあるから決して入れないはずだから。
絶対お兄ちゃんの所になんか戻らないもん……
私は見慣れた自分の部屋で布団を被り、扉の外から聞こえて来るお兄ちゃんの声を少しでも遮断しょうと試みた。
電気も着けてないため、外から入る光がなく室内は真っ暗だ。
それでも目が慣れたせいか、何処に何かあるかは少しはわかる。
「ここが私の家だもんっ!!」
「兄ちゃんは昼も言ったが、あの男との同居なんて許さない。桜音がうちに来なければ、あの男の荷物は全て業者に引き取ってもらう。そして兄ちゃん達がここに引っ越してお前と暮らす」
「そんな勝手な事しないでよ!!」
お昼に海との同居がバレてから、お兄ちゃんは大激怒した。
よりにもよって私の携帯を取りあげたのだ。
合宿中の海との連絡手段これしかないのに。
その上、海との同居を許さないと、私をお兄ちゃん達のアパートに住まわせるとまで言った。
そんな事したら、海と暮らせなくなっちゃう。
だから私は香澄義理姉ちゃんが帰宅すると、事情を話して予定より早く自宅に帰宅したのだ。
まさか、帰宅して話を聞きつけたお兄ちゃんが来るなんて思ってもみなかったけど。
……どうしよう。
こんな事に海を巻きこんで、面倒だって思われてお荷物になりたくない。